2015年03月18日

アメリカにおける寄付や寄付年金の現状―どうしてアメリカ人は巨額の寄付をするのか?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨

  • Giving USAの調査 によると、2013年におけるアメリカの寄付金総額は3,352億ドル (対GDP比2.0%、35.2兆円 )で、1973年の1340億ドル(実質)と比べて、2.5倍にまで増加した。1974年から2013年までの寄付金の対前年度増減率は平均2.5%で、GDPの対前年度増減率2.1%より高くなっている。
  • アメリカにおける寄付の相当部分は個人(87%)により賄われており、寄付金の配分先としては宗教団体が31%で最も多く、次が教育機関(15.5%)、社会福祉団体(12.4%)、財団(10.6%)の順であった。
  • アメリカの寄付文化の特徴としては、計画寄付(planned giving)が普遍的に実施されていることや多様な寄付プログラムが存在していることが挙げられる。
  • 計画寄付には、寄付者助言基金、遺贈、寄付年金、合同所得基金、慈善残余信託、慈善先行信託、個人財団などのプログラムがある。
  • 寄付年金は、寄付者が現金や資産を社会団体などに寄付すると、寄付した現金や資産の所有権は社会団体や財団に移転されるが、寄付された社会団体や財団から、寄付者あるいは寄付者が指定した受給者に対して、生存中は一定額の年金が受け取れる、すなわち寄付と引きかえに終身年金を受け取る権利が得られる仕組みである。
  • 寄付年金受給者(即時給付型)の平均年金受給開始年齢は79歳であり、寄付年金の最小寄付額は慈善団体の71%が10,000ドルに設定している。給付率は年金給付が終了する時点における寄付金の残余額が最小50%になるように設定されている。
  • 最初に寄付された金額のうち、年金として寄付者に支給された金額を除いて、最終的に寄付先の慈善団体などに寄付される「寄付金の残余額」は、2013年現在64%に至っている。
  • アメリカでは個人の場合、公共の慈善団体への寄付金に対する所得控除は該当課税年度の調整総所得(adjusted gross income)の50%まで認められる。一方、法人の場合は課税所得の10%までが損金として認められる。
  • 寄付金控除が認められる団体の数は日本と比べてアメリカが圧倒的に多い。日本における特定公益増進法人 の数は21,168 (2010年4月1日現在)、認定NPO 法人は613(2015年3月6日現在)であることに比べて、 アメリカでは寄付金控除の対象となる団体数は130万を超えると推計されている。
  • 寄付年金の導入は、寄付文化の定着、国の財政負担の減少、老後の新しい所得保障手段の提供という面でも効果を発揮すると考えられる。
  • 日本における「共助」を活性化するためには寄付年金と共に多様な寄付プログラムを同時に実施し、個人が自分の状況に合わせて選択できる選択肢を増やすことが望ましい。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2015年03月18日「基礎研レポート」)

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