2015年12月28日

ドイツ財務省が責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃提案を撤回

保険研究部 取締役   中村 亮一

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1―はじめに

ドイツの財務省(BMF:Bundesministerium der Finanz:Federal Ministry of Finance)は、生命保険会社の責任準備金評価に使用される最高予定利率の水準を法令で規定している。

2016年1月から新たな保険監督規制であるソルベンシーIIが導入されることに伴い、ドイツ財務省は2015年10月に、現在の責任準備金評価用の最高予定利率を規定する制度を撤廃し、2016年1月からの新契約に対しては、責任準備金評価用の最高予定利率を設定しない方針である、ことを提案していた。この提案に対しては、関係団体から、大きな反対があり、その動向が注目されていた。

以上の状況については、筆者による、基礎研レター「ドイツ財務省が責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃を提案-EUソルベンシーII導入に伴う監督規制の見直しの動きに対して、関係者の反応はいかに-」(2015.10.14)(以下、「前回のレター」)で報告1した。

今回12月17日に、財務省がその提案を撤回し、2016年1月からの新契約に対して、引き続き責任準備金評価用の最高予定利率の制度を継続し、現行の1.25%の水準を据え置く方針である、ことが明らかにされた。

このレターでは、財務省の提案撤回を巡る動き及びそれに対する関係団体の反応等について、報告する。
 
1 なお、こうした動きの背景となる低金利下におけるドイツの状況等については、筆者による、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか-ドイツBaFinの例-」(2015.6.15)を参照していただきたい。

2―責任準備金評価用の最高予定利率について

ここでは、現行のドイツの責任準備金評価における最高予定利率の決定の仕組み及びこれまでの最高予定利率の推移について、前回のレターから抜粋して、説明しておく。


1|最高予定利率の決定の仕組み

責任準備金評価用の最高予定利率は、通常の生命保険契約に対しては「(ECB(欧州中央銀行)によって公表される欧州のAAA格付けの)10年国債利回りの過去の平均の60%」等をベースとして決定される。

まずは、DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が、毎年1月~3月に、過去の国債金利と今後のいくつかの金利シナリオ等をベースに、将来の平均利回りを算出し、これの60%に基づいて、翌年度の1月から適用される、最高予定利率水準に関する推奨(empfehlen)を示した意見書を作成している。ただし、これはあくまでも専門家団体の推奨であり、拘束力のあるものではない。

財務省やBaFin(連邦金融監督庁)は、これらも参考にしながら、最高予定利率の改定の必要性の有無や改定する場合の水準等について、独自の評価を行って、最終的な水準等を決定し、改定する場合には責任準備金命令の改正を行ってきた。


2|最高予定利率の推移

最高予定利率については、過去からの金利低下を反映して、段階的に引き下げられてきている。2015年1月契約からは、それまでの1.75%から1.25%に引き下げられている。
最高予定利率の推移(ユーロ建契約の場合)
3|昨今の低金利状況を踏まえた今後の最高予定利率水準について

ドイツの10年国債金利の、過去8年間の推移を示したものが、下記のグラフである。ここ数年間で、ドイツの金利は大きく低下し、現在は歴史的な低金利環境下にある。ECBによる金融緩和政策の継続等を考慮すると、今後も一定期間低金利状況が継続することが想定される。このため、こうした状況下で、2016年の最高予定利率水準がどのようになるのかについては、生命保険会社にとって極めて重要な問題であり、大きな関心が寄せられていた。
10年国債金利の推移

3―財務省の責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃提案とそれに対する反応(10月)

ここでは、昨今の低金利環境下で、2016年及びソルベンシーII導入後の最高予定利率水準の設定に関して、財務省から10月に行われた提案及びそれに対する関係団体の反応について、前回のレターから抜粋して、説明しておく。


1|10月の財務省提案の概要と考え方

(1)具体的な提案

2016年1月以降の新契約から、最高予定利率水準の概念を撤廃する。ただし、それまでの既契約に対しては、現在の最高予定利率水準の制度を継続して適用し、何の変更も行わない。即ち、2016年以降は2つの制度が並存していくことになる。

(2)この提案の考え方

ソルベンシーIIの導入により、市場整合的な責任準備金評価制度が導入されていくとともに、保険会社の資本規制が強化されていくことになる。これに伴い、これまでのように最高予定利率水準を監督当局が設定することで規制しなくても、ソルベンシーIIベースでの資本水準を監視していくことで、各社の判断で、資本規制の遵守のために、適正な保険料率設定等のリスク管理が行われていくことになる、との考え方がベースにある。財務省によれば、新たな仕組みの下では、保証利率の設定はもはや保険会社にとっての財務リスクにはならず、保証履行のためにデフォルトすることはなくなるだろう、としていた。


2|財務省提案に対する関係団体の反応

こうした財務省提案に対しては、業界団体及び専門職団体等から、挙って、伝統的な保証利率付商品に対する影響が大きい等として、批判的な意見が述べられた。

(1)GDV(ドイツ保険協会)

理事会メンバーであるPeter Schwark氏は「金利リスクに対してヘッジされていない予定利率保証付長期生命保険商品を提供していくためには、最高予定利率の特定は将来も必要である。」と述べた。

(2)DAV(ドイツアクチュアリー会)

プレス・リリースしたコメントの中で、「新たなソルベンシーIIを迎える中で、現在の制度を変更することについては歓迎している。ただし、ユニットリンクのような割引率が重要でない商品も増えてきているが、伝統的な生命保険商品においては、(引き続き予定利率は重要であり、最高予定利率を撤廃するのではなく)DAVが提案している2段階方式を採用することを提案したい。」とした。さらに、Wilhelm Schneemeier会長は「責任準備金評価用の最高予定利率の上限がなければ、ソルベンシーIIだけでは、今日のような状況の発生を防止することはできない。」と述べた。

(3)BDV(被保険者連盟)

BDVのCEOの Axel Kleinlein氏は、「新しい制度により、既契約に対する剰余分配はマイナスの影響を受けるだろう。」と懸念していた。これは、「保険会社は、新契約においては、保証が小さい商品を提供することになる。既契約に対する剰余分配は、以前は保証付商品のセールス・ポイントとして機能していたが、今後保証無しの商品が販売されていけば、既契約に大きな剰余分配を行うインセンティブは失われていくことになる。」との考え方に基づいている。

(4)BVK(ドイツ連邦保険ブローカー協会)

Michael H. Heinz会長は、「生命保険は個人年金における重要な要素であり、既契約は影響を受けないとはいえ、(今回の提案は)年金商品の魅力を減じることになる。これは良いサインではない。」と述べた。
 
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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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