2016年01月19日

さくらレポート(2016年1月)~景気は改善基調を維持も、先行きは景況感の悪化が鮮明

岡 圭佑

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4.非製造業の業況判断は7地域で改善、先行きは全9地域で悪化

非製造業の業況判断DIは、全9地域中7地域(北海道、東北、北陸、東海、中国、四国、九州・沖縄)で改善し、2地域(関東甲信越、近畿)で横ばいとなった(図7)。非製造業は製造業に比べ外需依存度が低いため、中国など新興国経済の減速によるマインド悪化は避けられたようだ。業種別では、訪日外国人旅行客による旺盛なインバウンド消費が小売などを中心に景況感の改善に寄与したとみられる。景気ウォッチャー調査のコメント(小売)では、中国の景気減速やそれに伴う株安への懸念が高まるなか、百貨店などでは訪日外国人客の増加を景況感改善の理由に挙げる声が多く寄せられている。

前回調査からの改善幅は、九州・沖縄(+6ポイント)が最も大きく、次いで東北、北陸(+3ポイント)が続いている(図8)。九州・沖縄では、電気・ガス(▲8ポイント)が悪化に転じる一方で、運輸・郵便(+15ポイント)や対個人サービス(+10ポイント)が大幅に改善した(図9)。東北では、不動産(+11ポイント)や情報通信(+17ポイント)が大幅改善となったほか、電気・ガス(+10ポイント)が改善に転じた。

先行きについては、全9地域で悪化する見込みである。業種別では、杭打ち不正問題等の影響が建設業や不動産の景況感の下押し要因となっているほか、中国経済の減速を背景にインバウンド消費が細るとの懸念が高まっていることや個人消費が低迷していることなどから、多くの地域では小売の景況感が悪化するとみられる(図10)。最近の景気ウォッチャー調査においても、訪日外国人旅行客の恩恵を享受している百貨店では、中国経済の減速がインバウンド消費に与える影響を懸念するコメントが散見される。
 
図7 地域別の業況判断DI(非製造業)/図8 業況判断DI(非製造業)の変化幅/図9 改善・悪化幅(前回→今回)/図10 改善・悪化幅(今回→先行き)

≪トピック≫ アベノミクス始動後の地域別生産動向

安倍政権発足後、緩やかな回復基調を辿っていた生産は消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響から落ち込んだ後、一進一退の動きが続いている(図11)。地域別の生産動向をみると、足元では堅調に推移している地域と横ばいで推移している地域がみられる(図12)。

まず、全国の生産動向を振り返ると、2014年4月の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要によって大きく押し上げられた後、その反動の影響から4-6月期(前期比▲3.0%)、7-9月期(同▲1.4%)と前期比でマイナスが続いた。その後、2014年度末にかけて持ち直しの動きがみられ、2015年1-3月期には消費税率引き上げ前(2013年10-12月期)の水準を回復したものの、4-6月期(前期比▲1.4%)、7-9月期(同▲1.2%)と2期連続の減産となった。この間、地域別の生産動向をみてみると、北陸、東海、中国の3地域で堅調な動きがみられた。一方、北海道や関東などは総じて他の地域に比べ低調に推移し、足元では消費税率引き上げ前の水準を下回るなど、安倍政権が発足して以降各地域の生産の推移にはバラツキがみられる。
図11 鉱工業生産指数の推移/図12 地域別鉱工業生産指数の変化率(2012年10-12月期→2015年7-9月期)
(北陸、東海では電子部品・デバイスがプラスに寄与)
生産が堅調に推移する北陸、東海について、2012年10-12月期から2015年7-9月期にかけての生産の増減率を業種別に寄与度分解してみると、電子部品・デバイスがそれぞれ3.9%、4.2%と全国の1.2%に比べ高いことが分かる(図13)。

北陸、東海では、電子部品・デバイスの生産の伸び率(2012年10-12月期→2015年7-9月期)をみると、全国は13.0%であるのに対し北陸が34.0%、東海が32.2%とともに高い伸び率で推移し、電子部品・デバイスの付加価値額ウェイトはそれぞれ20.8%、11.0%と全国の8.2%に比べ高い(図14)。これは、電子部品・デバイスが主用途であるスマートフォン向け電子部品を中心に増産傾向にあることが背景にあると考えられる。北陸では電子部品・デバイスなどの産業では、先行きの需要増加を見越して国内での生産能力増強に取組んでいるほか、国内の生産拠点を強化している1。また、2015年3月に北陸新幹線が金沢まで開通し、首都圏や北関東からの時間距離が短縮されたことにより、当地に集積が進んでいる電子部品・デバイスを中心に生産拠点を移す動きもみられている。

そのほか、北陸では化学の寄与度が2.1%(全国:▲0.9%)と他の地域に比べ大きい。北陸では、化学の付加価値額ウェイトが13.5%と全国の12.8%に比べて高いほか、政府の後発医薬品普及政策を受けて増加基調が続いていること2などが背景にあると考えられる。とりわけ、富山県では2013年の医薬品生産金額が8.8%のシェアを占め(全国3位)、鉱工業生産指数(化学)の伸び率(2012年10-12月期→2015年7-9月期)は27.8%と全国の▲17.6%を大きく上回る。

また、輸送機械の付加価値額ウェイトが大きい東海では、輸出比率が高い米国向けを中心に自動車の輸出が増加している3ことなどから(図6・7)、輸送機械の寄与度は1.4%と生産の押上げ要因となっているほか、はん用・生産用・業務用機械や電気機械が堅調に推移している。
図13 地域別の鉱工業生産指数・寄与度分解(1)/図14 地域別鉱工業生産指数の付加価値ウェイト
 
1 日本銀行金沢支店「ほくりくのさくらレポート」による
2 中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局「北陸経済のポイント2014」、富山県厚生部くすり政策課「富山県薬業の概況」による
3 東海3県の金融経済動向による
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岡 圭佑

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