2015年11月11日

10月マネー統計~貸出と通貨供給量の伸びが鈍化

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■見出し

・貸出動向: 勢いにやや陰りがみられる
・主要銀行貸出動向アンケート調査: 企業向け資金需要の増勢強まる
・マネタリーベース: 順調なペースで積み上げが進行
・マネーストック: 2ヵ月連続で伸びが鈍化

■要旨

日銀が11月10日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、10月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.5%と前月(改定値2.7%)から縮小した。伸び率の縮小は2ヵ月連続であり、2.5%というレベルは今年6月以来4ヵ月ぶりの低水準となる。夏以降、前年比で見た円安度合いが弱まってきており、外貨建て貸出の円換算額に対する押し上げ効果が剥落しつつあることも貸出の伸び鈍化に影響しているようだ。11月以降は前年比での円安度合いがさらに弱まることがほぼ確実であるため、今後の銀行貸出の(見た目の)伸び率にとって抑制要因になる。

主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2015年7-9月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は7と前回の2から上昇した。D.I.はプラスでの推移が続いており、資金需要は緩やかな増加基調にある。前回に比べても増勢は強まった。今後3ヵ月の資金需要については、企業向けは増勢が鈍り、個人向けは横ばいとなるとの予想であり、慎重な見方が根強い。企業向けでは内外景気への警戒感、個人向けでは住宅の建設コスト上昇などが影響した可能性がある。

日銀による資金供給量を示すマネタリーベースの10月平均残高は前年比で32.5%の増加となった。伸び率は前月(同35.1%)から縮小している。現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は単純計算で月当たり6.7兆円増だが、1-10月平均の季節調整済みのマネタリーベース平均残高の増加ペースは月6.9兆円と、目標達成ペースを上回っており、順調なペースで積み上げが進んでいる。

10月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2平均残高の伸び率は前年比3.6%、M3は同2.9%と、それぞれ2ヵ月連続で伸びが鈍化した。銀行貸出の伸び率縮小などが影響したとみられる。M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率も前年比3.9%と縮小した。M3に加えて、残高が大きい投資信託(元本ベース)ならびに外債の伸び率縮小が影響した。投資信託の伸び率は、7月に頭打ちとなり、8月以降は縮小が続いている。縮小に転じたのは、中国不安や米利上げへの警戒から市場が大きく不安定化した時期と重なっており、家計がリスク回避姿勢を強めた可能性がある。

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2015年11月11日「経済・金融フラッシュ」)

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