2015年09月07日

円安・株高が生命保険業界に追い風-2014年度決算の概要

基礎研REPORT(冊子版) 2015年9月号

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

5月に生命保険協会加盟42社全社(昨年度から1社減少)は2014年度決算を公表した[図表1]。今決算の巷の最も大きな話題は、第一生命が保険料収入において日本生命を抜き業界首位となった、ということであるが、それはさておき全体の状況を概観する。
   まず新契約高の状況としては42社合計で1.6%増加、保有契約高は▲0.9%減少となった。「伝統的生保」(以下、大手中堅9社数値で表示)の新契約高は▲7.7%の減少と、引き続きマイナスとなった。保有契約高も▲3.2%と引き続き減少した。「外資系生保」は、新契約高が6.9%増加と前年度(▲8.1%)から増加に転じた。保有契約は、4.6%と引き続き増加した。「損保系生保」は、新契約が2.0%増加、保有契約は5.1%増加した。「異業種系生保等」は新契約が19.5%増加、保有契約6.4%増加となっている。外資系・損保系・異業種系とも、会社によって異なるが、医療(第三分野)、終身保険、個人年金が増加している。基礎利益は、増加している。
   次に、新契約年換算保険料の状況である[図表2]。かんぽ生命を除く41社合計で、個人保険は対前年+9.4%と増加に転じた。(前年度は▲4.8%)
   また、個人年金は23.0%の増加(前年度は▲1.4%減少)となった。伝統的生保では新契約高が減少となる一方で年換算保険料ベースでは増加している。第三分野については、引き続き損保系を中心として進展しており、7.5%の増加となった。




2―大手中堅9社の収支状況

1│増加した基礎利益

2014年度の資産運用環境は、3年連続で株高・円安が進行するという、生命保険会社にとっては、好ましい状況であった[図表3]。一方、国内金利については、さらに低下した。株高・円安を反映して、有価証券含み益は、9社合計で11.6兆円増加した[図表4]。その内訳は、国内債券で+3.5兆円、国内株式で+4.8兆円および外国証券で+3.1兆円であった。そうした中、2014年度の基礎利益は24,102億円、対前年度9.6%の増益となった[図表5]。利差益はさらに益が拡大し、危険差益・費差益の合計は、ほぼ横ばいとなった。3利源を公表している7社のみの合計で、さらに詳しくみる[図表6]。危険差益は+1.5%と微増で、保有契約高減少の影響による減少と、保有契約高に表れない第三分野商品好調による増加、双方の要因がある。費差益については、▲9.3%の減少となった。保有契約減少が付加保険料の減少を招き、費差益も年々減少する傾向にある。しかし、大手中堅9社は、この状況を厳しく認識して、経費節減に努めているものと思われ、その結果事業費が大きく減少している。今後しばらく、費差益の減少を最小限にくいとめることに期待できるだろう。



 

2│逆ざやの解消から利差益の拡大へ

大手中堅9社の逆ざや額は2012年度に▲1,669億円であったものが、2013年度は利差益1,740億円へと転じ、2014年度はさらに拡大して、3,841億円の利差益となった。[図表5及び7]
   「平均予定利率」は、毎年0.1%程度前後の緩やかな低下を続けており、今後しばらくこの傾向は続くだろう。
   一方、「基礎利回り」は、0.07ポイント上昇した。株式配当金や外国証券利息・配当金が増加したことによる。
   一方で、現在の超低金利状況は、国内債券の利息の減少という形で、将来徐々に悪影響をもたらすと予想されるが、表面上はまだ現れていない。



 

3│増加した当期利益~内部留保と配当へ

次に当期利益の動きである[図表8]。基礎利益、当期利益ともに大幅に増加した。
   基礎利益((1))、キャピタル損益((2)+(3))とも増加し、その合計額は27,327億円と対前年度+2,844億円の増益となった。また、「(8)その他」はほとんどが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるための責任準備金の上乗せ分。)の繰入額である。
   危険準備金や価格変動準備金の繰入や、さらに政策的要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態は21,715億円(A')となっている。
   こうした利益の使途であるが、危険準備金・価格変動準備金とも、前年度ほどではないが、増加している(内部留保の増加(B))。これに追加責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B')は14,547億円と、前年度に比べさらに増加した。
   一方、配当であるが、7,168億円が還元されることとなり、前年度より655億円増加した。内部留保の充実の方に重点がおかれる中でも、良好な運用環境を背景に、契約者の期待に応える努力も同時に感じられる。



 

4│上昇したソルベンシー・マージン比率

ソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが[図表9]である。9社合計で形式的に算出した比率は前年度の833.6%から957.2%へと上昇した。これは、株式や外国証券の含み益の増加が最大の要因である。また、危険準備金、価格変動準備金などの積増も、上昇に寄与している。同時にリスク総額も増加しているが、これは有価証券時価が増加したためである。

 

5│今後の動き

最近、国内大手社は、国内の利益確保は頭打ちとみて、海外保険会社を買収するなどして、企業グループとしての規模や収益を伸ばそうという動きが活発化している。
   そうしたこともあって、冒頭に述べたように、保険料収入、基礎利益などの会社順位も変動する兆しがある。
   個社の業績をみる場合、今後は海外業績や、それを反映した連結決算にも注目する必要があろう。

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2015年09月07日「基礎研マンスリー」)

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