2015年12月21日

先端技術企業が牽引するサンフランシスコのオフィス市場

加藤 えり子

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2. オフィス賃料の変遷とテナント業種

冒頭に述べたように、サンフランシスコ中心地区のオフィス賃料は金融危機後に著しく上昇してきている。C&Wによれば、募集賃料は2009年末に33.31ドル/sf 4で底打ちした後、上昇を続け、15Q3は$66.71/sf(年)まで上昇、約2倍の水準となっている。これはJones Lang LaSalle(以下、JLL)のデータでもほぼ同様で、2009年末の平均募集賃料$31.37/sfから、15Q3は$66.8/sfまで上昇している。しかしドットコム・バブルとも呼ばれる2000年のピーク時には$93/sf(JLL)で、まだその水準には達していない。

サンフランシスコ中心地区の募集賃料の変動は、他の主要都市と比較すると大きい。金融危機後の各都市の底値から15Q1までの変動率を見ると、二番目に変動率の高かったNYダウンタウン52.3%に対し、最も変動率の高かったサンフランシスコは94.2%であった。2005年以降の標準偏差で見ても最も数値が大きいことが分かる。高い変動率の要因の一つとして、市場規模が比較的小さいことが挙げられる5が、新興産業の多いテック・テナントがオフィス需要を牽引していることから、その趨勢に合わせて変動が生じている面もある。Colliersは、15Q3時点で150テナントの需要を把握しており、業種別の需要面積は、テクノロジー(33%)、法律関係(12%)、健康・医療(12%)、ビジネス(9%)、金融(9%)の順に大きい。またCBREが集計するオフィス賃貸契約面積上位25テナントの業種別割合(15Q3)では、よりテクノロジー(54%)、金融(21%)のシェアが大きい。これらの業種で大面積のオフィス需要があることが分かる。
図表-6 米国主要都市のオフィス募集賃料の変動状況/図表-7 サンフランシスコ中心地区業種別テナント需要 (15Q3)
サンフランシスコ中心地区近郊のオフィス・マーケットとしては、サンフランシスコ・ペニンシュラ、シリコンバレーがある。いずれもサンフランシスコ中心地区と同様にテック・テナントの恩恵を受けており、15Q3の純床吸収量6のシェアは、それぞれ67%、85%(ハードウェア、ソフトウェア、eコマースの合計)となっている7。オフィスは郊外立地が多く、名の知れたIT企業の自社ビルも散見される。サンフランシスコ中心地区と比べて都市としての集積度は低く、路面駐車場を多数備えた低層のオフィス・パークやリサーチ・センターなどの郊外型オフィス(写真1)も多い。平均募集賃料はサンフランシスコ中心地区の6~8割程度となっている。JLLによれば、15Q3の平均募集賃料は、サンフランシスコ・ペニンシュラで$53.49/sf(年)、シリコンバレーで$41.68/sfであった(図表8)。ただし、さらに分割したサブマーケットで見ると、Palo Alto($98.68/sf)やMountain View($87.53/sf)8など、サンフランシスコ中心地区のサブマーケットより高い賃料となっている地区も存在する。12年末から15Q3までの変動率でみると、サンフランシスコ中心地区は29.5%であったが、シリコンバレー、サンフランシスコ・ペニンシュラについてもそれぞれ27.6%、27.1%と、大きく上昇してきている。特にシリコンバレーの新規需要は力強く、新規賃貸床面積から解約床面積を差し引いた床吸収量で見ると、サンフランシスコ中心地区を上回る状況が2012年から続いている。
写真-1 サンフランシスコ近郊(サンノゼ )の郊外型オフィス/図表-8 サンフランシスコ中心地区と近郊オフィスエリアの平均募集賃料(左)と純床吸収量
 
4 スクエア・フィート(Square Feet)。 1スクエア・フィートは、0.093㎡ (0.028坪)。募集賃料は年間の数値。
5 オフィス床在庫面積規模の主要都市別順位では、1位のNYに続いて、ワシントン、シカゴ、ロサンゼルス、ヒューストン、ボストンの順となっており、サンフランシスコは16位でNYの16.7%、ロサンゼルスの62.9%の規模(JLLデータによる)
6 新規契約床面積から解約床面積を差し引いた床需要の契約床面積の純増量
7 CBREのデータによる
8 いずれもシリコンバレーのサブマーケット
9 シリコンバレーのサブマーケット

3. 非常に活発な不動産投資取引

長らく続いた金融緩和により資金調達コストは低位にあり、各国の主要都市で不動産投資が活発化している状況下、テクノロジー産業の需要が強く賃貸市場の好調維持が期待されるサンフランシスコのオフィスにも、多くの資金が流入してきている。RCA社が把握している都市別オフィス投資額の推移を見ると、サンフランシスコのオフィス取引額は、14Q4から急増している。ニューヨークには及ばないものの、ボストンと取引総額で拮抗、経済規模ではサンフランシスコの約2倍、オフィス市場規模では約1.6倍のロサンゼルスの取引量を上回る状況にある(図表9)。
図表-9 米国主要都市のオフィス取引額推移
取引量の増加と並行して、利回りは低下が続いている。機関投資家や投資ファンド等が保有する不動産の利回りを集計したMSCI社のデータによれば、サンフランシスコのオフィス利回りはニューヨークよりやや低い水準にある。15Q3は3.71%で、前回の底だった07Q4の4.14%より0.43ポイント低く、過去最低位となっている(図表10)。
図表-10 米国主要都市のオフィス利回り推移
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加藤 えり子

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