2016年01月12日

インドの生命保険市場(5)-インドの生命保険会社のリスク管理はどのように行われているのか-

中村 亮一

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1―はじめに

前回までのレターで、インドにおける保険監督規制のうちの財務関係を中心とした保険監督規制の概要及び最近の動向等について、報告してきた。

今回のレターでは、生命保険会社に求められているALM(資産負債管理)やストレス・テスト等のリスク管理の内容について、報告する。
 

2―ALM(資産負債管理)に関する規定

監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)は、2012年1月に、生命保険会社における「資産負債管理(Asset Liability Management:ALM)とストレス・テスト」に関する通達(Circular)を発行している。これによると、ALMについて、以下のように規定されている。

1|ALMの概要
ALMは、資産及び負債に関して行われる決定や行動が、適当な形で連携されるように、ビジネスを管理する活動である。 ALMは、将来キャッシュ・フローのニーズと資本要件を満たすために投資を行う保険会社の、ファイナンスの健全な管理に関係する重要なものとなっている。

監督当局は、ALMが保険事業の健全な運営に重要な役割を果たしているとして、全ての生命保険会社に対して、アポインテッド・アクチュアリー年次報告書(Appointed Actuary’s Annual Report:AAAR)の第5章において、保険会社によって行われるALM活動の詳細に関する情報を提供することを義務付けている。

2|ALMのガバナンス
保険会社は、取締役会により承認されたALMに関する方針を作成し、この通達の日から90日以内に当局に提出しなければならない。取締役会は、資産と負債の関係、保険会社の全体的なリスク許容度、リスクとリターンの要件、ソルベンシー・ポジション及び流動性要件を考慮して、保険会社のALM方針を承認しなければならない。取締役会は、年末あるいは必要に応じてより高い頻度で、そのような方針を定期的にレビューし、監督当局にAAAR とともにALM方針の変更等を提出しなければならない。

保険会社は、投資活動および資産ポジションが、負債やリスク・プロファイルやソルベンシー・ポジションに対して適切であることを確認するために、資産・負債のポジションを監視し、管理するための効果的な手続きを持たなければならない。保険会社は、この通達の日から90日以内にこの要件への遵守を確認しなければならない。

3|ALM方針
ALM方針は、最低でも、保険会社が、以下のことを可能にするものでなければならない。
 
a)会社がさらされているリスクを理解していること
b)それらを効果的に管理するためのALM方針を策定していること
c)ビジネスの特性や引き受けるリスクや特定/地域の市場状況に適切なテクニックを適用していること
d)特に、保険会社が直面しており、それによって保険会社の資産負債管理戦略の評価を向上させる、金利リスクを測定すること

4|カバーするリスク
保険会社は、資産と負債の調整を必要とする全てのリスクを検討しなければならない。 ALMフレームワークは、経済価値への潜在的な影響という点で重要な全ての領域をカバーしなければならない。資産又は負債のキャッシュ・フローの経済価値は、利用可能な場合には現在の市場価格と一致するような方法、又は市場整合的な原則や方法論やパラメータを使用して得られるものである。これらは以下のようなリスクを含む:

 a)市場リスク
  ⅰ)(市場の信用スプレッドの変動を含む)金利リスク
  ⅱ)株式、不動産及びその他の資産価値リスク
  ⅲ)為替リスク
  ⅳ)関連する信用リスク
 b)引受リスク
 c)流動性リスク

保険会社は、ビジネスとさらされているリスクに適切なALM方針のコントロールと報告手続きを開発し、実施しなければならない。これらは厳密に監視され、定期的に見直されなければならない。

5|監督当局への報告
全ての生命保険会社は、2012年3月に終了する四半期からスタートして、各四半期末から45日以内に、四半期ベースでは、「別添1」による「表ALM(四半期)」の様式で、年間ベースでは、AAARとともに、「表ALM(年間)」の様式で、資産及び負債に関するデータを提出しなければならない。

6|報告内容
(1)「表ALM(四半期)」
「表ALM(四半期)」のデータは、以下を含まなければならない。
・適用される基本割引率(年次評価日において利用可能な利回り曲線に基づく)と、その基本割引率を1%及び2%増加又は減少させた割引率

(2)「表ALM(年間)」
「表ALM(年間)」のデータは、「表ALM(四半期)」のデータに加えて、次の変化によるデュレーションの影響についての詳細を含まなければならない。
a)株式の30%の下落、様々な固定金利証券で得ることができる利回りの100ベーシス・ポイントの低下、死亡率/罹患率、事業費、解約/失効率における10%の不利な変化、新契約高の25%(の増加と減少)、それぞれ独立に
b)株式の30%の下落、様々な固定金利証券で得ることができる利回りの100ベーシス・ポイントの低下、死亡率/罹患率、事業費、解約/失効率における10%の不利な変化、新契約高の25%(の増加と減少)、報告日から3年間、それぞれ独立に

(3)「表ALM(四半期)」、「表ALM(年間)」共通
「表ALM」のデータは、「生命」、「企業年金」、「一般年金」と「医療」に対して、区分して報告されなければならない。最新の年次評価の結果による、ある事業の数学的準備金が、全体の数学的準備金の5%未満であれば、そのような事業ラインにおいてALMフレームワークを検討する必要はない。全ての事業種類について、ノン・リンクとリンク(非ユニット部分)事業は、区分して報告されなければならない。

3―ストレス・テストに関する規定

前述の「資産負債管理(Asset Liability Management:ALM)とストレス・テスト」に関する通達によると、ストレス・テストについて、以下のように規定されている。

1|ストレス・テストの概要
ストレス・テストは、保険会社が、リスクを管理し、またリスクを管理するために十分な財源を維持するために、様々なシナリオに対する潜在的な脆弱性のレベルを把握することに役立つ。ストレス・テストは、保険会社が、異なるシナリオによる定量的影響とその会社の支払能力への影響を調査することを可能にする。ストレスは、財務、運営、法律、流動性がベースのものかもしれないし、保険会社に不利な経済的影響を与える他のリスクに関連しているものかもしれない。

ストレス・テストは、リスク管理と保険会社の財務の健全性において重要なものであるが、監督当局は、通達「Circular No: IRDA/ACTL/CIR/GEN/045/03/2011, March 7, 2011」において、全ての生命保険会社に対して、保険数理報告書と要約(Actuarial Report and Abstract:ARA)の一部として、(2011年3月31日に終了した事業年度から)「シナリオと感応度テスト」を実施することを義務付けた。
 
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中村 亮一

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