2015年12月14日

日銀短観(12月調査)~大企業製造業の景況感は横ばい、先行きは悲観的

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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5.設備投資・雇用:設備投資計画は引き続き強め、人手不足感はさらに逼迫

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で▲1で、前回から横ばいとなった。一方、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模・全産業で▲19と前回から3ポイント低下している。雇用人員判断D.I.の低下は、経済指標における失業率の低下や求人倍率高止まりと整合的な動きである。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回からやや低下(▲10.4ポイント→▲12.3ポイント)している。直近の最低であった15年3月調査(▲11.1ポイント)も今回は下回った。
 

また、水準としても人員の不足感は極めて強い。内訳を見ると、従来同様、製造業(全規模で▲9)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲25)で、より人手不足感が強い。また、企業規模別で見ると、人材調達力の違いが反映されているとみられるが、中小企業が▲21と大企業の▲12を大きく下回る状況が続いている。この結果、中小企業非製造業では▲28と全区分中最大のマイナス幅(人手不足感)となっている。

人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有化されているが、特に中小企業非製造業においては深刻な経営課題になっている。
 

先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が現状比横ばいの▲1、雇用判断D.I.は1ポイント低下の▲20と、雇用においてさらに不足感が強まることが見込まれている。両者を反映した「短観加重平均D.I.」もさらに低下に向かう見込み(▲12.3ポイント→▲13.0ポイント)である。雇用判断D.I.の低下は中小企業で目立っており、中小企業における人手不足に対する警戒感が現れている(図表9,10)。
 
(図表9)生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10)短観加重平均DI
15年度設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比で7.8%増と、前回調査時点の6.4%増から上方修正された。例年、9月調査から12月調査にかけては、中小企業において、計画が固まってくることに伴って上方修正される統計のクセが非常に強く、今回も上方修正となったうえ、大企業も底堅い計画となった。全規模全産業の上方修正幅は例年と比べてもそん色がない(図表11~12)。
 

大企業では、例年この時期製造業において小幅な下方修正が入る傾向があるが、今回は例年よりもやや大幅な下方修正(▲2.7%)が行われたが、非製造業において大き目の上方修正(1.3%)が入ったことで影響が相殺された。大企業全体の設備投資計画は、前年度比10.8%増と、前回からほぼ横ばい推移となっている(図表13)。

製造業では新興国経済の減速など外部環境の悪化により、一部投資の先送りの動きが出たとみられるが、非製造業では強い人手不足感から省力化投資などを積み増す動きが出た可能性がある。
 

ただし、足元の設備投資関連指標は強弱が分かれているだけに、今後年度末にかけて、大企業を中心として計画が下方修正される可能性がある点には留意が必要だ。
 

なお、15年度計画(全規模全産業7.8%増)は事前の市場予想(QUICK 集計6.8%増、当社予想は6.5%増)をかなり上回る結果であった。
 
(図表11)設備投資計画
(図表12)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13)設備投資計画(大企業・全産業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2015年12月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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