コラム
2015年03月24日

実在しない“地方の財源不足”-地方財政計画の読み方 その1

石川 達哉

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2015年度の地方財政計画によれば、“財源不足額”は7兆8,205億円である。しかし、この財源不足は実際には存在しない。

地方財政計画とは、正確には、地方交付税法の定めにしたがって内閣が作成して国会へ提出する「翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込み額に関する書類」のことであり、平たく言えば、集合体として見た地方公共団体全体の予算像と言えるものである。もちろん、個別の都道府県、市町村における予算自体はそれぞれの地方議会で独自に議決される。そうした中で地方財政計画が重要視される理由は、個別の地方公共団体が自らの予算を編成するうえでの実効性の高い指針となっているからである。

多くの地方公共団体において、地方交付税や国庫支出金(補助金)という国から交付される財源が歳入の少なからぬ割合を占めているように、地方財政計画においても、地方固有の財源である地方税だけでは賄えない歳入の一定部分を地方交付税や国庫支出金が担っている。重要なのは、国(内閣)の政策判断の結果として想定された地方の歳出総額と一致するように歳入総額が確保され、その中で地方交付税も算定されている点である。そして、歳出総額には、国主導で決めた施策に対応する歳出額のほか、個々の地方公共団体が過去に発行した地方債の元利償還金も含まれている。個別の地方公共団体に対する地方交付税や国庫支出金が確定する時期は新年度が始まった後であるが、地方財政計画と整合的な形で自らの予算を編成すれば、来年度の歳出を賄うのに必要な財源に不足が生ずる事態は起こりにくい。「地方財政計画を通じた財源保障」と表現されるのは、そのような性格を持つ地方財政計画が毎年度策定されているからである。

逆に言えば、地方財政計画において、財源不足は存在してはならないものである。最終的には実在はしない不足額についての数値が存在するのは、この“財源不足額”とは「何ら特別の対策を講じなかった場合に生じたであろう不足額」だからである。つまり、現実の地方財政計画は特別な財源対策を反映した後のものであるから、必然的に不足額が存在しない姿を保っているに過ぎない。

実際、毎年度の地方財政計画策定に際して、どのような規模でどのような対策を講じなければならないかについては、常に重要な論点とされ、財務省と総務省の間の協議を経て決定されている。
図表-1 “地方の財源不足” と景気変動の関係
財源不足額の推移に着目すれば、2015年度の7兆8,205億円は前年度の計画と比較して2兆7,733億円の減少、ピーク時の2010年度計画と比べて10兆円を超える減少を示すなど、確実に減少を続けているように見える。しかし、この金額は景気との関係において評価する必要がある。もちろん、歳出総額に影響する固有の重要施策に関しては、内容もそれに対応する歳出額も毎年異なり得るから、計画策定の途中段階で算出される“地方の財源不足”は景気の影響だけを受けるものではないはずである。それでも、図表-1に示すとおり、“地方の財源不足”と景気(GDPギャップ率)の連動性はきわめて高い。各年度固有の重要施策に対応する歳出額が独立的に決まり、また、各年度共通の歳出項目の金額が一定の客観基準に従っているとしたら、景気が良い時には財源不足額が縮小し、景気が悪い時には財源不足額が拡大するという関係が観察されるのは、きわめて理に適っている。

問題は、2015年のGDPギャップ率がほぼゼロであるにもかかわらず、財源不足が解消していないことである。消費税率と地方消費税率の引き上げによる効果が1年間を通じて現れるはずであるから、本来ならば、財源超過状態(財源不足額が負)にあるべきにもかかわらず、である。そればかりか、GDPギャップ率がプラス2.9%だった2007年においてさえ、4.7兆円の財源不足が残っていた。

つまり、「文字通りの財源不足額」は存在しないが、「潜在的な財源不足」が恒常的に存在する構造があると言ってもよい。特別な財源対策を恒常的に講じているということでもある。歳出総額が妥当な水準にあるのならば、特別な対策を講じなかった場合の歳入の水準、特に税収の水準が低過ぎることになるし、国民、住民による税負担の水準が支持を得られる上限に既に達しているのであれば、歳出の水準が高過ぎることになる。現状は、この問題に正面から向き合わずに、特別な財源対策を続けることで、何とかしのいでいると言えるであろう。

その特別な対策は、いわゆる「地方財政対策」と呼ばれ、中心な役割を担っているのが臨時財政対策債である。その臨時財政対策債を巡る問題については、稿を改めて、考察することにしたい。
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(2015年03月24日「研究員の眼」)

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