2016年01月08日

猫と暮らせる理想の住まいを考える

基礎研REPORT(冊子版) 2016年1月号

松村 徹

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古い公団住宅ではペット禁止が当たり前で、民間の分譲マンションでも10年以上前ならペット飼育可能物件は1割もなかった。しかし、最近分譲されるマンションのほとんどでは、体長や体重、頭数の制限などの条件付で犬や猫が飼えるようになっている。

一方、アパートや賃貸マンションでも、ペット飼育可能物件は増えてきているものの数は非常に少なく、「ペット飼育可」でも犬はオーケーだが猫はNGという物件がほとんどだ。賃貸住宅でペット飼育可能物件は全体の5%程度しかないとされ、猫の飼育可能物件はさらに少ないだろう。

一般社団法人ペットフード協会の調査では、猫を飼いたくても飼えない阻害要因の1位は「集合住宅(賃貸・分譲)に住んでいて禁止されているから」で、3人に1人が理由として挙げる。犬を飼いたいのに飼えない理由についても住宅事情が阻害要因1位になっているものの、理由に挙げた人は4人に1人であることから、猫の飼育不可の集合住宅の多さがうかがわれる。

猫の保護活動に取り組むNPO法人東京キャットガーディアンが考案した「猫付きマンション」や「猫付きシェアハウス」が注目を集めているのは、猫を飼いたくても飼えない賃貸住宅が多すぎる現実の反映ともいえそうだ。

最近、空き家の増加が社会的な問題になっているが、全国に820万戸ある空き家の過半数は賃貸住宅が占めている。一方、相続税改正を背景に節税対策として賃貸住宅を建てる動きが活発化しているが、住宅需要を支えてきた世帯数の増加が見込めないだけに、賃貸住宅の空き家が今後さらに増えるのはほぼ確実といえる。このような厳しいマーケット環境で賃貸住宅経営を続けるためには、猫の飼育や子育て支援など顧客が求めるさまざまなニーズにきちんと向き合う必要があるのだが。

現在、賃貸住宅で猫の飼育可能物件が少ない大きな理由は、猫の習性や飼育について誤解している住宅オーナーが多いことだと思われる。また、賃貸住宅経営が本来の目的ではなく、相続税対策としてアパートや賃貸マンションを建てる地主が多いことも要因といえるだろう。特に、経営を不動産会社に任せてしまうサブリース方式では、所有と経営が完全に別になるため、住宅オーナーに経営感覚を求めること自体が無理な話になってしまう。

さらに残念なことに、猫の飼育に関する誤解や偏見は、住宅オーナーに限らず住宅の設計者や仲介、管理を行う街の不動産屋さん、分譲マンションを建設・販売する大手不動産会社など不動産・建築関係者でも少なくない。

一方、ペット飼育可能物件が当たり前になった新築分譲マンションでも、猫の習性を理解した上での建築設備や管理上の配慮が十分になされているとはいいがたいのが現実だ。賃貸住宅にせよ分譲住宅にせよ、猫と人との共生の試みはまだ始まったばかりで、住宅の内装・設備、管理運営に、愛猫家の意見や経験、動物専門家や保護団体などの知見をもっと反映させる必要性を感じざるをえない。

しかし、住宅の内装・設備というハードウエアと管理運営というソフトウエアが猫との暮らしに配慮したものなら、猫にとって理想的な「住まい」になるわけではない。それは、飼い主の意識や能力などヒューマンウエアがお粗末な場合、どれほど住宅の内装・設備、管理運営が素晴らしくても、猫にとって理想的な「住まい」には絶対にならないからだ。住宅という不動産のあり方だけの問題ではないのである。

ヒューマンウエアとしては、飼い主自身が猫の習性をよく理解しており、また飼い主としてのマナーもしっかり身につけていることが求められる。しかし、最も重要なヒューマンウエアは、飼い主の猫に対する終生にわたる愛情だ。飼いたい意思がある以上愛情があるのは当たり前といわれそうだが、行政の保護施設へ猫を持ち込む人の2割は飼い主自身という事実がある。さらに、完全室内飼いで猫の寿命は伸びており、子猫を譲り受けたとしても将来は老化や病気で介護が必要になる可能性があることも覚悟すべきだ。

猫を家族の一員として迎え入れ、一緒に幸せな日々を過ごすためには、終生にわたる愛情があるのはもちろんのこと、飼育に伴う費用など将来のさまざまな負担に対する覚悟も問われるのである。
 

 
詳しくは、光文社新書『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス(松村徹・山本葉子共著)』参照のこと
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(2016年01月08日「基礎研マンスリー」)

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