2015年07月07日

2015・2016年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版) 2015年7月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2014年度は5年ぶりのマイナス成長

2015年1-3月期の実質GDPは前期比1.0%(前期比年率3.9%)と2四半期連続のプラス成長となった。民間消費(前期比0.4%)、設備投資(同2.7%)が3四半期連続で増加したことに加え、消費税率引き上げ後減少が続いていた住宅投資(前期1.7%)も4四半期ぶりの増加となった。設備投資は企業収益が好調を維持する中で低調な動きが続いてきたが、年度末にかけて出遅れ分を一気に取り戻す形となった。
   一方、消費増税後の景気を下支えしてきた公的固定資本形成は2013年度補正予算の効果が剥落したことなどから前期比▲1.5%と4四半期ぶりに減少し、国内需要の持ち直しに伴い輸入の伸びが高まったことから外需寄与度も4四半期ぶりのマイナスとなった。
   2014 年度の実質GDP成長率は▲0.9%となり、前回の消費税率引き上げ時の1997年度の0.1%を大きく下回った。民間消費の落ち込みが1997年度の前年比▲1.0%に対して2014年度は同▲3.1%の大幅減少となったことが響いた。民間消費だけで2014年度の実質成長率は▲1.9ポイントも押し下げられた。

 

2―個人消費を左右する家計の所得環境

1│回復が遅れる個人消費

個人消費は駆け込み需要の反動を主因として消費税率引き上げ後に急速に落ち込んだ後、反動の影響が和らぎ始めた夏頃から持ち直しているが、そのペースは依然として緩慢にとどまっている。内閣府の「消費総合指数」は依然として消費税率引き上げ前の駆け込み需要が本格化する前の水準を大きく下回っており、前回の消費増税時(1997年度)に比べても個人消費の動きは弱い[図表1]。
   個人消費低迷の主因は物価上昇に伴う実質所得の低下である。2014年度に入り名目賃金は上昇に転じたが、消費税率引き上げの影響もあり物価上昇率が急速に高まったため、実質賃金は大幅に低下した。2014年度後半になると原油価格下落に伴い消費者物価上昇率は低下したが、名目賃金が伸び悩んでいるため、実質賃金の改善ペースは緩やかなものにとどまっている。
   2014年度は久しぶりにベースアップを実施する企業が相次ぎ、春季賃上げ率(厚生労働省調べ)は2.19%と13年ぶりの2%台、定期昇給分を除いたベースアップも0.31%(中央労働委員会「賃金事情等総合調査」による)と17年ぶりの水準となった。ただし、一人当たりの平均賃金は伸び悩んでおり、特に労働者の基本給に当たる所定内給与は前年比▲0.2%と9年連続の減少となった。
   近年、所定内給与の伸びがベースアップを下回り続けているのは、相対的に賃金水準の低いパートタイム労働者の割合が高まることで労働者一人当たりの賃金水準が押し下げられているためである。2014年度の所定内給与の伸びを就業形態別に見ると、一般労働者、パートタイム労働者ともに増加したが、パートタイム比率の上昇によって平均所定内給与は▲0.4ポイント押し下げられた[図表2]。



 

2|年金給付額削減も消費低迷の一因

勤労者世帯以上に物価上昇による悪影響を受けたのは年金生活者だ。年金額改定は名目手取り賃金変動率、物価変動率、マクロ経済スライドによる「スライド調整率」によって決まるが、2013年度からは特例水準の解消が図られている。このため、年金給付額は2013年度後半から2014年度にかけて減額が続いた。
   総務省の「家計調査」で、勤労者世帯と高齢無職世帯の実質可処分所得を比較すると、2013年度、2014年度と物価上昇によって実質可処分所得が目減りしたことは共通だが、公的年金給付額の減少を主因として高齢無職世帯の落ち込み幅が勤労者世帯を大きく上回っている[図表3]。この結果、高齢無職世帯の消費支出は勤労者世帯以上に大きく落ち込んだ。



 

3|改善に向かう2015年度の所得環境

このように、2014年度の個人消費を取り巻く環境は極めて厳しかったが、2015年度は改善に向かうことが予想される。2015年度の春闘賃上げ率は前年度を上回り、企業業績の好調を受けてボーナスも増加しそうだ。また、実質賃金を大きく押し下げていた消費者物価上昇率は原油価格の下落を受けて大きく低下しており、2015年夏場にはマイナスとなることが見込まれる。2015年度の実質賃金は5年ぶりの増加となる可能性が高い。
   また、削減が続いてきた年金給付額は2015年度には0.9%の引上げとなった。もちろん、マクロ経済スライドの適用や特例水準の解消によって引き上げ幅は抑えられているため、これまでの落ち込み分を取り戻すことはできない。ただ、2015年度単年度で考えれば、物価上昇率がほぼゼロ%となるため、実質ベースの可処分所得の伸びは若干のプラスとなるだろう。2015年度は勤労者、年金生活者ともに実質所得の改善が見込まれ、このことが個人消費の回復につながることが期待される。

 

3―実質成長率は2015年度1.8%、2016年度1.9%を予想

原油安の恩恵を受けた国内景気の回復基調は今後も継続することが見込まれる。個人消費は名目賃金の上昇に物価上昇率低下による実質賃金の押し上げ効果が加わることにより、回復基調が徐々に明確となるだろう。ガソリン価格下落や株高を受けてここにきて消費者マインドが改善していることも個人消費を下支えしそうだ。また、2014年度末にかけてようやく持ち直しが明確となった設備投資は、原油安を受けた企業収益のさらなる改善を背景に回復基調を続ける可能性が高い。
   一方、中国、新興国を中心とした海外経済の減速に伴い輸出は伸びが鈍化し、公的固定資本形成は減少を続ける公算が大きく、外需、公需による景気の押し上げは期待できない。2015年度から2016年度にかけては国内民需中心の成長が続くだろう。実質GDP成長率は2015年度1.8%、2016年度が1.9%と2年続けて2%近い高成長になると予想する[図表4]。



 

◎消費者物価はいったんマイナスへ

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2013年6月に前年比でプラスに転じた後、2014年4月には前年比1.5%(消費税の影響を除くベース)まで伸びを高めた。しかし、その後は原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下、消費税率引き上げによる景気減速の影響などから2014年度末にかけてほぼゼロ%まで伸びが鈍化した。コアCPIはエネルギー価格の下落幅が最大となる2015年夏場にかけては上昇率がいったんマイナスとなる可能性が高い。
   一方、物価上昇がある程度継続してきたこともあり、かつてに比べて企業の値上げに対する抵抗感は小さくなっている。実際、食料品を中心に原材料価格の上昇に対応した価格転嫁の動きはここにきてむしろ加速している。コアCPI上昇率は前年比でゼロ%となったが、品目数でみれば上昇品目数が下落品目数を大きく上回っており、基調的な物価上昇圧力の強さを示している。
   また、潜在成長率を大きく上回る成長を続けることで、需給面からの物価押し上げ圧力も徐々に高まっていく。コアCPI上昇率は原油価格下落の影響が小さくなる2015年末までには再びプラスとなり、原油価格の上昇に需給バランスの改善が加わる2016年度入り後は1%台まで伸びを高めるだろう。年度ベースでは2015年度が前年比0.3%、2016年度が同1.4%と予想する。

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2015年07月07日「基礎研マンスリー」)

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