2015年12月14日

インドの生命保険市場(2)-昨今の保険監督規制を巡る状況はどのようになっているのか-

中村 亮一

文字サイズ

4―生命保険普及のための政府施策

インド政府は、手頃な価格で生命保険や年金の契約を購入可能な新しいスキームを提供することで、低・中所得層への保険の浸透を図ろうとしている。2015年5月に、以下の3つの新しい社会保障スキームが導入された3


1|PMJJBYの導入

PMJJBY(Pradhan Mantri Jeevan Jyoti Beema Yojana)は、18歳から50歳までの貯蓄口座保有者に対して、低コストで生命保険を提供するものである。具体的には、330ルピー (610円)の年間保険料で、200,000ルピー (37万円)の保障が得られる、というものである。

これにより、地方や郊外での保険ニーズを喚起させ、保険普及率を高めることを企図している。


2|PMSBYの導入

PMSBY(Pradhan Mantri Suraksha Bima Yojana)は、18歳から70歳までの銀行口座を有する個人が誰でも加入可能で、12ルピー(22円)の年間保険料で、200,000ルピー (37万円)の災害死亡保障が得られるというものである。


3|APYの導入

APY(Atal Pension Yojana)は、老後の所得保障を提供するために導入された。18歳から40歳までの銀行預金口座を有する個人が誰でも加入できる。このスキームによれば、最低20年間の保険料払込で、払込保険料に応じて、60歳から、毎月1,000ルピー (1,850円)から5,000ルピー (9,250円)の最低保証された年金が支払われる。政府が、加入者の保険料の50%か、1,000ルピーのいずれか低い金額を5年間支払う。

殆どの保険会社が、これら3つの商品を既存のあるいは新規に提携したバンカシュランスの銀行を通じて販売している。こうした積極的な取組みにより、2015年12月10日時点の加入者数は、既にPMJJBY 2,917万人、PMSBY 9,242万人、APY 128万人に達している。
 
3 以下の内容は、インド財務省のWeb サイトからの情報に基づく
http://www.jansuraksha.gov.in/

5―保険商品関係の規制を巡るここ数年の動き

ここ数年、不適正な販売を抑制することで、保険契約者保護を図り、より一層の生命保険市場の健全な発展を目指していくために、IRDAIによって、保険商品の給付内容等の条件や契約関係の手数料の上限規制の見直し等が行われてきている。以下で、個人保険商品についての、改正内容の一部を紹介する。


1|ユニット・リンク保険商品(ULIPs)に対する規制の改正

2010年6月に発行された通達(Circular)によって、ユニット・リンク保険商品(Unit-Linked Insurance Products:ULIPs)に対して、例えば、以下の規制改正が行われた。

・追加保険料を含む全てのユニット・リンク保険商品のロック・イン期間を3年から5年に延長

・全ての手数料をロック・イン期間に等しく配分

・保険料払込期間は、(一時払を除いて)最低5年、保険料払込期間中の保険料は一定

・以下の最低保険金額(死亡保障または最低医療保障)が付与されなければならない。

最低死亡保障は、
(a)一時払商品の場合、保険料の125%(45歳4未満)、110%(45歳以上)

(b)平準払商品の場合、(1)年換算保険料の10倍(45歳未満)、7倍(45歳以上)、(2)年換算保険料×保険期間×0.5(45歳未満)、0.25(45歳以上)(※終身保険の場合の保険期間は70-加入年齢)、(3)既払保険料の105%、の最も大きい金額

最低医療保障(毎年)5は、
(c)医療平準払商品の場合、(1)年換算保険料の5倍、(2)100,000ルピー(45歳未満)、75,000ルピー(45歳以上)、(3)既払保険料の105%、の最も大きい金額

・総投資利回り(Gross Yield)とネット利回り(Net Yield)の差異に関する上限設定(第5保険年度以降及び満期時)

これらの改正によって、総投資利回りと、手数料等が差し引かれた後のネット利回りとの違いが明確化され、透明化が図られるとともに、その差額としての手数料の引き下げが行われることになった。さらには、こうした規制要件を満たすために、保険会社は、より長期のプランを提供することが求められることになり、ユニット・リンク保険商品の保障部分がより強調されていくことになった。


2|変額保険商品(VIPs)に対する規制の改正

2010年11月に発行されたガイドライン(Guideline)によって、インドでは変額保険商品(Variable Insurance Products:VIPs)と称されているユニバーサル生命商品に対して、ユニット・リンク保険と同様に、例えば、以下の規制改正が行われた。

・ノン・リンク保険商品のプラットフォームで提供されなければならない。

・死亡時には、保険金額プラス契約勘定残高が、満期時には契約勘定残高プラス消滅時配当が支払われる。契約勘定は、手数料控除後の保険料に対して、クレジットされ、この勘定残高に対して、保証利率や配当が適用される。

