2015年12月04日

2016年はどんな年?金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.金融市場: 2016年はどんな年?

師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。12月FOMCでの利上げ有無というビッグイベントを残した段階で少々早いものの、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
 
(2015年の振り返り・・・二つの誤算)

まず、2015年のこれまでの市場の動きを確認すると、ドル円相場は年初の120円台半ばから足元にかけて2円程度円安になっている。一昨年に19円、昨年に15円も円安が進行したことに比べると、ごく小幅に留まった。一方で、日本株(日経平均株価)は年初から2000円あまり上昇しており、主要国で見てもドイツに並ぶ高い上昇率となっている。これは、昨年10月末からの急激な円安進行によって、期間平均の前年比では大幅な円安になったこと(2014年平均105.9円→2015年足元までの平均121.0円)に加え、公的マネーによる株式積み増しや、企業統治の強化などが株価を押し上げたためだ。

年末までまだ日にちは残っているが、今年も最終的に(小幅な)円安・株高の一年ということで着地しそうだ。
 
2015年のドル円相場と株価/主要国株価の年初来騰落率(11月末まで)
なお、今年の市場のテーマという面では、二つの誤算があった。

一つは「米利上げの後ずれ」だ。今年年初の時点では、6月または9月の利上げ開始を予想する向きが大勢であった。年初時点の債券先物市場が織り込む利上げ確率を見ると、6月FOMCまでに利上げが開始されていると予想する割合は53%、9月FOMCまででは84%に達していた。しかし、実際は未だに開始されておらず、12月に利上げ開始がされるとしても、予想よりもかなり後ずれしたことになる。寒波や港湾ストの影響で1-3月の米経済成長率が当初マイナス(後に小幅プラスに改定)になったこと、夏場からは中国経済への不安台頭で金融市場が緊迫化したことが、利上げ後ずれの背景にある。利上げが早期に行われていれば、さらに円安ドル高が進み、株価上昇に寄与していた可能性がある。

二つ目の誤算は、上記とも絡むが「中国経済への不安台頭」だ。8月以降に一気に不安が高まり、日本も含め世界の金融市場を揺さ振った。もともと中国経済の減速自体は予想されていたことだったが、ペースがやや速かったこと、唐突な人民元切り下げなど政策の不透明感が強まったこと、中国株式市場でバブル的な状況が急激に形成されて崩壊したことなどが市場の不安を増幅させた。

中国当局による金融緩和の効果もあって現在は不安が沈静化しているが、未だ払拭されたわけではなく、日本も含めた主要国の株価はまだ中国不安台頭前の水準には回復していない。
 
先物が織り込む米利上げ予想確率(2015年初時点)/中国の景気一致指数と株価
(2016年はどんな年?)

(1)世界経済の耐久力が問われる

それでは、来年はどのような年になるのだろうか?まず、世界経済という観点では、世界経済はその耐久力を問われることになる。

米国の利上げがずれ込んだことで、実際に利上げ後に副作用が出るかという問題も後ずれし、来年のテーマになった。米利上げで懸念される副作用とは、米国経済自体への悪影響、新興国からの資金流出、資源価格下落による資源国へのダメージなど複数にわたる。この件に関しては、米国の利上げペースがどの程度かという点も影響を与える。

また、来年も中国経済の減速基調が続くことがほぼ確実視されるため、その悪影響も予想される。とりわけ、アジア新興国や資源国は、米利上げと中国経済減速の悪影響をダブルで受けやすいため、警戒が必要になる。この件に絡んで、3月に開かれる全人代で決定される第13次五ヵ年計画の内容が注目される。

さらに地政学リスクも高い状況が続くだろう。米国が財政上の制約などから積極的な対外関与を手控えたことで、他の国家や勢力がその力の空白を埋めるべく、パワーバランスを再構築する動きに出ており、今後も衝突の動きが出やすい状況にある。現在進行形のシリアなどの紛争についても、かつてのような米国の強いリーダーシップが期待できないため、収束までに時間を要しそうだ。
 
先進国の成長率と政府債務残高 リーマン・ショックの後には、世界の主要国が協調して金融政策・財政政策をフル活用し、危機をなんとか乗り切った経緯がある。

ただし、その結果として政府債務残高が増加し、多くの国が緊縮的な財政運営を余儀なくされているため、現在はリーマン・ショック後のような大規模・協調的な財政出動が困難になっている。

