2015年11月16日

QE速報:7-9月期の実質GDPは前期比▲0.2%(年率▲0.8%)~設備投資の減少から2四半期連続のマイナス成長も、在庫調整の進展は好材料

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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7-9月期は前期比年率▲0.8%と2四半期連続のマイナス成長

本日(11/16)発表された2015年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.8%)と2四半期連続のマイナス成長となった(当研究所予測10月30日:前期比▲0.0%、年率▲0.2%)。
4-6月期に大幅に減少した民間消費(前期比0.5%)、輸出(前期比2.6%)は増加に転じたが、設備投資の減少(前期比▲1.3%)が続いたこと、在庫調整の進展に伴い民間在庫が前期比・寄与度▲0.5%と成長率を大きく押し下げたことから、GDP全体では2四半期連続のマイナス成長となった。
実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.3%(うち民需▲0.3%、公需0.0%)、外需が0.1%であった。
 
名目GDPは前期比0.0%(前期比年率0.1%)と小幅ながら4四半期連続の増加となり、実質の伸びを上回った。GDPデフレーターは前年比では2.0%(4-6月期:同1.5%)と前期から伸びを高め、前期比では0.2%(4-6月期:同0.3%)と4四半期連続のプラスとなった。
 
<重要項目別結果>

なお、2015年7-9月期の1次速報と同時に、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定された。2015年4-6月期の実質GDP成長率は民間消費、外需の上方修正などから前期比年率▲1.2%から同▲0.7%へと上方修正された。
 
<需要項目別の動き>

民間消費は、雇用・所得環境の改善を背景に前期比0.5%と2四半期ぶりに増加した。夏のボーナスが期待外れに終わるなど名目賃金は伸び悩んでいるが、原油価格下落に伴う物価上昇率の低下によって、物価高による実質所得の押し下げ圧力は緩和されている。また、雇用者数(労働力調査ベース)が前年比1%弱と高めの伸びを続けていることがマクロベースの雇用者所得の押し上げに寄与している。雇用者報酬は名目・前年比1.7%(4-6月期:同0.8%)、実質・前年比1.6%(4-6月期:同0.7%)といずれも4-6月期から伸びを高めた。
ただし、7-9月期の民間消費は4-6月期の落ち込み分(前期比▲0.6%)を取り戻すには至らず、引き続き消費税率引き上げ前の駆け込み需要が本格化する前の水準を大きく下回っている。個人消費の持ち直しのペースは極めて緩やかで、本格回復にはほど遠い状況にある。
また、一部にはGDP速報の推計に用いられる家計調査が実態よりも弱い結果となっていることが、GDPベースの個人消費の過小推計につながっているとの見方もある。しかし、「消費財総供給」、「第3次産業活動指数の対個人サービス」(いずれも経済産業省)を加重平均して供給側の統計から試算した個人消費の動きを確認すると、四半期毎の動きに違いはあるものの、総じてみればGDP統計の個人消費とほぼ同様の動きとなっていることが分かる。消費増税後の個人消費は実態として低調に推移していると判断される。
 
個人消費の比較(GDP統計と供給側試算値)

家計消費の内訳を形態別に見ると、耐久財(前期比1.4%)、半耐久財(同2.6%)、非耐久財(同0.2%)、サービス(同0.4%)のいずれも増加したが、自動車販売の持ち直し、秋物衣料の好調を反映し、耐久財、半耐久財が特に高い伸びとなった。
 
住宅投資は前期比1.9%と3四半期連続で増加した。住宅投資は駆け込み需要の反動が一巡する中、住宅ローン減税の拡充、住まい給付金、低金利などに支えられて持ち直しの動きが続いている。
ただし、新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2015年4-6月期の95.3万戸から7-9月期は91.5万戸とやや水準を落としているため、工事の進捗ベースで計上されるGDP統計の住宅投資は10-12月期から減速する可能性が高い。
 
設備投資は前期比▲1.3%と2四半期連続の減少となった。企業収益は好調を維持し、日銀短観の設備投資計画は9月調査時点でも強めとなっているが、海外経済の不透明感などから計画の一部が先送りされている可能性がある。設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く)が7-9月期に前期比▲10.0%と5四半期ぶりに減少した後、10-12月期の見通しも前期比2.9%と大幅な落ち込みの後としては低い伸びにとどまっている。企業収益の改善を背景に先行きの設備投資は持ち直しに向かうと予想するが、景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。
 
民間在庫は前期比・寄与度▲0.5%と大幅なマイナスとなった。民間在庫の内訳をみると、在庫調整の進捗を反映し、製品在庫、流通在庫、原材料在庫、仕掛品在庫、原材料在庫のいずれもマイナス寄与となった。流通在庫、仕掛品在庫はフローベースの実額がマイナス(流通在庫:▲1.2兆円、仕掛品在庫:▲0.8兆円)となっており、最終需要が企業の想定を下回る状態を脱しつつあることを示唆している。ただし、仕掛品在庫、原材料在庫は4-6月期までの実績値をもとに内閣府が仮置きした数字であるため、法人企業統計の結果を基に推計される2次速報では大きく改定される可能性がある。
 
公的需要は前期比0.2%と2四半連続で増加したが、4-6月期の同0.8%から伸びが鈍化した。政府消費は前期比0.3%の増加となったが、2014年度補正予算の効果一巡から公的固定資本形成が前期比▲0.3%と2四半期ぶりに減少した。公共工事の先行指標である公共工事請負金額の減少幅が拡大していることを踏まえれば、公的固定資本形成は先行きも減少することが見込まれる。
 
外需寄与度は前期比0.1%と3四半期ぶりプラスとなった。
財貨・サービスの輸出は、前期比2.6%と2四半期ぶりに増加したが、4-6月期の大幅減少(前期比▲4.3%)を考えれば持ち直しのペースは鈍い。財貨・サービス別には、中国をはじめとしたアジア向けが低調だったことから財貨の輸出は前期比1.8%と4-6月期の落ち込み(前期比▲5.0%)の半分以下の伸びにとどまったが、訪日外国人の増加に伴うインバウンド需要の好調を反映しサービスの輸出が前期比7.0%の高い伸びとなった。
財貨・サービスの輸入は国内需要の持ち直しを反映し、前期比1.7%と2四半期ぶりの増加となった。
 
(景気は足踏み状態から持ち直しへ)

2015年7-9月期の実質GDPは2四半期連続のマイナス成長となり、日本経済が2015年度に入り足踏み状態が続いていることが再確認される形となった。一方、4-6月期は民間在庫が成長率を前期比0.3%押し上げる中で年率▲1%近いマイナス成長だったのに対し、7-9月期は在庫調整の進展に伴い民間在庫が成長率を前期比▲0.5%と大きく押し下げる中で年率▲1%弱のマイナス成長にとどまり、在庫を除いた最終需要は前期比で増加に転じた。成長率のマイナス幅はほとんど変わらないが、内容的には4-6月期よりも改善しているとの評価が可能だろう。
現時点では、2015年10-12月期は前期比年率1%台のプラス成長を予想している。中国をはじめとした新興国経済の減速に伴う輸出の伸び悩みから外需による成長率の押し上げは当面期待できず、個人消費、設備投資を中心とした国内需要が経済成長の中心となるだろう。景気のリスク要因は、中国をはじめとした海外経済の悪化から輸出が下振れすること、企業の慎重姿勢がさらに強まることにより、設備投資計画の先送り、中止の動きがさらに広がることである。
 
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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