コラム
2015年04月01日

十年一日のビル経営では顧客はもはや満足できない~キーワードはテレワークと知的創造~

  松村 徹

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企業のビルニーズは大きく変化
   企業収益の回復を受けて、賃貸オフィスビルの空室が減少しており、東京都心部では大型のハイグレードビルを中心に賃料の上昇傾向も強まっています。市況改善を受けてオフィスビル開発の動きにさらに勢いがつきそうですが、少子高齢化やグローバル化、情報ネットワークの高度化、自然災害リスクの上昇、エネルギー問題の顕在化などビジネス環境の地殻変動を背景に、顧客である企業のビルニーズが大きく変化していることにも注意が必要です。
   いまやオフィスビルは、管理運営やサービスの巧拙で収益性や資産価値が左右されるオペレーショナルアセット になっていて、経営における高い専門性が不可欠な不動産です。それだけに、最新鋭の建築・設備スペックを持つビルであっても、顧客ニーズの変化に気づかず、営業や管理は第三者任せという十年一日の経営を行っていては、顧客満足度が低く解約リスクの高いビルになってしまう可能性があります。

テレワークが問うビルの存在意義
   真っ先に挙げられる顧客ニーズの変化は、大地震など自然災害への対策やエネルギー問題に対する意識の強まりでしょう。しかし、オフィスビルのあり方そのものを左右する最も大きな変化は、ワーカーの仕事場がオフィスビルからデジタル空間にも広がり、時間と場所に制約されない働き方であるテレワークが普及段階に入ったことではないでしょうか。
   インターネットとノートパソコンやスマートフォンなど自由に持ち歩ける端末の爆発的な普及でテレワークの技術的な問題はほとんどなくなっていましたが、実際の運用では子育てや親の介護などに限って認められるケースが多かったといえます。ところが、東日本大震災以降、会社に通勤せずどこでも仕事ができる点が評価され、事業継続(BCP)対策のひとつとして積極的に導入する企業が増えました。最近の、女性の雇用機会拡大の動きも追い風です。多様な働き方を可能にするテレワークの拡大で、自宅はもちろんサテライトオフィスやカフェなど“サードプレース”と呼ばれる第三の居場所も仕事場として認知されるようになりつつあります。
   ところが、テレワークという新しい働き方は、オフィスビルという従来の仕事場の存在意義を問うものであるのも事実です。「毎日の通勤を強いてまで一ヶ所に大勢の社員を集めて拘束するオフィス(ビル)は必要なのか」という問いかけです。

知的創造の場としてのビル
   この答えでもあるのが、顧客ニーズのもうひとつの変化です。それは、企業におけるグローバルな競争激化や少子高齢化に伴う国内の人材不足などを背景に、オフィスの生産性向上に企業が関心を強めていることです。生産性向上のためには、まずワーカー個人やグループの作業効率やモチベーションを引き上げることが大事ですが、最近は新しい価値やビジネスを生み出す知的創造性を重視する傾向がより強まっています。
   オフィスの生産性向上についてはさまざまな議論がなされて久しいですが、「最高の意思決定や洞察はしばしば廊下やカフェテリアから生まれる」という言葉があるように、オフィスにおけるワーカー同士の多様で非公式なコミュニケーションの重要性を指摘する意見が少なくありません。これがオフィスビルという現実の空間が今後も必要とされる大きな理由だといえます。実際、最近のビル計画では、ワーカーの交流を促進するスペースや施設、サービスを提供する動きが目立っていて、「非公式コミュニケーションがオフィスの生産性向上に寄与する」という認識の広がりと無縁ではないと思われます。
   これからのビル経営では、防災や省エネに当然配慮した上で、オフィスワーカーの仕事がはかどり(作業効率が高まる)、やる気が出る(モチベーションが高まる)環境を整え、さらには知的創造促進を意識した建築・設備や管理・サービスを提供することが求められているのです。


 
  1 例えば、地域全体の省エネや防災を考える、政府の成長戦略と連動して海外企業の積極的な誘致を図る、ベンチャー企業の育成・起業支援を行うなど、ビル経営者に求められている今日的な課題達成のためには、高度なオペレーションやさまざまな工夫が必要になっています。

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(2015年04月01日「研究員の眼」)

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