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- 所得8倍でも無くならない経済問題~ケインズの誤算~
1――百年後に3時間労働を予想
2――必需品需要の飽和
2014年の日本の賃金を見ると、部長級の賃金は、就職直後の20台前半の非役職者の3.16倍、課長級で2.51倍となっている。所得が8倍になれば、新入社員は部長が今もらっている月給の2倍以上の所得を得るようになり、部長は社長の現在の所得よりも高い給料を得ることになる計算だから、生活水準は著しく向上するはずだ。実質所得が8倍になれば経済的な問題は無くなるはずだと、ケインズが考えたのはもっともだ。
3――経済的問題は無くならず
人々が最低限と考える医療や公共サービスの水準は、現在では1930年当時に比べてはるかに高くなっており、当然それを賄うコストも高くなっている。また、物価統計ではテレビの価格は大幅に低下しているが、昔売っていたようなテレビが非常に安い値段で買えるわけではない。テレビ番組を見ようとすると、アナログ式の白黒のブラウン管テレビではなく、地デジ対応のカラーテレビを買うしかない。テレビといえばカラーなのは当たり前で、カラーテレビという言葉自体ほとんど使われなくなってしまった。「最低限の生活」をしようと思ったとしても、「高級なもの」を購入せざるを得ないということも起こる。
ケインズだけでなくマルクスやシュンペーターらも、経済成長の終わりという問題を論じているが、働く必要が無くなり日々やることがなくて困ってしまうということは当分無さそうだ。需要が飽和してしまうという心配をする必要も無いが、一方、生活の不安が無くなるという日も、まだ遠い先のことだろう。高学歴化で人々が働き始める時期が遅くなったことや、平均寿命が延びて退職後に働かずに生活する期間が延びていることを考えると、国民一人当たりの一日の平均労働時間は見かけ以上に低下している。これから日本の人口構造はさらに高齢化が進むので、短時間ではあっても高齢者も働いて所得を得て社会を支えるということを目指すのが自然な方向ではないだろうか。
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2015年08月20日「エコノミストの眼」)
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