2015年11月17日

2015~2017年度経済見通し(15年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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設備投資の伸びは経常利益よりも売上高に連動 (企業収益好調でも伸びない設備投資)

好調な企業収益を背景として景気の牽引役となることが期待されていた設備投資は2015年4-6月期の前期比▲1.2%に続き7-9月期も同▲1.3%と低調に終わった。また、設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く)が7-9月期に前期比▲10.0%と5四半期ぶりに減少した後、10-12月期の見通しも前期比2.9%と大幅な落ち込みの後としては低い伸びにとどまっている。日銀短観の設備投資計画は9月調査時点でも強めとなっているが、海外経済の不透明感などから計画の一部が先送りされている可能性がある。

企業収益が好調を続けているにもかかわらず設備投資の伸びが高まらない理由のひとつには、最近の企業収益の増加が円安に依存する部分が大きく売上高の増加を伴っていないことがあるだろう。法人企業統計で経常利益、売上高と設備投資の関係をみると、設備投資との連動性が高いのは経常利益よりも売上高のほうである。2015年4-6月期の法人企業統計では経常利益が前年比23.8%と非常に高い伸びとなったが、売上高は前年比1.1%の低い伸びにとどまり、日銀短観9月調査でも2015年度の売上高計画は前年比0.4%とほぼ横ばいにとどまっている。設備投資を増やすことで売上の増加につながる確信が持てないことが、企業が設備投資に慎重な姿勢を崩さない大きな要因になっていると考えられる。

2.実質成長率は2015年度0.9%、2016年度1.6%、2017年度0.0%を予想

(景気は2015年度末にかけて足踏み状態を脱する公算)

鉱工業生産は2四半期連続の減産となったが、月次ベースでは9月に前月比1.1%と3か月ぶりに増加し、企業の生産計画を表す製造工業生産予測指数も10月が前月比4.1%の高い伸びとなっている(11月は同▲0.3%の低下)。また、消費税率引き上げ直後から積み上がりが続いていた在庫指数は2015年7-9月期には前期末比▲0.9%と7四半期ぶりに低下した。
 
消費税率引上げ前後の在庫動向/輸送機械の生産、在庫動向

特に、輸出、国内販売の低迷から在庫が大きく積み上がっていた輸送機械の在庫指数は7月からの3ヵ月で▲20%の大幅低下となった。在庫調整の進展を受けて輸送機械の生産は9月に前月比0.8%と3ヵ月ぶりに増加した後、10月も同7.3%の増産計画(11月は同▲1.1%)となっている。他業種への波及効果が大きい輸送機械の在庫調整が大きく進展したことは生産の先行きを見る上で明るい材料だ。鉱工業生産は10-12月期には3四半期ぶりの増産となることが予想される。ただし、依然として在庫水準が高く在庫調整圧力が残っていること、輸出を中心として最終需要の持ち直しは緩やかにとどまる可能性が高いことから、生産の本格回復までには時間を要するだろう。


(2016年度末にかけて民需中心の成長が続く)

消費税率引き上げ後の6四半期のうち4四半期でマイナス成長となるなど、実質GDPは低迷が続いているが、その一方で原油価格下落に伴う交易利得の改善、円安による海外からの所得の拡大傾向が続いているため、実質GNI(国民総所得)は堅調に推移している。直近(2015年7-9月期)の実質GDP、実質GNIの水準を消費税率引き上げ直前(2014年1-3月期)と比較すると、実質GDPは▲1.2%下回っているが、実質GNIは逆に1.6%上回っている。
 
実質GNIと実質GDP

現時点では交易利得の改善、海外からの所得の拡大が企業収益の大幅増加をもたらす一方、国内の支出拡大には十分につながっていないが、10-12月期以降は家計の実質購買力の向上を通じて個人消費の回復に寄与することが見込まれる。また、企業が慎重姿勢を強めていることもあり設備投資の本格的な回復は当面期待できないが、個人消費を中心とした国内需要の回復によって売上高の伸びが高まれば、企業の設備投資意欲が高まり潤沢なキャッシュフローを設備投資に振り向ける動きが徐々に顕在化するだろう。

一方、輸出は引き続き円安による下支えは続くものの、回復ペースは緩やかにとどまる公算が大きい。中国をはじめとした新興国経済の減速という循環要因に加え、生産拠点の海外シフトによって国内の生産能力が大きく低下しているため、円安や海外経済の回復によって輸出環境が改善しても国内生産の拡大によって十分に対応できないという構造要因が引き続き輸出の下押し要因になると考えられるためである。
 
上昇する海外生産比率と低下する国内生産能力

また、公的固定資本形成は2014年度補正予算の効果が一巡しつつある中、2015年度末にかけて編成が予定されている補正予算ではTPPや子育て支援策が中心となり、公共事業の大幅な積み増しは見込めない。このため、公的固定資本形成は減少傾向が続く可能性が高い。

実質GDP成長率は、民間消費、設備投資の増加を主因として2015年10-12月期に前期比年率1.4%とプラス成長に復帰し、その後も国内民間需要中心の成長が続くと予想する。ただし、海外経済の悪化による輸出の腰折れ、企業の慎重姿勢が強まることによる設備投資計画のさらなる先送りなど、当面は下振れリスクの高い状態が続きそうだ。
2016年度は2017年4月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)前の駆け込み需要もあり高めの成長となるが、2017年度は消費税率引き上げの影響からほぼゼロ成長となるだろう。実質GDP成長率は2015年が0.9%、2016年度が1.6%、2017年度が0.0%と予想する。
 
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)

なお、当研究所では2014年4月の消費税率引き上げ前後の駆け込み需要とその反動の規模を実質GDP比で0.6%程度と試算しているが、現時点では2017年4月の税率引き上げ時の駆け込み需要とその反動は実質GDP比で0.3%程度と前回よりも小さくなることを想定している。これは税率の引き上げ幅が前回よりも小さいこと、駆け込み需要が発生しやすい住宅、自動車など買い替えサイクルの長い高額品については、前回の税率引き上げ時にすでに前倒しで購入されている割合が高いと考えられるためである。

また、2017年度の消費税率引き上げ時に導入が予定とされている軽減税率については、現時点では方向性が固まっていないことから、今回の見通しには織り込んでいない。仮に、食料(酒を除く)に軽減税率が導入された場合、2017年度の家計の負担額は1.3兆円程度軽減される。また、消費税率の8%から10%への引き上げによって消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)は1.3%ポイント程度押し上げられるが、食料(酒を除く)に軽減税率が導入されると上昇率は0.9%ポイント程度となる。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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