2016年01月18日

インドの生命保険市場(6)-インドの生命保険会社の経営効率や収益性・健全性等の状況はどのようになっているのか-

中村 亮一

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4―健全性等の状況

1|責任準備金の計算基礎
責任準備金の計算基礎については、全社統一の計算基礎率が定められているわけではない。毎年度末決算において、それぞれの会社の状況を踏まえて決定されるため、各社毎に異なっている。ロック・フリー方式1で定められるため、契約毎に毎年の計算基礎率が変化することにもなる。以下では、代表的な計算基礎である、予定利率と予定死亡率の状況について、報告する。

(1)予定利率
個人生命保険(有配当)契約の場合の水準について、各社の状況を見てみると、民間の4社に比較して、LICが相対的に高い予定利率を採用している。

LICの予定利率については、商品毎に異なっており、無配当商品では有配当商品よりも低い予定利率を採用している。これは、一般的に、有配当と無配当のファンドの期待利回りや配当によるバッファー的要素を反映したもの、と説明されているようである。
責任準備金計算基礎(予定利率)2014年度末-個人生命保険(有配当)の場合/ 責任準備金計算基礎(予定利率)2014年度末-LICの場合(個人保険商品毎)
なお、事業年度毎の予定利率の変化については、LICの場合、個人生命保険(有配当)では、ここ5年間同水準で推移しているが、個人年金保険(有配当)では、以下のように引き下げられてきている。
 
責任準備金計算基礎(予定利率)-LICの個人年金保険(有配当)の場合(事業年度毎)
(2)予定死亡率
予定死亡率についても、基本的には、最新の標準生命表である「IALM(2006-08)Ult.」をベースにしているが、これをそのまま使用しているわけではなく、商品毎、性別、年齢別、対象市場毎に異なる調整を行った死亡率を採用している。

その水準や方式についても、各社毎に異なっている。
 
責任準備金計算基礎(予定死亡率)2014年度末-個人生命保険(有配当)契約の場合
なお、LICにおける商品毎の予定死亡率は、下記の図表の通りである。生存保障要素の高い商品等については、低めの割増率や年齢のセット・バックによる割引を行い、死亡保障性の高い商品では、相対的に高い割増率を採用している。
 
責任準備金計算基礎(予定死亡率)2014年度末-LICの場合(個人保険商品毎)
以上のように、予定死亡率については、各社の経験データ等に基づいて、対象とする市場の状況も勘案する中で、各社が合理的・妥当と考える方式で設定されている。

2|ソルベンシー比率(Solvency Ratio)
5社のソルベンシー比率の推移は、以下の通りである。各社毎に絶対水準は大きく異なっているが、各社ともIRDAIが最低基準としている1.5(150%)の水準を上回っている。
 
ソルベンシー比率
3|剰余の分配(契約者配当)の状況
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、2014年度決算に基づいて、2015年度に割り当てられる、保険金増額式配当率については、以下の通りとなっている。
 
契約者配当率-個人生命保険(有配当)契約の場合
なお、この配当率について、LICの養老保険や終身保険(有配当)の場合、ここ5年間は同水準であり、安定的な配当が行われている形になっている。
 
1 責任準備金評価において用いる計算基礎について、契約時に使用したものを固定(ロック・イン)するのではなく、評価時毎にその時々に適正と考えられる計算基礎等で評価する方式

5―EV(Embedded Value)の公表

EVについては、ICICI Prudential、HDFC Standard、Max Life、Bajaj Allianz等の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialとBajaj AllianzがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC StandardがMCEV(市場整合的EV)、Max Lifeが社内で開発したMCEVである。

ここでIEV(Indian Embedded Value)、というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。

これによれば、各社の新契約マージンは13%~24%の範囲にある。
 
インドの生命保険会社のEV(2015年3月末)

6―まとめ

これまで、6回のレターで、インドの生命保険市場を巡る各種の状況を報告してきた。

インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。現在も、2015年4月の保険法の改正を受けて、各種の監督規制の改正が進められている。さらには、国際的な監督規制や会計基準の動向も踏まえて、財務の健全性に関する改革も検討されている。これらについては、その内容が固まった段階等適当な時期に別途報告することとしたい。

いずれにしても、こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。外資出資規制の改正や再保険会社の規制緩和を通じて、外資系保険会社の進出が促進されることで、さらなる生命保険市場の充実が図られ、競争が激化していくことも想定されている。

このようにインドの生命保険市場については、今後もダイナミックに変化していくことが想定されており、その動向は極めて注目されるものであることから、引き続き注視していくこととしたい。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年01月18日「基礎研レター」)

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