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- 恒常的に発行される“臨時”財政対策債の怪-地方財政計画の読み方 その2
1.臨時財政対策債の由来
2.「ミクロの臨時財政対策債」と「マクロの臨時財政対策債」の関係
しかし、集合体としての地方公共団体が発行する臨時財政対策債の総額―「マクロの臨時財政対策債」は、「ミクロの臨時財政対策債」の積算の結果として決まるものではないことに注意する必要がある。現実には、発行可能総額、すなわち、「マクロの臨時財政対策債」が先に確定し、それが各地方公共団体に按分されることで「ミクロの臨時財政対策債」が決まっている。そして、「マクロの臨時財政対策債」は、以下で述べる「何ら特別の対策を講じなかった場合に地方財政計画上で生じたであろう不足額」を解消するための方策として、国が決めている。
したがって、「ミクロの臨時財政対策債」には問題がないように見えても、「マクロの臨時財政対策債」や、その前提となる財源不足解消策に不安要素があれば、結局は、「ミクロの臨時財政対策債」にも影を落とすことになる。その不安要素とは、 “地方の財源不足”の解消策として財源対策が講じられる過程で、「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額が趨勢的に増加することを許容する仕組みが見られることである。景気が良くなってさらに税収が増えれば、臨時財政対策債の新規発行が不要になるというのであれば問題ない。しかし、残念ながら、これまでの財源不足解消のための対策を見る限り、そうした状況が実現する可能性は低い。
3.「折半前財源不足額」及び「折半対象財源不足額」と「マクロの臨時財政対策債」の関係
地方の財源不足”、すなわち、「何ら特別の対策を講じなかった場合に地方財政計画上で生じたであろう不足額」を解消するための財源の割当に際しては、国が基本的に財源を全額捻出する「折半前財源不足額」と国と地方で財源負担を折半する「折半対象財源不足額」とに分けられる。そして、そのいずれに対しても、「マクロの臨時財政対策債」が充当されているのである。
重要なのは次の点である。
第1に、2種類の財源不足額のうち、景気との連動性が特に高いのは「折半対象財源不足額」の方であり、「折半前財源不足額」は景気が良くなっても縮小するとは限らないことである。
第2に、「折半対象財源不足額」は2007、2008年度こそゼロにとどまったが、増税効果が現れ、また、GDPギャップがほぼゼロと見られる2015年度においても、3兆円を超える「折半対象財源不足額」が残っていることである(図表-3)。
第3に、「折半前財源不足額」解消のための「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額には、明らかに趨勢的な増加傾向が見られることである(図表-2)。
しかも、2010年度以降は「折半前財源不足額」が減少傾向を示す中で、「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額は増加基調をたどり、2014年度には元利償還金対応分だけで「折半前財源不足額」の過半を占めるに到った(図表-2)。臨時財政対策債の元利償還金(理論償還費)は残高と比例的な関係にあり、新規の発行額が前年度と比べて減少しても、それが償還額を上回っている限りは残高が増えていくから、今後も「折半前財源不足額」解消のために新規発行される「マクロの臨時財政対策債」は趨勢的に増加する可能性が高い。
したがって、仮に、「折半対象財源不足額」がすべて景気変動に由来し、趨勢的な変化という文脈では無視できたとしても、「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額が趨勢的増加を続けることは避け難い。臨時財政対策債の発行残高に比例して元利償還金が増大し、それに伴って「折半前財源不足額」解消に充当される「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額は増加せざるを得ないからである。
これを回避するには、景気が良い時には「折半対象財源不足額」が解消されるだけでなく、「折半前財源不足額」も含めた「財源不足総額」が負の値、すなわち、財源超過状態となって、過去に発行された臨時財政対策債の元利償還金に充てる状況が成立することが不可欠である。
4.元利償還金の増大圧力と歳出総額の関係
その理由として考えられるのは、臨時財政対策債以外の地方債の発行抑制が続き、地方債残高の増加が低位にとどまったこと、金利の低下によって近年は利払費が抑制されたことである。
それだけでなく、地方財政計画の歳出総額も各歳出項目の積算値としてではなく、歳出総額自体を直接決める算定ルールに従っている可能性もある。その通りであれば、「マクロの臨時財政対策債」の発行が趨勢的に増加したとしても、歳出総額の膨張が続く状況には陥らないであろう。
だが、たとえ、地方財政計画の歳出総額が合理的な基準にしたがってコントロールされているとしても、過去の借金を新たな借金でのみ返済する仕組みを続けていれば、そのシワ寄せは必ず生じる。もし、今後も臨時財政対策債の元利償還金が趨勢的増加を続ける中で、歳出総額が現在の水準から変わらなければ、その元利償還費以外の歳出が実質的に減額されることになるからである。「ミクロの臨時財政対策債」に対する個別地方公共団体の規律が維持されていても、財政健全化を進めるには、それだけでは不十分だとも言える。それは、公債費以外の歳出を削減するという難しい舵取りを地方公共団体に迫るものでもある。
逆に、元利償還費以外の歳出の水準を維持したうえで、増加する臨時財政対策債の元利償還金を賄うとすれば、歳出総額の膨張を抑えることは困難である。
「マクロの臨時財政対策債」の新規発行額が2年連続で減少したことで、臨時財政対策債に対して楽観的な見方をすることは、きわめて危険である。究極的には、歳出削減と増税による歳入増加のいずれを選択するのかという問題と向き合わなければならない。国民のひとり、住民のひとりとして、この問題から決して眼をそらすことのないよう、肝に銘じたい。
石川 達哉
研究・専門分野
(2015年03月27日「研究員の眼」)
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