2016年01月22日

原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

16年に入ってから原油相場は下落基調を強めており、WTI先物価格(以下、原油価格はWTI価格を指す)は一時1バレル=26ドル台をつけたほか、1月22日現在でも1バレル=29ドル台と、03年以来の水準で取引されている。米国はシェール革命以降、国内の原油生産が増加しているものの、依然として石油関連商品の純輸入国であるため、原油価格の下落は輸出国からの所得移転となり経済にプラスである。実際、好調な自動車販売など消費に恩恵がみられている。

一方、資源関連企業の設備投資削減により、民間設備投資が押下げられているほか、エネルギー関連企業の株価や社債価格の下落により、米国の資本市場にネガティブな影響がみられる。
本稿では原油市場の動向と価格下落による米国経済への影響について資本市場の動向も含めて概観する。

2.原油市場の動向

(図表2)主要な資源価格(指数化) (原油価格)14年以降下落基調も、16年に入り下落が加速
原油価格は、14年6月に1バレル=107ドル台をつけた後、15年前半に一時的に60ドル程度まで反発する場面があったものの、概ね下落基調が持続している(前傾図表1)。また、下落率は16年に入ってから2週連続で2桁を越えるなど、今般の下落局面で最も早いスピードとなっている。

ガソリン価格も原油相場に連動して下落基調となっており、レギュラーガソリンの全米平均小売価格は、1ガロン=2ドルを割れる水準に下落した。これは09年以来の水準であり、原油に比べると下落幅は小幅に留まっている。

ちなみに、原油以外の資源価格に目を転じると、鉄鉱石や石炭価格も下落基調となっており、10年以降の下落幅でみれば、原油と大きな違いはみられない(図表2)。原油は14年まで相対的に高止まりしていたことから、その後の下落スピードが目立っている。
(原油需給)イラン増産懸念や暖冬により需給の緩和が持続
米エネルギー情報局(EIA)によれば1、原油以外も含めた液体燃料の世界需給は中国経済の減速などに伴い消費が伸び悩む一方、OPEC産油国が減産合意に失敗するなど増産が続いたため、14年以降は生産が消費を上回る状況となっている(図表3)。この結果、在庫が積み上がっており、需給面から、原油価格に下落圧力がかかり易い。

もっとも、16年以降の生産見通しについては、OPEC産油国では増産が持続するものの、米国では16年に減産が見込まれている(図表4)。このため、生産の伸びが抑えられることで、供給過剰は16年末にはほぼ解消される見込みとなっており、中期的には需給面からの下落圧力は緩和が期待できる。
 
(図表3)液体燃料の世界受給および在庫/(図表4)液体燃料生産見通し(地域別変動幅)
(図表5)米国の暖房度日(月別) 一方、足元で下落基調が強まった要因としては、米国の暖冬とイランの増産期待などが挙げられる。米国では12月の全米平均気温が観測史上最高となるなど、東部を中心に気温の高い日が続いており、暖房需要が減退している。

実際、暖房が必要とされる温度(華氏65°、摂氏18℃)を1日の平均気温がどの程度下回ったか示す暖房度日をみると、12月は前年に比べ18%減少したほか、過去10年平均と比べて26%減少した(図表5)。

3月にかけても同様の傾向が持続すると予測されており、今冬の暖房油の消費量は前年に比べて18%減少することが見込まれている2

さらに、1月16日にイランに対する経済制裁が解除されたことを受けて、イランの増産期待が高まっている。年初こそサウジアラビアとイランの緊張激化によって、原油価格が上昇する場面もみられたが長続きせず、地政学的リスクが高まっても中東の生産能力に影響しないとの見方が支配的になっている。前掲図表3の試算時点では、制裁解除時期に対する不透明感もあったことから、イランの増産見込みを16年は0.3百万バレル、17年が0.5百万バレルとしているようだ。同国の余剰生産能力は現状で0.8百万バレル程度あると見込まれており、早期に制裁解除されたことを受けて同国の増産規模が見通しを上回る可能性が高まっている。
 
1 Short-Term Energy Outlook(16年1月12日)
2 Short-Term Energy Outlook(16年1月12日)
(原油価格見通し)16年末44ドル、17年末48ドルを予想
原油価格の変動が大きくなっているほか、世界経済に対する不透明感が増していることから、原油価格の予測が難しくなっている。当研究所では、足元の下落は行き過ぎと考えており、今後の需給改善に伴い、原油価格は緩やかな上昇に転じると予想している。もっとも、原油価格は、16年末で44ドル、17年末で48ドルと予想しており、昨年半ばの水準程度までの反発に留まるとみられる。
 

3.米国経済への影響

(実体経済)マクロ経済全体ではプラス
一般に原油価格の下落は、原油輸出国から輸入国への所得移転となることから、輸入国経済にはプラスの効果がある。米国では、シェールオイルの生産に伴い石油関連の輸入が減少しているため、石油関連の貿易赤字額は11年以降に減少している(図表6)。このため、以前に比べると原油安に伴うプラスの効果は減少しているとみられる。もっとも、原油の輸入量は15年の1-11月で24.1億バレルあり、平均輸入価格は48.4ドル(前年同期:93.0ドル)と5割近い下落となっているため、価格下落による輸入額の抑制効果は1,074億ドル(GDP比0.6%)と、それなりに大きいことが分かる。

また、個人消費への影響をみると、ガソリン・その他燃料の消費額は14年が4,011億ドルと、個人消費全体の3.4%(GDP比2.3%)を占めている。このため、これらの価格が1割下落した場合の所得効果はGDP比0.2%程度が期待できる。ガソリン価格は15年の平均価格が2.43ドルと、前年比で3割弱低下した。現在の2ドル割れが定着する場合には2割弱の低下が見込まれるため、燃料以外の消費に追い風となろう。

さらに、ガソリン価格の下落は好調な自動車販売の要因となっている。ミシガン大学が集計する自動車購入環境指数は、05年以来の高さとなっており自動車購入意欲は非常に強いことが分かる(図表7)。自動車各社は、ガソリン価格の下落により多目的スポーツ車(SUV)の需要が高まっていることを指摘しており、購入意欲の高さは、労働市場の改善や低金利だけでなくガソリン安が影響しているとみられる。米国では消費主導の底堅い成長が持続しており、原油安が貢献していることは間違いない。

 
(図表6)米国の貿易収支(財のうち石油関連)/(図表7)自動車購入環境指数と新車販売台数
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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