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- 「猛暑」と「冷夏」-今年の夏が示唆すること
9月になり今年の夏を振り返ってみると、「猛暑」で「冷夏」という何とも奇妙な夏だった。今年は、5月までに多くの台風が発生し、梅雨前線が長く停滞して、豪雨や冷夏が心配されていた。しかし、7月中旬以降、連日暑い日が訪れた。東京では35度を超える猛暑日が連続8日続き、1875年に観測を始めてから最長になった。気象庁の資料によると、東京の年間猛暑日数が10日以上を記録したのは1995年が初めてで、その後は2010年、2013年、そして今年で4回目となる。
昔の家庭にはエアコンもなく、一体、どうやってこの猛暑を凌いでいたのだろう。昔を知る人は、『かつての夏はこんなに暑くなかった』と言う。確かに真夏といえども30度を少し超える「真夏日」であり、35度を超す「猛暑日」は珍しかった。窓を開け放って風を通しておけば、冷房なしでも凌げないほどの暑さではなかったのだろう。
全国各地で熱中症になる人も続出した。消防庁資料によると、7月の熱中症による救急搬送人員は2万4,567人、7月の搬送人員としては平成20年の調査開始以降、過去最多となった。搬送者全体の半数が65歳以上の高齢者で、死亡した人も39人に上る。屋内での熱中症死亡事故も発生し、テレビなどでは熱中症への注意が盛んに報じられていた。
『今年の夏はなんと暑いのだろう』と思っていたら、8月25日以降、気温が急降下し、最高気温が21度台と10月中旬並みになった。8月に最高気温が25度未満を4日間以上記録したのは、2003年の冷夏以降12年ぶりで、過去30年間に同様の日は40日しかないそうである。今年の夏は、「猛暑」とも「冷夏」とも言える不思議な夏だったが、これは“異常”気象なのだろうか。
今、日本の都市部の地表面の多くがアスファルトで覆われ、冷房や自動車からの大量の廃熱と温室効果ガスの排出により地球は間違いなく温暖化している。それが海水面の温度分布を変え、気圧配置や台風の進路に影響を与え、「猛暑」だけでなく「冷夏」をもたらし、<夏=暑い>という単純な図式は成り立たなくなった。温暖化とは地球全体を取り巻く気候変動だとつくづく実感する。
身近に起きている“異常”気象と思えることも、地球規模でみれば自然の摂理なのかもしれない。北半球で大雪や厳しい冬が局所的に発生するという事象も、地球全体を観察すると発生メカニズムが徐々にわかってくる。「猛暑」と「冷夏」になった今年の夏は、自然現象や社会現象を読み解くうえで、地球的視野と時間軸で物事を捉えることが、いかに重要であるかを示唆しているように思える。
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2015年09月08日「研究員の眼」)
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