このように政策対応力が落ちている中で、来年は米利上げ・中国経済減速・地政学リスクなど下振れリスクに事欠かない状況になるため、世界経済の耐久力が問われることになるだろう。

その他のテーマについて、海外のスケジュールを見てみると(表紙図表参照)、来年は主要国の重大な選挙はあまり見当たらない。そうした中で存在が際立つのが経済大国米国の大統領選だ。2期目にあたるオバマ現大統領の再選がない中で、新たな大統領が選ばれるビックイベントなだけに、有力候補の政策に注目が集まりそうだ。大統領選を終えた年末には、不透明感が払拭されることが世界的な株価の追い風になる可能性がある。
(2)国内の注目点は政治・緩和・賃上げ、企業は真の稼ぐ力が問われる

国内のスケジュールでは、やはり政治イベントが注目される。具体的にはまず春に発表予定の「ニッポン一億総活躍プラン」、そして7月に予定される参議院選挙だ。

「ニッポン一億総活躍プラン」は秋に発表された新三本の矢の具体的なロードマップにあたる。新三本の矢については、方向性自体は評価できるものの、唐突感があり、未だ中身は乏しい。市場でもあまり評判が良くないとみられるだけに、プランの発表で評価を一新し、またかつての三本の矢のように市場の期待を高められるかが焦点となる。参議院選挙については、衆議院選挙とのW選挙になるとの憶測も出てきているが、いずれにせよ政権の基盤安定に繋がるかがポイントになるだろう。
 

また、金融政策では、日銀の追加緩和の有無が注目点となる。景気停滞下でも動かない日銀のスタンスから、市場では「もはや日銀の追加緩和はない」との見方も増えているが、筆者は今のところ来年1月末の追加緩和を予想している1。日銀も政策余地が限られてきているとみられ、これまでほど大胆な緩和とはいかないだろうが、早期の追加緩和があれば、サプライズ感も手伝って円安・日本株高材料になるだろう。
ドル円レート(前年比騰落率)の推移/一人当たり賃金と実質賃金の伸び率
日本経済という観点では、来年2月から本格化する春闘での賃上げが大きな意味合いを持つ。今年の春闘では、例年を超える賃上げが実現したが、一人当たり賃金はようやく前年比で0.5%前後のプラスになった程度に留まる。日本経済の力強い成長のためには賃上げの動きがさらに強まる必要がある。来年は原油安の一巡などから、物価上昇率が現在よりも上昇すると見込まれるため、賃上げが不十分の場合は、再び実質賃金がマイナス化する恐れがある。来春闘は来年の日本経済と株価を大きく左右する材料になるだろう。

ちなみに、10月に大筋合意したTPPについては、発効までにまだ時間がかかりそうだ。規定によれば、全12カ国で批准されてから60日後に発効(2年以内に批准できない場合は、域内GDPの85%以上を占める6カ国以上の批准で発効)とされており、来年中に発効に至る可能性は低そうだ。

日本企業という観点では、来年は今年よりも企業の自力が問われることになる。既述のとおり、今年は平均でみれば前年比で大幅な円安であったが、来年は円安度合いが縮小する可能性が高い。弊社見通しでは、日米金融政策の違いから、年末にかけて緩やかな円安進行を見込んでいるが(最終ページご参照)、それでもドル円レートの前年比は5%程度に留まる。増益率に占める円安による嵩上げ分が低減することに伴って、企業は真の稼ぐ力を問われることになる。
 

以上、来年の注目テーマを見てきたが、基本的なシナリオとしては、日米経済の回復、緩やかな円安に伴って、来年の市場の方向性は円安・株高と予想している。ただし、世界的に政策対応力が落ちている中で、米利上げ・中国経済減速・地政学リスクなど下振れリスクには事欠かない状況になるため、投資家としては、従来以上に下振れリスクへの目配りが欠かせない一年になりそうだ。

なお、国内政治、賃上げの動向には不透明感があり、日本株にとっては、上振れリスクにも下振れリスクにも成り得る。
 
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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