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人口減少未来における成長視点-世界の高齢者市場を射程に入れたイノベーション-
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘
日本の人口は2008年(1億2808万人)をピークに減少局面に入った。市場を支える産業界(企業)の立場からこの局面を展望すると、「人口減少=市場及び経済の縮小」とネガティブに捉えられやすい。実際、日本の未来を悲観視する産業界の人は少なくない。しかしながら、次の2つの事実を捉えたときに、将来に対する見方はポジティブに変わっていく可能性がある。
■人口と経済成長の間には直接的な関係はない
このことはマクロ経済学の権威である吉川洋氏1が、人口とGDPの長期的推移を観察し、実証的に明らかにしたことである2。経済成長は「人口の成長率」と「技術進歩率」の和(=自然成長率)によることが従来的な考え方3ではあるが、理論上では確かにそうであるものの、1870~1994年までのデータを分析すると、国内の人口と経済成長には関係性がないことがわかったのである。実際、日本が経験した高度経済成長期(1955~70年)も、GDPは10%前後の高い成長率を示したが、人口の成長率は1%前後で安定していたのである。つまり、日本の高度経済成長を支えた主要因は、「三種の神器」4をはじめとした多くの“イノベーション”(≒技術進歩)だったのである。持続的な経済成長を生み出す究極的な要因は、“モノやサービスの創造(プロダクト・イノベーション)”であることを吉川氏は強調している。
■世界は高齢化と人口爆発、高齢者市場はとてつもない規模の市場へ拡大す
確かに経済成長においてイノベーションこそが重要であり、主要因であることは違いないであろう。しかしながら、世界を視野に入れたマーケットの人口、つまり「ボーダレスな市場」が拡大すれば、経済成長の期待値が高まることも事実と考える。そうしたときに世界各国で日本と同様に進む「人口の高齢化」は注目される。前述のとおり人口減少局面にある日本も65歳以上の高齢者人口は少なくとも2040年まで増加し続ける見通しにあるが、さらに世界の人口は爆発的に増加を続け、その中で高齢者人口も増え続けていく。日本とは比較にならない規模の人口(高齢者)が増加していくのである。いわゆる「人口爆発」と揶揄される事象であり、そのこと自体の議論(課題)も数多いわけだが、ここでは高齢者人口の増加に着目したい。
2015年の日本の高齢者人口は約3400万人であるが、世界の高齢者人口は6億人、うちアジアだけで3.2億人である。さらに、例えば2030年では、日本の高齢者人口は約3700万人であるものの、世界の高齢者人口は9.7億人、2050年には14億人に達する見通しである5。「人口=市場」と捉えれば、このように未来の世界にはとてつもなく大きな高齢者市場が待ち構えているのである。何でもグローバルに展開すればよいということを主張するつもりはないが、日本は「高齢化最先進国」であり、国内の高齢者市場において成功できたイノベーションの事例(モノ・サービス)は、そのまま世界で通用する可能性が高い。実際、高齢者住宅や介護サービス等、日本のモデルを世界で展開する事例は数多く見られてきている。
以上のことを踏まえれば、日本の人口減少という事象を必要以上に悲観視する必要はないであろう。重要なことは、如何にイノベーションを生み出せるか、とりわけ高齢者市場においてどのようなイノベーションを創出できるかに尽きる。その視点は様々考えられるが、重要で期待されるイノベーションは、「豊かな長寿を支援し創造する商品サービス」の開発と考えている。言い換えれば、高齢期の「安心」と「生きがい」を提供するサービス等だ。既存の事例で挙げれば、介護ロボット、超小型電気自動車(高齢者の移動サポート)、サービス付高齢者向け住宅、ユニバーサル食品、生活支援・見守りサービス等は「安心」に貢献するものであろうし、旅行や高齢者向けスポーツ、高齢者の参加と交流を促すサービス等は「生きがい」に貢献することであろう。いくつかの事例は確認できるが、高齢者の不安とニーズに応える商品サービスの開発視点はまだまだ数多くある。高齢期の将来不安を「希望」に変えるような商品サービスが待たれている。筆者も微力ながら、そのようなイノベーションの具体策づくりに貢献していきたい。
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン
03-3512-1878
(2015年06月09日「研究員の眼」)
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