2015年12月01日

【アジア新興経済レビュー】内需中心の緩やかな持ち直しが続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.生産活動 (韓国・台湾・タイ:10月、その他の国:9月)

(図表1)生産指数 アジア新興国・地域の生産指数の伸び率(前年同月比)は、足元で国内需要や輸出の緩やかな回復が進む韓国・マレーシア・フィリピン・インドでは持ち直しの動きが見られる。一方、台湾・タイ・インドネシアのように回復が遅れる国・地域もある(図表1)。

フィリピンは同+3.7%と主力の電気機械の好調や輸送用機器のプラス転化によって2ヵ月連続のプラスとなった。マレーシアは同+5.6%と、リンギ安の恩恵を受ける電気・電子製品や電気機械を中心に上昇した。またインドは同+3.6%と、インフレ圧力の後退や利下げなどによって資本財や耐久消費財を中心に上昇した。このほか韓国は前年同月比+1.5%と輸出不振で前月から生産が鈍化したものの、電子部品・デバイスや情報通信機器などを中心に上昇し、3ヵ月連続のプラスを記録した。

一方、台湾は同▲6.2%となり、アジア向け輸出の不振で主力の電子部品や機械設備のマイナス幅が拡大し、6ヵ月連続のマイナスを記録した。タイは同▲4.2%となり、来年の物品税導入を前に需要が増えている自動車は回復傾向が見られるが、全体では2ヵ月連続のマイナスとなった。またインドネシアは同+0.7%と、食料品や飲料、電気機械、組立金属製品などを中心に大幅に低下し、2年ぶりの低水準を記録した。
 

2.貿易 (韓国・台湾・タイ・インドネシア・インド:10月、その他の国:9月)

(図表2)輸出/(図表3)輸入 輸出(通関ベース)の伸び率(前年同月比)は、台湾・インドを除く国・地域で3ヵ月・6ヵ月平均を下回るなど、マイナス幅が拡大する傾向が見られる(図表2)。資源価格下落によるマイナスの影響は次第に弱まりつつあるものの、中国をはじめ世界経済の足取りは鈍く、輸出に下押し圧力が掛かっている。

フィリピンは主要輸出先の日本向け輸出が急激に落ち込み、4ヵ月ぶりの二桁マイナスとなった。韓国は、スマートフォンを除いて幅広い品目が落ち込むなか、特に海洋プラント向けの船舶の受注減が下押し要因となった。またタイは、前年同月の輸出額がEUのGSP(一般特恵関税制度)の適用除外前に増加していたことも下押し要因となった。
 

輸入の伸び率(前年同月比)は、加工貿易の縮小によって大幅マイナスが続いているが、インドネシアを除く国・地域は前月から上昇するなど、輸出同様に価格下落による下押し圧力は弱まりつつあるほか、足元の政府の景気刺激策を受けて底打ちの動きが見られる(図表3)。

フィリピンは同+7.0%と、製造業や建設業を中心に資本財や原材料の需要が旺盛で7ヵ国・地域中で唯一のプラスとなっている。

3.自動車販売 (10月)

(図表4)新車販売台数 108月の自動車販売台数の伸び率(前年同月比)を見ると、台湾を除く国・地域が6ヵ月平均を上回るなど、引き続き持ち直しの動きが見られた(図表4)。

フィリピンは前年同月比+28.7%と、前月から0.7%ポイント低下したものの、23ヵ月連続の二桁増を記録した。また韓国は同+20.3%と、引き続き新車効果や個別消費税の引下げ1が追い風となって上昇した。さらにインドは同+5.5%と祭事期に伴う需要増や金利引下げ効果を受けての3ヵ月ぶりの二桁増を記録した。このほか、マレーシアは同+2.9%と、前月から鈍化したものの、リンギ安を背景とした先行きの値上げ観測を前に駆け込み需要が増加し、3ヵ月連続のプラスを記録した。

一方、台湾は同▲6.9%と、「鬼月」と呼ばれる消費の不需要期だった前月からマイナス幅は縮小したものの、先行きの自動車買い換え促進策を前に購入を控える動きが強かった。またインドネシアは同▲16.1%と、昨年11月の燃料補助金削減や金利の高止まり、景気の先行き不透明感などが消費者の購買意欲の低下に繋がり、2ヵ月連続でマイナス幅が拡大した。さらにタイは同▲4.1%と、来年の物品税導入を前に消費者の購買意欲が増えてきているものの、30ヵ月連続のマイナスを記録した。
 
1 政府は8月に消費刺激策として、同月27日から年末までの期間限定で乗用車や大型家電製品に課される個別消費税を引き下げることを決めた。乗用車の個別消費税は従来の5%から3.5%に引き下げられた。

4.消費者物価指数 (10月)

(図表5)消費者物価指数 10月の消費者物価上昇率(前年同月比、以下CPI上昇率)は、昨年後半から続く資源価格下落による下押し圧力は後退し始めており、韓国・台湾・タイ・フィリピン・インドでは底打ちの動きが見られる(図表5)。

インドは祭事期に伴う消費需要の増加や昨年高騰していた食料品価格のベース効果の剥落、またモンスーン期(6-9月)の雨不足による一部食料品価格の高騰により2ヵ月連続で上昇した。またタイはエルニーニョ現象の長期化に伴う干ばつ被害を受けた生鮮食品の価格高騰も全体を押上げた。

一方、マレーシアとインドネシアは、イスラム教の断食明け大祭後の消費需要鈍化が続いたことや通貨下落圧力の後退などによって小幅に低下した。

5.金融政策 (11月)

(図表6)アジア新興国・地域の政策金利の状況 11月は、韓国・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピンの中央銀行で金融政策会合が開かれた。政策金利は全ての国で据え置きとなった。

インドネシアでは、17日の会合で政策金利(BIレート)を7.5%で維持することを決定した。インフレ率や経常収支などマクロ経済環境は安定に向かっているものの、中央銀行は米国の利上げを前に過度なルピア安を引き起こす恐れのある利下げに対して慎重になっている。しかし、12月からルピア建の預金準備率を8.0%から7.5%に引き下げるとするなど、相次いで経済政策パッケージを打ち出す政府との協調姿勢を示した。
 

6.金融市場 (11月)

(図表7)株価上昇率/(図表8)通貨上昇率 11月のアジア新興国・地域の株価は、マレーシアを除く国・地域で小幅に低下した(図表6)。月前半は中国政府による景気刺激策への期待やトルコ総選挙における与党勝利などで上昇し、その後は米連邦準備理事会(FRB)による年内利上げ観測が高まり、投資マネーの流出が加速するとの懸念からアジア株は下落した。月後半は、10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で利上げペースが緩やかになると確認されたほか、欧州中央銀行(ECB)の追加緩和期待も高まり、アジア株が買い戻される展開となった。

国別に見ると、台湾は中台首脳会談後の好材料出尽くしや一部企業による無給休暇の急増など、インドはビハール州選挙における与党連合の敗北や改善基調にあった鉱工業生産の鈍化などが株価下落に繋がった。
 

為替(対ドル)は、マレーシアを除く国・地域で小幅に下落するなど、総じて12月の米利上げの実施を前に軟調に推移した(図表7)。

国別に見ると、マレーシアはトルコによるロシア軍機撃墜を背景とする中東情勢の悪化で原油先物相場が反発したこと、また巨額の債務を抱える政府系投資会社1MDBの発電部門子会社エドラ・エナジーが保有する発電資産の全てを中国企業に売却すると決まるなど同社の債務解消の道筋がついてきたことが好感され、通貨上昇に繋がった。
 
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

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