2015年12月08日

2015~2017年度経済見通し~15年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2015年7-9月期は前期比年率1.0%へ上方修正

12/8に内閣府が公表した2015年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.3%(年率1.0%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(年率▲0.8%)から上方修正された。

7-9月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が1次速報の前期比▲1.3%から同0.6%へ、民間在庫品増加が1次速報の前期比・寄与度▲0.5%から同▲0.2%へ上方修正されたことが成長率を押し上げた。民間在庫品増加は、1次速報ではARIMAモデルにより推計されていた仕掛品在庫、原材料在庫が法人企業統計の結果が反映されたことで上方修正されたことに加え、商業動態統計をもとに推計されていた流通在庫が大幅に上方修正された(実質・季節調整値:▲1.6兆円→+0.7兆円)。その他の需要項目では、民間消費(前期比0.5%→同0.4%)、公的固定資本形成(前期比▲0.3%→同▲1.5%)が下方修正された。

設備投資の上方修正は前向きに捉えることができるが、民間在庫品増加の上方修正は先行きの成長率を見る上ではむしろマイナス材料である。民間在庫品増加(実質・季節調整値)は1次速報の▲1.8兆円から+1.5兆円と符号が入れ替わった。鉱工業生産の在庫指数は2015年7-9月期に前期比▲0.9%と7四半期ぶりの低下となったが、GDP統計上は2015年1-3月期から在庫の積み上がりが続いているという姿へと改められた。2015年10-12月期以降、在庫調整が順調に進展した場合、成長率が大きく押し下げられる可能性がある。
 
2014年度 GDP確報の結果 2015年7-9月期の2次速報と同時に2014年度の確報値が公表され、実質GDP成長率は▲0.9%から▲1.0%へと下方修正された。成長率全体の修正幅は小さかったが、公的固定資本形成は速報時点の前年比2.0%から同▲2.6%へと大きく下方修正された。公的固定資本形成は2011年度以降、4年連続で大幅に下方修正されている(2011度:前年比2.9%→同▲2.3%、2012年度:前年比14.9%→同1.3%、2013年度:前年比15.0%→同10.3%)。公的固定資本形成は速報段階では「建設総合統計」を中心に推計されるのに対し、確報値は決算書をベースに推計されており、両者の推計方法の違いが改定幅の大きさにつながっていると考えられる。推計方法の見直しが必要かもしれない。

一方、速報推計に用いられる「家計調査」のサンプルバイアスにより実態から下振れている可能性が指摘されていた民間消費は、前年比▲2.9%と速報段階の同▲3.1%とほとんど変わらなかった。供給側の統計が多く用いられるコモディティー・フロー法によって推計され、家計調査の影響が薄まった確報値でも減少幅が速報値とほぼ同じ大きさとなったことで、2014年度の個人消費が実態として非常に弱かったことがほぼ確定したと言えるだろう。
 
需要項目別改定幅(速報→確報) また、住宅投資(前年比▲11.6%→同▲11.7%)、設備投資(前年比0.5%→同0.1%)、外需寄与度(前年比0.6%→同0.6%)など、公的固定資本形成以外の需要項目については、修正幅が総じて小さかった。過去を振り返ってみると、速報から確報への改定幅がかなり大きくなる年度も見られたが、2013年度、2014年度と実質GDP成長率の改定幅は▲0.1ポイントにとどまり、需要項目別の修正幅も小さかった(公的固定資本形成を除く)。少なくともこの2年に限ってはGDP速報の推計精度はかなり高かったという評価ができる。
(設備投資は持ち直し)

12/1に財務省から公表された法人企業統計では、2015年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く)の経常利益が前年比9.0%と4-6月期の同23.8%から伸びが鈍化する一方、設備投資(ソフトウェアを含む)の伸びが4-6月期の前年比5.6%から同11.2%へと加速した。これまで企業収益が好調を続ける中、設備投資の出遅れが目立っていたが、ここにきてようやく持ち直しの動きがはっきりしてきた。

ただし、企業の設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は依然として50%台半ばの低水準で推移しており、ここにきて企業の設備投資に対する慎重姿勢は崩れていない。法人企業統計で経常利益、売上高と設備投資の関係をみると、設備投資との連動性が高いのは経常利益よりも売上高のほうであるが、売上高は2015年1-3月期が前年比▲0.5%、4-6月期が同1.1%、7-9月期が同0.1%と前年比で横ばい圏の推移が続いている。設備投資の回復が本格化するためには、個人消費を中心とした国内の売上高が着実に増加することが条件となろう。
 
設備投資とキャッシュフローの関係/設備投資の伸びは経常利益よりも売上高に連動
(在庫調整の進展、実質雇用者所得の増加は明るい材料)

2015年7-9月期のGDP1次速報後に公表された10月の経済指標を確認すると、2015年4-6月期、7-9月期と2四半期連続で減産となった鉱工業生産は9月の前月比1.1%に続き、10月も同1.4%と高めの伸びとなった。消費税率引き上げ以降、上昇傾向が続いていた在庫指数が明確に低下し始めた(9月:前月比▲0.4%、10月:同▲1.9%)ことも生産の先行きを見る上では明るい材料だ。企業の生産計画を表す予測指数は11月が前月比0.2%、12月が同▲0.9%と弱めであること、生産実績が計画から下振れる傾向が続いていることを踏まえれば一本調子の回復は期待できないものの、このまま在庫調整が順調に進めば年明け頃には生産の回復基調が明確となることが期待できるだろう。

一方、足もとの個人消費関連指標を確認すると、小売業販売額指数(商業動態統計)、外食産業売上高、消費財出荷指数(鉱工業指数)が強め、家計調査の消費支出、新車販売台数(新車販売台数は11月、それ以外は10月分)が弱め、とまだら模様となっているが、全体としては雇用・所得環境の改善を背景に緩やかに持ち直していると判断される。
外食産業売上高の推移/新車販売台数(含む軽乗用車)の推移
実質雇用者所得の伸び率は水面上に 一人当たりの名目賃金は伸び悩みが続いているものの、企業の人手不足感の高まりを反映し雇用者数(労働力調査ベース)は増加を続けており(2015年10月は前年比1.3%)、マクロベースの雇用者所得の押し上げに寄与している。さらに、原油価格下落に伴う物価上昇率の低下によって家計が消費税率引き上げ後から苦しめられてきた物価高による実質所得の押し下げ圧力は緩和されている。当面は実質ベースの雇用者所得の増加が個人消費を下支えすることが見込まれる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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