2015年12月22日

高齢化と政府財政と世代間格差

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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日本の人口高齢化が進行し、既に人口減少に陥っていることは、周知の事実である。高齢化によって生じる問題は数多くあるが、中でも、生産年齢人口に対する高齢者人口の比率が大きくなることで、マクロベースで見た生産性が低下してしまうことを意識する必要がある。極端な例としては、近年、強く意識されるようになっているのが介護離職であろう。以前は、稀だったかもしれないが、現在では、あちこちで耳にするようになっている。生産年齢にある人々が生産活動に従事できなくなれば、それだけ生産量は減少しよう。高齢化比率(国連統計では、より端的にold age dependency ratioと表示されている)を他の国と比べてみると、日本の高齢化が今世紀に入って急速に進んだこと、東アジアの他の国でも同様に急速に進むことが、顕著に確認できる。西欧諸国でも高齢化比率は上昇するものの、イギリスの比率上昇は鈍く、更には、米国の比率上昇はより緩やかである。高齢化のスピードと状況が、今後の各国経済の成長状況に、顕著な違いをもたらす可能性がある。
 
図表1 各国の高齢化比率(65歳以上人口/生産年齢人口)の見通し
中でも、日本においては、高齢化のみならず、人口減少について意識を高める必要があろう。移民受入れの可否については、今後の国民的世論形成に待つしかないが、人口減少を抑制することができたとしても、社会的な軋轢が生じることは不可避ではなかろうか。西欧諸国が移民を受入れたこと等によって人口減少に歯止めをかけたことは事実であるが、同時に、社会不安の温床となるといった弊害をもたらしたことから眼を背けてはならない。決して外国人は犯罪者になり易いといった偏見を持つべきではないが、文化・社会的な相違が不安感をもたらすことも心理的な特性である。日本が単一民族国家であるとは思わないが、どうも島国根性からか他者との融合が不得手である。飛鳥・奈良といった時代には、大陸からの渡来人を受入れたり、更に遡れば、縄文・弥生時代には、南洋諸島・朝鮮半島・揚子江流域といった複数ルートからの人口流入があったと想定されているのに、江戸時代の鎖国によって島国根性が強くなってしまったようである。移民を受入れない場合の人口減少対策としては、出生率の引上げ、育児支援の充実等々が既に取組まれているが、短時間での効果は期待できない。
 
高齢化と人口減少によって、社会保障政策のあり方が大きな影響が受けることは必至である。既に意識されているように、高齢者の増加によって介護や年金といった直接的な経費負担の増加が生じるのと同時に、医療費についても同様に政府財政を圧迫することとなる。後期高齢者医療者制度によって、高齢者医療費の増加による影響は組合健保にも波及しており、既に、国全体の問題となっている。年金については、マクロ経済スライドの導入によって、少子高齢化の進展を現在の高齢者にも負担してもらう仕組みとなっているが、反動として、自営業者を中心とする第1号被保険者の国民年金保険料納付率の低下を招いている。これが老後破産等と呼ばれる現象の一つの要因であり、また、公的及び私的年金からの受給額が十分でない層からは、生活保護の申請増加が見られており、社会保障費の中での費目の付け替えとしかなっていない可能性がある。今後の医療・介護費用の増加は必須であり、年金におけるマクロ経済スライドのような仕組みがビルトインされていないため、高齢化の進展によってますます国家財政を圧迫することになろう。
 
政府財政の先行きを考えるには、社会保障費の増大に加えて、国債費の膨張に対する懸念を忘れてはならない。企業会計では考え難いことであるが、国債費は元本の償還費用と利息支払いとが合わさったものである。国債の償還には60年ルールが存在するので、近年の国債増発の影響による元本償還費の増加はすぐに表面化して来ないが、今後の金利上昇による国債利払費の増加には注意が必要である。金利が上昇する際には景気が好転しており税収が増加しているために問題ないとするのが、一般的な主張である。しかし、景気好転を伴わない金利上昇の懸念はないだろうか。特に、足元の金利水準が日銀による量的質的金融緩和によって人為的に押下げられているため、金融緩和政策の行方によっては、反動としての金利上昇も考えられる。その結果として、政府財政への大きな影響が生じる可能性も懸念される。政府予算の作成において利払費を見込む際には、金利の過度な低下を織り込んでいないとされるが、このままの金利水準が続いて利払費の抑制されている状態が続くと期待するのは難しいだろう。
年金特別会計も、そして基礎年金財源の半分を負担する一般会計も、到底、潤沢な財政状況にないことは一目瞭然である。更に、少子高齢化が進む。そうなると、既得権を有する現在の高齢者と、将来の高齢者、即ち、現役世代の世代間格差は拡大こそすれ、縮まることを期待するのは難しい。これまでの政府は、上手くこうした構図を糊塗して国民に意識させないようにして来たのだが、もはや限界ではないか。年金におけるマクロ経済スライドは、現在の年金受給者にも少子高齢化の影響を一部負担してもらう制度であるが、デフレ下の特例で十分に機能させることが出来ていない。本来は、現役世代は、こうした特例の導入・継続に対して、もっと怒るべきではないか。現在の高齢者に優しい社会保障の仕組みは、必ずと言って良いほど将来の社会保障財源を圧迫するものなのである。年金が「遠い約束」であるからと言って、足元の動きに眼を瞑っていると、自分たちの老後が危うくなってしまう可能性がある。選挙における世代間の投票率の差も、こうした政策による世代間格差を助長している。現役世代は諦めずに、自分の年金は自分で守るといった姿勢を鮮明に打ち出して行くことが必要なのではなかろうか。選挙権年齢の引下げが行われても、現役や若者世代の声が政策決定の場には容易に届かないと思われる。後になってから、繰り言を言ってもはじまらない。現役世代である私たちは、自分の将来は自らが切り開いて行くというくらいの気概で、来る新しい年を迎えたいものである。
 
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

(2015年12月22日「基礎研レター」)

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【高齢化と政府財政と世代間格差】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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