コラム
2015年12月22日

民泊トラブルの増加と規制の動き

竹内 一雅

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今年の夏頃から、個人の住宅やマンションの空き部屋に有料で宿泊者を受け入れる「民泊」に関するトラブルが大きく報道されるようになっています。高級タワーマンションを含め、マンションへの外国人など居住者以外の不特定多数の出入り、パーティーなどの騒音、乱雑なごみ出し、テロや犯罪など治安への不安、無許可民泊オーナーの送検や所得の申告漏れなどです。すでに、一部のマンションではトラブルへの対応として、管理規約の見直しをすることで民泊を禁止する動きも出ています。

こうした問題は、現在、民泊を規制する法律が存在していないことが一つの理由と思われます。それに加え、どこにどれだけ誰が所有する民泊が存在し、誰がどれほど民泊に宿泊したかが全く分からない状況も、近隣とのトラブルや不安を招いているのでしょう。

ただ、ここにきて民泊に関する規制の方向性が固まってきたようです。

自由民主党や厚生労働省、IT総合戦略本部などの検討会で民泊の規制に関する検討が活発に進められてきましたが、それらを受けて、昨日(2015.12.21)開催された規制改革会議では、「民泊」を旅館業法の簡易宿所と位置づけて許可要件を緩和して届出制にするとともに、民泊仲介業者も許可制にして監視しオーナーや宿泊者の情報把握等の義務を課し、近隣トラブルの防止や消防・安全対策を講じさせるという意見書が提出されたようです

これらの規制により、これまで全く分からなかった民泊の実態が把握できるようになるとともに、民泊が法律で適切に位置づけられることで、宿泊者(消費者)保護の制度が整い、防災・衛生等への対応や周辺トラブルへの対策、民泊事業者の所得把握、違法民泊業への取締りなどが大きく進むことが期待されます。

期待と不安を含めて数多く報道されてきた民泊ですが、一部では異なる「民泊」が区別されずに報道されてきたようにも感じています。これまでの報道や規制緩和の議論をみると、現在、5つの「民泊」が存在していると思われます

それは、(1)国家戦略特区内でのみ認められた「民泊条例」の民泊、(2)農業漁業体験などができる農林漁業体験民宿、(3)コンサートなどのイベント等の開催期間のみ認められる期間限定の民泊、(4)遊休期間の別荘貸出し、(5)インターネットのマッチングサイトを通じた民泊10の五つです。

厚生労働省によると、上記のうち、現行制度上、実施可能な「民泊」として、(1)の国家戦略特区内の民泊、(2)の農林漁業体験民宿業、(3)のイベント民泊を挙げています11。なお、現在、近隣トラブルなどで議論になっているのは、(5)のマッチングサイトを通じた民泊です。

(1)の「民泊条例」の民泊は、大阪府や大田区で条例が可決され、来年から供給が始まると考えられます。ここでは、7~10日以上の宿泊期間や25m2以上という面積基準、外国語での情報提供などの条件があり、条件の厳しさから、現在、マッチングサイトを通じて提供されている民泊には「民泊条例」の民泊として認可されるのは難しいものも多いのではないかといわれています。
(2)の農林漁業体験民宿は、農林漁業体験のために農林漁業者などが自宅を宿泊施設として提供できるという制度で、農村や漁村における地域振興の一端を担う施設と考えられています。この施設の提供には旅館業法の認可が必要となります。

今月、福岡市での実施が決定し、大きな話題となっているのが(3)のイベント開催時の民泊です。これは、地域での大きなお祭りやコンサート、イベント、花火大会だけでなく、ラグビーワールドカップや東京オリンピックなど、一時的に多数の宿泊者が発生する時に、不足する宿泊施設の補完施設として役割を果たす可能性があると思われます12

(4)の遊休期間の別荘貸し出しの規制緩和は、現在、ホテルなどの立地が認められていない住宅専用地域においても、旅館業法の許可を取れば遊休期間内の別荘貸し出しを認めるという規制緩和です。今年度中に規制緩和が実施される予定となっています。

なお、民泊は増加する空き家への重要な対策の一つとなる可能性も持っていると感じています。(4)の遊休期間の別荘貸し出しの規制緩和は、住宅専用地域における空き家対策に大きな効果を持つ可能性があるのではないかと考えてきましたが、議論が進むマッチングサイトを通じた民泊が旅館業法の簡易宿所と位置づけられるのであれば、その多くは住宅専用地域に立地していると考えられるため、(4)の遊休期間の別荘貸し出しの内容を取り込む可能性もありそうです。これらの規制緩和は、地域の空き家や古民家などの民泊としての活用につながると思われます13

民泊が広がっている背景には、訪日外国人旅行者数のホテル需要の急拡大と日本人の国内旅行の増加に伴う、深刻なホテル不足があります。ホテルの客室料金も上昇しており、一人当たりの料金が比較的安い民泊が好まれているという点もあるでしょう。

政府では2020年の訪日外国人旅行者数の目標を2千万人から3千万人に引き上げる方針であるとの報道もなされており14、今後もホテル不足は続くと考えられます。逼迫するホテル不足とインターネットの進化により、マッチングサイトを通じた民泊は今後の日本の宿泊にとって不可欠なインフラとなりつつあり15、それが民泊に対する規制緩和および規制の議論を推し進めてきたといえるでしょう。

拡大するインターネットのマッチングサイトを通じた民泊ですが、これまでのホテルや旅館に加え、民泊が日本の法律に位置づけられてしっかり管理されることで、外国人も日本人も安心して民泊に宿泊できるようになるだけでなく、民泊周辺の住民とのトラブルや不安が解消していくことが期待されます。

