コラム
2015年06月12日

新しい「世代間の助け合い」-年金の「マクロ経済スライド」と「保険料引上げの停止」

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   中嶋 邦夫

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6月15日に今年の4~5月分の公的年金が振り込まれる。年金の振込日といえば、近年では振り込め詐欺に気をつける必要があるし、先日の年金個人情報流出の影響にも気を配る必要があるが、今回の一番の注目点は「マクロ経済スライド」の適用が始まることだろう。

マクロ経済スライドは、簡単に言えば「少子化や高齢化の進展に合わせて、年金額を実質的に減額する仕組み」である*1。今年の1月末に年金の改定率が決まった時や新年度に切り替わる時(3月下旬や4月上旬)に各種のメディアで紹介されていたので、ご存じの方も多いだろう。

その一方で、「なぜ、マクロ経済スライドが導入されたのか」については、あまり知られていないように思われる。前述した少子化や高齢化の進展がその背景だが、直接的な理由は「2017年から保険料の引上げが停止される(打止めになる)」ことである。

公的年金の保険料は、これまで段階的に引き上げられてきた。マクロ経済スライドの導入が検討された2004年の見通しでは、当時の給付の水準を維持するには、2004年(9月まで)時点で年収の13.58%と設定されていた保険料を段階的に25.9%まで引き上げる必要がある、と試算された(数値は厚生年金の場合)。2倍近い引上げに対して企業の国際競争力低下や将来世代の負担を憂慮する声が高まり、将来の保険料率は2017年度(9月以降)から18.3%で固定されることになった。そして、これまで年金財政のバランスをとるための調整弁となってきた保険料率が固定される代わりに、今後は給付を調整弁とする仕組みとしてマクロ経済スライドが導入された。これが大まかな経緯である。

公的年金制度は「世代間の助け合い」と言われることが多い。これまでは現役世代が引退世代を支えることが「助け合い」と呼ばれてきたが、マクロ経済スライドの開始と保険料引上げの停止によって引退世代が現役世代を助ける要素も加わっている*2。現役世代と引退世代の双方がお互いを思いやることこそ、世代間の助け合いと呼べるのではないだろうか。

図表 年金額と保険料率の見通し(2004年改正時)/モデル「世帯の実質的な年金額・厚生年金の保険料率

(注1) 実質的な年金額は、賃金上昇率で2004年度ベースに換算
     (資料) 厚生労働省「厚生年金・国民年金 平成16年財政再計算結果」



 
*2 財政見通しの中で「仮に給付水準を維持した場合に必要な保険料」も示されれば、現役世代が引退世代に助けられていることが分かりやすくなるだろう。

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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度

(2015年06月12日「研究員の眼」)

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