2015年11月26日

【フィリピンGDP】7-9月期は前年同期比+6.0%~堅調な消費と政府支出の更なる拡大で加速~

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.7-9月期は前年同期比+6.0%

2015年7-9月期の実質GDP成長率1は前年同期比+6.0%の増加となり、前期の同+5.8%を上回ったものの、市場予想2の同+6.3%には届かなかった。また前期比(季節調整値)は+1.1%と前期の同+2.0%から低下した。

需要項目別に見ると、政府支出の拡大が成長率の上昇に繋がったことが分かる(図表1)。民間消費は前年同期比+6.3%(前期:同+6.2%)と、レストラン・ホテル、輸送、通信を中心に上昇した。政府消費は同+17.4%(前期:同+3.9%)と、給与や社会保障分野の支払いを中心に上昇した。総固定資本形成は同+9.3%(前期:同+8.9%)と上昇した。建設投資が同+5.3%(前期:同+13.1%)と民間部門を中心に低下したものの、設備投資が同+12.1%(前期:同+6.4%)と上昇したことが投資全体を押上げた。輸出入については、まず輸出が同+6.4%(前期:同+2.1%)と上昇した。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の好調なサービス輸出はやや鈍化したものの、財輸出がプラス転化したことが輸出改善に繋がった。また輸入は同+13.5%(前期:同+10.4%)と内需拡大によって更に上昇した。結果、純輸出の成長率への寄与度は▲3.9%ポイント(前期:同▲3.5%ポイント)とマイナス幅が拡大した。

供給項目別に見ると、GDPの約6割を占める第三次産業は前年同期比+7.3%(前期: 同+6.2%)と上昇した(図表2)。卸売・小売をはじめ金融、不動産、運輸・通信がそれぞれ上昇した。また第二次産業は同+5.4%(前期: 同+5.9%)と低下した。製造業が同+5.6%(前期:同+4.7%)と上昇したものの、建設業が同+4.8%(前期:同+15.3%)と民間部門の息切れによって低下した。第一次産業は同+0.4%(前期: 同▲0.2%)とプラスに転化したものの、エルニーニョ現象による高温と台風被害を受けてコメをはじめとした作物の収穫が落ち込んでいる。

7-9月期の海外からの純所得3は前年同期比+4.7%(前期:同+3.6%)と改善したことから、国民総所得(GNI)は前年同期比+5.8%(前期:同+5.4%)と上昇した。
 
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピンの実質GDP成長率(供給側)


 
 
1 11月26日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。
2 Bloomberg調査
3 フィリピンは海外の出稼ぎ労働者が多い。国内への仕送りは海外からの純所得として計上され、消費に大きな影響を及ぼす。

2.堅調な消費と政府支出の更なる拡大で加速

ASEAN主要国の景気が停滞するなか、同国の成長率は2期連続で上昇し、3期ぶりの6%台を記録した。7-9月期は政府支出が更に拡大し、堅調な民間消費が景気を牽引した。また輸出は改善したものの、強い内需を背景に輸入が大きく拡大し、純輸出が成長率を下押しする状況に変化はない。

GDPの約7割を占める民間消費は、雇用・所得の増加や低インフレ環境を受けて堅調を維持した。消費者物価上昇率はエルニーニョ現象による食料品価格への影響が限定的で、資源価格の低迷と穀物輸入の拡大を背景に低下傾向が続いている。一方で最低賃金は上昇傾向が続くなど、家計の実質購買力の向上が消費者心理の改善に繋がっている(図表3)。また海外就労者の送金額(ペソ建て)は通貨安や送金サービスの改善を受けて底堅く推移し、消費を下支えした。

また政府部門については、政府の7-9月の歳出額が前年比+19.3%と、4-6月の同+12.5%から更に上昇した。特にインフラ整備予算の支出が順調であり、建設部門の粗付加価値額(GVA)を見ると公共部門が前年比+41.2%と大きく伸びていることが分かる (図表4)。また設備投資は強い企業マインドを受けて一般産業機械や輸送用機器などの投資が拡大した。

輸出は2期ぶりに改善した。海外経済が弱含んでいるにも関わらず、主力の半導体など電子部品の実質輸出は2期連続の二桁増を記録した。このことは製造業のグローバル・サプライチェーンに同国を組み込む動きが進んでいることを示している。

先行きは来年5月の大統領選に向けた選挙関連支出の拡大が期待され、インフラ予算が拡充される来年度予算は前年比15.2%増の大型予算となる予定であり、民間消費と政府支出が今後も景気を牽引することになりそうだ。さらに足元の輸入は消費財と資本財に続いて原材料も伸びており、輸出も当面拡大するだろう。エルニーニョ現象の長期化や政権交代による政策変更などはリスクとして挙げられるものの、景気が腰折れする可能性は低く、成長率は7%に向けて加速していくと見られる。
(図表3)フィリピンの消費者信頼感指数、ビジネス信頼感指数/(図表4)建設部門の粗付加価値額(GVA)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2015年11月26日「経済・金融フラッシュ」)

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