今後、防災や衛生、防犯、都市計画など、多くの細かい議論が進むと思われますが、単に民泊をホテル不足の補完として認めるだけでなく、日本の観光政策等の中での積極的な位置づけや意味(空き家対策を含め)をもたせつつ規制を進めることが、今後の日本の観光立国確立のために重要と感じます。

 
1 これまでに、許可なくマンション等の住宅に繰り返し有料で旅行者を宿泊させたとして、既に数名が旅館業法違反で摘発されている。厚生労働省によると、旅館業法で定められた旅館業とは「施設を設けて、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」であり、施設の提供が「社会性を持って継続反復されている」場合、旅館営業をしていると判断されるため、継続反復して宿泊者を受け入れる民泊では、旅館業法に違反していると判断される可能性が高いと思われる(厚生労働省 第1回「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」の資料「旅館業に関する規制について」より)。
2 自由民主党では観光立国調査会・観光基盤強化に関する小委員会などで議論が進められ、厚生労働省では「「民泊」サービスのあり方に関する検討会」などで議論が進められてきた。IT総合戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)では、「情報通信技術(IT)の利活用に関する制度整備検討会中間整理」で民泊仲介業者に対する規制について整理している。
3 自由民主党などの議論も踏まえ、厚生労働省では民泊を旅館業法で定める簡易宿所と位置づけた上で、客室の延べ床面積33m2以上という基準や帳場の設置義務などについての規制緩和を実施する方針と報道されている。
4 日本経済新聞2015.12.20記事「民泊規制、緩やかに 規制会議が意見書」より。会議開催翌日である2015年12月22日14時時点では規制改革会議のウェブサイトにおいて意見書が公開されていないため報道情報のみで執筆している。
5 ここでは「有償」で宿泊者を受け入れる「民泊」のみを対象とした。
6 国家戦略特区における外国人滞在施設経営事業。すでに大阪府と大田区で条例可決。大阪府や大田区などで可決された「民泊条例」は、国家戦略特区内に限り1週間(あるいは10日)以上の宿泊の場合、一時的滞在として旅館業法の適用除外を受け賃貸住宅(賃貸借契約)として宿泊施設を貸し出せるという規制緩和。本来は外国人を対象としたもので(日本人も利用可能)、民泊というよりも、サービスアパートメントとかウィークリーマンションと呼ぶ方がしっくりする制度と思われる。客室の広さは25m2以上、浴室トイレなどの設備、出入り口の鍵、滞在者名簿、近隣住民への不安除去措置などが必要。なお、大阪府では現在もウィークリーマンションの設置は可能でこの場合は外国語の案内や情報提供は不要という(「民泊条例」では必要)。
7 農山漁村余暇法に基づく農林漁業体験民宿。旅館業法の対象であるため民宿と同様に簡易宿所などの許可が必要。通常、簡易宿所は33m2以上が必要であるが、規制緩和によりそれ以下でも認められており、農家不足から農林漁業者以外でも農家民宿と同じく33m2以上という規制の除外とされた。
8 コンサートや大規模なお祭りなどの時期に宿泊施設の不足が見込まれる場合、自治体の決定で民泊を認めることが出来るという制度。イベント開催期間の数日間に限った旅館業法適用外の規制緩和であり、旅館業法の許可は不要。規制改革会議「規制改革に関する第3次答申」に記載され平成27年度より実施。第3次答申で唯一「民泊」という表現がなされている宿泊施設。高島福岡市長は定例会見(本年12月8日)で、12月中に開催が予定されている嵐とEXILEのコンサート時の5日間に限って民泊を解禁し宿泊施設不足に対処することを表明した。この効果等についてはまだ明らかになっていないが、株式会社百戦錬磨は福岡市における今回のイベント民泊についての課題を明らかにしている(注釈12参照)。
9 遊休期間の別荘貸出しは、所有者が利用しない期間中に他人に有償で貸し出す場合(旅館業法の許可が必要)、地方公共団体が認めれば住宅専用地域でもホテルとして認可されるもの。平成27年度中に実施される予定で現在検討中。規制改革会議「規制改革に関する第3次答申」に記載。
10 大手の宿泊マッチングサイト「Airbnb」などを通じて自宅を宿泊希望者に貸し出す民泊。現在、規制のあり方についての検討が進んでいる。
11 厚生労働省 第一回「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」」(2015.11.27)では「現行制度上、実施可能な「民泊」について」において、国家戦略特区の外国人滞在施設経営事業と、農林漁業体験民宿業と、イベント民泊の三つをあげている。なお、このうち、農林漁業体験民宿業は旅館業法の許可が必要。
12 厚生労働省第3回「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」(2015.12.21開催)において、株式会社百戦錬磨は、福岡市のイベント民泊の実施の中で直面した課題として、旅館業法で示された「反復継続」の判断に対して自治体や民泊オーナーが迷っているなどの点を明らかにしており、ガイドラインの策定やルール作りを求めている。
13 マンションなどに不特定多数の宿泊者が訪れるということから騒音問題などのトラブルは今後も生じると考えられるため、そうした騒音トラブルに対する取締り基準なども必要になると思われる。
14 「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」などにおける安倍首相の発言を元にした報道。
15 Airbnbによると、直近一年間に日本国内で約5千人が部屋を貸し出し、訪日客52万人が滞在したという。宿の収入は平均95万7千円で、日本への経済波及効果は2,220億円に達したという(日経MJ2015.11.30より)。
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(2015年12月22日「研究員の眼」)

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