2015年11月27日

中国経済見通し~2016年は6.7%、17年は6.5%

三尾 幸吉郎

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1.国内総生産(GDP)

中国では10月19日に国家統計局が15年7-9月期の国内総生産(GDP)を発表、経済成長率は実質で前年同期比6.9%増と4-6月期の同7.0%増を0.1ポイント下回った(図表-1)。また、前期比(季節調整後)では1.8%増と4-6月期(同1.8%増)と同じ伸びに留まった。なお、景気が失速するのではとの懸念が高まった1-3月期には同1.3%増まで落ち込んでいた(図表-2)。
 
(図表1)実質GDP成長率(前年同期比)/(図表2)実質GDP成長率(前期比、季節調整後)


産業別の内訳を見ると、第1次産業では4-6月期の前年同期比3.7%増から同4.1%増へ0.4ポイント上昇、第2次産業では同6.0%増から同5.8%増へ0.2ポイント低下、第3次産業では同8.5%増から同8.6%増へ0.1ポイント上昇した。第1次産業と第3次産業は健闘したものの、第2次産業の不振が主因となって、7-9月期の成長率は4-6月期よりも低下する結果となった(図表-3)。

一方、実質成長率よりも景気実感に近いとされる名目成長率を当研究所で計算したところでは、7-9月期は前年同期比6.2%増と4-6月期の同7.1%増を0.9ポイント下回った。特に、第2次産業の名目成長率は4-6月期の同1.6%増から同0.2%増へ1.4ポイントも低下しており、工業部門だけで見るとマイナス成長に落ち込んでいる(図表-4)。
 
(図表3)実質成長率の産業別内訳/(図表4)名目成長率の産業別内訳

2.需要別の動向

(図表5)需要別の寄与度 1|GDPの内訳

一方、需要別の内訳を見ると、年初からの累計(=1-9月期)で、最終消費が4.0ポイントのプラス寄与、総資本形成が3.0ポイントのプラス寄与、純輸出が0.1ポイントのマイナス寄与となっている。最終消費は昨年通期の3.8ポイントよりも0.2ポイント上昇するなど堅調だったが、総資本形成は昨年通期の3.4ポイントよりも0.4ポイント低下するなど不振が続いている。また、純輸出についてはここ数年ほぼゼロ近辺の寄与度が続いている(図表-5)。
 
2|個人消費の動向

個人消費の代表指標である小売売上高の足元の動きを見ると、10月は前年同月比11.0%増と9月の同10.9%増を0.1ポイント上回った。また、価格要因を除いた実質で見ても同11.0%増と9月の同10.8%増を0.2ポイント上回った(図表-6)。

内訳を見ると(一定規模以上)、自動車は昨年通期の前年同期比7.7%増から今年1-10月期は同4.5%増へ鈍化したものの、家電類や家具類などは住宅販売の回復を受けて伸びが回復、飲食も昨年通期の同2.2%増から今年1-10月期は同7.2%増に回復している。ここもと住宅販売はやや伸び悩み気味だが、自動車販売は10月に再開された小型車減税(排気量1.6L以下)が支援材料となりそうで、飲食も腐敗汚職撲滅運動が始まった13年には贅沢の象徴とされた高級飲食が大きく落ち込んだが、大衆飲食にシフトしたこともあって、その影響は徐々に薄れてきている。

今後も中国政府は最低賃金の引き上げなどを通じて輸出・投資主導から消費主導への転換を推進する方針で、所得の堅調な伸びに支えられて消費は堅調に推移すると予想している。今年1-9月期の全国住民(都市と農村)一人あたり可処分所得は価格要因を除いた実質で前年同期比7.7%増と、実質成長率の同6.9%増を0.8ポイント上回るなど所得は堅調な伸びを示している(図表-7)。
 
(図表6)小売売上高(実質)の推移/(図表7)全国住民一人あたり可処分所得の伸び率(実質)
(図表8)固定資産投資(除く農家の投資)の推移 3|投資の動向

投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、今年1-10月期は前年同期比10.2%増と昨年通期の同15.7%増を5.5ポイントも下回った(図表-8)。

内訳を見ると、製造業が昨年通期の前年同期比13.5%増から今年1-10月期には同8.3%増へ低下、不動産業が昨年通期の同11.1%増から今年1-10月期には同3.4%増へ低下したのが目立つ。その他の分野でも伸びは低下しているが、インフラ関連や消費サービス関連では2桁の高い伸びを維持している(図表-9)。
製造業に関しては、輸出の落ち込みや先行き不安で投資の回復は期待できそうにない(図表-10)。「中国製造2025」1に関連する領域では積極的な投資もでてきてはいるが、過剰生産設備を抱える分野などでは、安価で豊富な労働力を求めて後発新興国へ工場を移転する中国企業が増えている。

不動産業に関しては、沿海部の巨大都市では住宅販売が持ち直して住宅価格も底打ちしたが、地方都市では依然として低迷から脱却できないでいる。但し、新型都市化に伴って巨大都市と中小都市を結ぶ交通物流網が整備されるに連れて、不動産に対する新たな需要(商業不動産、オフィス、物流不動産、レジャー観光、高齢者向け住宅など)が生み出されるため一定の伸びは期待できる。

消費サービス関連に関しては、堅調な消費を背景に関連投資も高い伸びを維持するだろう。所得水準上昇が追い風となる文化・体育・娯楽業や教育、それに自由化が進む金融業などに期待できる。

インフラ関連に関しては、製造業や不動産業の投資が落ち込めば、景気テコ入れ策として長期計画を前倒しで執行すると予想している。大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連のインフラ需要や、中国共産党・政府が14年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)2」に伴う交通物流関連のインフラ需要は依然として大きい。
 
(図表9)固定資産投資(除く農家の投資)の内訳/(図表10)新規輸出受注指数の推移
 
 

1 中国政府は2015年5月19日に「中国製造2025」(国発[2015]28号)を発表し、“製造大国”から“製造強国”への転換を図る道筋を示した。なお、戦略的新興産業との対比については「“中国製造2025”と日本企業」(研究員の眼2015年4月13日)を参照。
 
2 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元(約800兆円)に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。
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三尾 幸吉郎

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