コラム
2015年05月26日

減築が求められる日本社会

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1――増築から減築へ

親の姿が見えなくなると泣いていた子供も、成長すると親の目が届かない個室を欲しがるようになる。しかし、子供部屋を増築して広くなった家も、子供が学校を卒業したり結婚を契機に独立したりしてしまうと、夫婦のみで住むには大きくなり過ぎてしまう。誰も使わない部屋を掃除するだけでも面倒だ。夫婦だけで住むのに適した間取りに合わせるのと同時に、様々な思い出はあるものの面積も減らすという減築が増えているという。

日本の人口は2008年頃をピークに減少傾向に転じ、このまま生まれる子供の数が低水準に留まれば、日本に住む人の人口は2048年には1億人を割り込むと予想されている。人口の増加速度が鈍化すると、人口の増加を前提に設計されてきた日本社会は、様々な面で見直しを迫られるようになった。増築を重ねてきた日本社会は、減築を迫られているようなものだ。


2――少子化克服に必要な社会の変化

日本社会は、ここ数十年というもの、平均寿命の延びも加わった高齢者の増加による社会保障給付の増加と、若年人口の減少による負担能力の低下を、どうやってバランスさせるかに追われてきた。少子化による人口減少という現実に対応するのに忙殺されて、人口減少を食い止める方策はなかなか前進しなかったと言っても過言ではないだろう。

結婚した夫婦が、理想的だと考える子供数と、現実に予定している子供の数は、緩やかながら減少傾向にある。しかし、平均理想子供数は2010年の調査でも2.42人で、予定子供数の2.07人を大きく上回る。多くの人がもっと子供が欲しいと思っているのに、それが実現できないということは、子供を望む人達にとってだけでなく、社会にとっても不幸なことだ。

少子化と言う問題は、はるか昔から指摘されてきたにも関わらず、地域や企業も含めた日本全体の問題という意識は希薄で、出産や育児の世界の人達の問題としか捉えられていなかったように思える。子供の数が減少してしまった原因を取り除くためには、日本社会全体が大きく変わる必要があるだろう。


3――大は小を兼ねず

人口減少を止めるためにこれまで以上に力を注ぐとは言っても、日本の人口が1億人程度で安定するという目標の実現は2050年頃という先の話だ。人口が1億人になると、最も人口が多かった2008年12月の1億2809.9万人からは、四分の三程度に減少することになる。少子化対策に力を入れれば人口減少への対応が不要になるという話ではなく、これまで人口減少で起こる問題を先送りしてきたので、山積する課題への対応も急務である。

これまで人口が増加し経済活動が拡大することを前提に整備されてきた社会資本や地域の公共施設なども、単純に考えると四分の一は使う人がいなくなってしまう計算だ。社会が変わり、年齢構成が変わって需要が変化することを考えると、もっと多くの割合が不要になってしまうものも出てくるはずだ。

大は小を兼ねるということわざがあるくらいだから、施設が余ったとしても大した問題はないと思うかも知れないが、利用者が減少してしまえば設備を維持・運営していくコストも賄えなくなるだろう。使われなくなった建物などでは倒壊の危険があるので、放置しておくわけにもいかない。取り除くのにも費用がかかる。その上、これらの施設のかなりの部分は、国や地方自治体の借金で建設されており、将来世代は債務の返済負担も迫られる。

住宅であれば大きくなり過ぎた家を売って、もっと小さな家に住み替えるということもできる。しかし、我々の住んでいる街や地域は、そういうわけにはいかない。我々が今欲しいと思うものを作り続けるだけでなく、将来世代のために真に役に立つものに絞り込むよう、選択と集中が求められている。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

(2015年05月26日「エコノミストの眼」)

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