・死亡保障のみを有し、最低保険金額は年換算保険料の10倍

・コミッション水準と予定事業費に関する上限の設定


3|リンク保険商品に対する規制の改正

2013年2月に発効した「IRDA (Linked Insurance Products) Regulations, 2013 」 により、リンク保険商品に対して、例えば、以下の規制改正が行われた。

・リンク保険商品は、ユニット・リンク保険商品または変額保険商品によって提供される。

・保険料払込期間は最低5年、保険料払込期間中の保険料は一定

・以下の最低保険金額が付与されなければならない。

(a)一時払商品の場合、保険料の125%(45歳未満)、110%(45歳以上)

(b)平準払商品の場合、(1)年換算保険料の10倍(45歳未満)、7倍(45歳以上)、(2)年換算保険料×保険期間×0.5(45歳未満)、0.25(45歳以上)、のいずれか大きい金額

(c)医療平準払商品の場合、(1)年換算保険料の5倍、(2)100,000ルピー、のいずれか大きい金額

・コミッション水準の上限改定

なお、保険会社は、IRDAIに対して、投資保証を提供する商品に課せられる保証手数料に関する総合的な情報を提供しなければならなくなった。さらには、満期時における総投資利回りとネット利回りの差異に関する上限規定への遵守を、商品のファイリング時に、6つの異なる総投資利回り前提を使用して示す、ことが求められることとなった。


4|ノン・リンク保険商品に対する規制の改正

2013年2月に発効した「IRDA (Non-Linked Insurance Products) Regulations, 2013 」 により、ノン・リンク保険商品に対して、例えば、以下の規制改正が行われた。

・ノン・リンク保険商品は、有配当と無配当に区分される。

・有配当商品は、ノン・リンク保険商品のプラットフォームでのみ提供される。

・無配当商品は、リンクとノン・リンクの両方の保険商品のプラットフォームで提供される。

・保険料払込期間は最低5年、保険料払込期間中の保険料は一定

・全ての個人ノン・リンク保険商品に対して、契約期間中の最低死亡給付は、保険金額と付加給付の合計額以上でなければならない。

・死亡時の最低保険金額は、以下の通り

(a)一時払商品の場合、(1)満期時の最低保証給付額、(2)死亡時に支払われる絶対金額6、(3)一時払保険料の125%(45歳未満)、110%(45歳以上)、の最も大きい金額

(b)平準払商品の場合

(b1)保険期間が5年以上10年未満の場合
   無配当商品 (1)満期時の最低保証給付額、(2)死亡時に支払われる絶対金額、(3)年換算保険料の5倍、(4)既払保険料の105%、の最も大きい金額

   有配当商品 (1)満期時の最低保証給付額、(2)死亡時に支払われる絶対金額、(3)年換算保険料の5倍、の最も大きい金額

(b2)保険期間が5年以上10年未満の場合
   無配当商品 (1)満期時の最低保証給付額、(2)死亡時に支払われる絶対金額、(3)年換算保険料の10倍(45歳未満)、7倍(45歳以上)、(4)既払保険料の105%、の最も大きい金額

   有配当商品 (1)満期時の最低保証給付額、(2)死亡時に支払われる絶対金額、(3)年換算保険料の10倍(45歳未満)、7倍(45歳以上)、の最も大きい金額

・コミッション水準の上限改定

・解約手数料の制限(一時払、一時払以外、保険料払込期間等によって異なる)

2013年における改正は、保障志向の商品の販売を促進しようとするものである。これらの内容については、2014年1月からは、既存の個人保険商品も含めて、適用されることになった。これに伴い、各社とも既存商品を含む全ての商品の改定を行い、ファイリングしなければならなくなった。


5|保険商品の標準化

2013年にIRDAIは、生命保険商品の標準化を図り、統一性を導入するため、生命保険会社からの6人のメンバーとIRDAIのメンバーからなる4つのWGを設置した。商品デザインの統一や関連パラメータの作成、商品パラメータがIRDAIの規制に準拠していることの保証、を目指すことにより、サービス基準の改善やコーポレート・ガバナンスや販売等における倫理基準の向上を図ろうとしている。
 
4 加入年齢(以下、同様)
5 「最低医療保障(minimum health cover)」とは、毎年の医療保障給付合計額の上限が設定されている場合の、その最低水準を指している。
6 「絶対金額(Absolute amount」とは、大小比較を行う前の死亡保険金額を指している。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【インドの生命保険市場(2)-昨今の保険監督規制を巡る状況はどのようになっているのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

インドの生命保険市場(2)-昨今の保険監督規制を巡る状況はどのようになっているのか-のレポート Topへ