2015年10月07日

企業のSNS活用状況は-企業間に拡がる潜在的なSNSの経験較差

基礎研REPORT(冊子版) 2015年10月号

生活研究部 井上 智紀

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総務省情報通信政策研究所が5月に公表した「平成26年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、消費者の主なメディアの利用状況および平日・休日の1日あたりの平均的な利用時間では、全年代を通じて「テレビ(リアルタイム視聴のみ。以下同じ)」が最も多く、「インターネット」が続いている。年代別にみると、10~20代では平日・休日ともに利用率(行為者率)、利用時間のいずれも「インターネット」は「テレビ」を上回っており、なかでも「ソーシャルメディア(以下SNS)」の利用が多くなっている。また、前年と比較した結果からは、「SNS」は30代以上でも利用時間が増加していることが示されている。これらの結果から、消費者の日常生活においてSNSは今後も確実に浸透していくものと思われる。
   このような消費者側の生活行動やメディアへの接触状況の変化に対して、企業側では十分に対応できているのだろうか。総務省の「通信利用動向調査(企業編)」から企業のSNSの活用状況についてみると、全体ではH23調査の12.2%から概ね増加傾向にあるものの、最新のH26調査でも17.6%と2割に満たない結果となっている[図表1]。H26調査の結果について業種別にみると、卸売・小売、金融・保険、不動産、サービス、その他では2割を超えて全体に比べ高く、企業規模別では概ね大企業ほど高くなる傾向がみられているものの、大企業でも4割に満たない結果となっている。業種や企業規模による違いはあるものの、SNSの活用企業は、未だ少数派であり、今後の拡大も緩やかなものに留まるものと思われる。



 

一方、SNSの活用企業について、活用目的・用途を尋ねた結果をみると、全体では「商品や催物の紹介、宣伝」が63.3%で最も多く、「定期的な情報の提供」(59.2%)、「会社案内、人材募集」(32.3%)の順となっている。時系列で比較すると、「定期的な情報の提供」が一貫して増加し、「商品・催物の紹介、宣伝」もH24からH25にかけて増加する一方、「会社案内、人材募集」「消費者の評価・意見の収集」は減少傾向にあることがわかる。直近の3時点間の推移を業種別にみると、H24からH25にかけて、卸売・小売、サービス、その他で「商品や催物の紹介、宣伝」が、サービス、その他で「定期的な情報の提供」が、それぞれ10ポイント以上増加している。また、「定期的な情報の提供」は、H25からH26にかけて製造、卸売・小売でも10ポイント以上増加している。これらの結果は、企業におけるSNSの活用目的が、広報活動や消費者の評価・意見の収集から、積極的な情報発信による自社商品・サービスの利用の拡大や消費者間コミュニケーションの誘発につなげる取り組みにシフトしてきていることを表しているものと考えられる。前述のとおり、SNSは消費者の日常生活に確実に浸透しつつあるのに対し、SNSを活用する企業はまだ少数派である。一方で既に活用している企業のなかには、より積極的な取り組みを進めるところもでてきているようである。
   このことは、SNSの活用による経験の蓄積が、一部の企業のなかでは急速に進んでいるのに対し、多くの企業においては取り組みが遅々として進まず、潜在的に大きな経験の差(較差)を産んでいることを意味している。SNSへの取り組み較差が企業業績や顧客との関係性において競合他社との格差につながる前に、まずは取り組みを始める必要があるのではないだろうか。

 
 

 
  1 同調査では10種類のサービスを列挙してそれぞれ利用の有無を尋ねているのに対し、通信利用動向調査では調査票上、記入の手引のいずれにおいても、具体的なサービス名称は示されていない。
  2 詳細は情報通信統計データベースより「通信利用動向調査(企業編)」各年の調査結果(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05b2.html)を参照されたい。
  3 該当する事例には、来店誘導や商品トライアルを企図した各種キャンペーンや、口コミによる拡散を狙ったスペシャルムービーの公開、消費者参加型キャンペーンなどがある。
  4 企業のSNS活用事例は、インターネット上に公開されているものも少なくないが、背後には、開示されることのない貴重な経験も蓄積されているものと考えられよう。
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