コラム
2015年02月16日

経営が求めるイノベーションとダイバーシティを実現する人事とは~JSHRMシンポジウム「HRMのIn-Diモデル」

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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「イノベーション」と「ダイバーシティ」は、多くの日本企業で顕在化・深刻化しつつある重大な経営課題だといえよう。前者については、経済成長にともなって上昇した高い賃金水準を前提とすれば、もはや日本企業は、アジア等の新興国の企業のように、安い人件費で標準的な製品・サービスを大量に供給するという戦略をとれず、製品・サービスの差別化が求められる先端的な市場で戦わざるを得なくなっていた。後者については、グローバル化(多様な文化や価値観の中での事業運営)・少子高齢化(労働力の多様化の許容の必要性)等の環境変化のなかで企業がとらざるを得ない道であった。先端的な市場での競争という面においても、変革マインドや異なる視点を持つ多様な人材が必要とされている。顕在化・深刻化の程度は異なるにしても、この2つが、業界や企業規模を超えた共通な経営ミッションとなっている。

これらの経営ミッションの実現に向けて、日本の人事は「イノベーションに貢献できる人材の育成」「多様な人材の効果的活用」という重い宿題を背負ってきた。しかしながら、いずれの宿題の進捗についても評価は芳しくなく、日本的人事管理、日本の人事部のいずれに対しても、とりわけ外部からの目線が厳しくなっている。日本的人事管理に対しては「ホワイトカラーの人事管理としては時代遅れ」「その特殊性ゆえにグローバル化に対応できていない」「競争力のある人材にとって魅力的ではない」等の声が、日本の人事部に対しては「タコ壷化していて、経営ニーズへの感度が低い」「強権だったがゆえに説明能力が低い」「過去の規定や経緯に縛られてガンジガラメになっている」等の声が、少なからずあげられている。

日本人材マネジメント協会(Japan Society for Human Resource Management =JSHRM)は、来たる2015年3月7日に、「HRMのIn-Diモデル~イノベーションとダイバーシティからの提言~」と題するシンポジウムを開催する。これは、筆者を含む有志会員により2013~2014年度にかけて実施された「人事の役割」に関するリサーチプロジェクトの最終成果報告の場であり、事例企業をまじえて、日本の人事の今後について考える場でもある。

この場で報告する「In-Diモデル」とは、InnovationとDiversity に基づいて命名したものであり、経営が人事に求める二大ミッションである「イノベーション」を縦軸、「ダイバーシティ」を横軸として、企業を4象限に分けて人事管理や人事の機能を考えるHRMモデルを指す。各象限に位置する企業タイプは、以下のような意図から「タレント型」「体育会系型」「企業内熟練型」「マニュアル型」と称することとした。

  [タレント型(右上の象限)]
・オープン化した先端的市場、激しい国際競争下に置かれるIT系企業に代表されるような、イノベーションが非常に重視され、多様な人材の活用の必要性が高い企業群を想定し、その人材活用のあり方の象徴的な意味合いを込めて「タレント型」と命名した。

  [体育会系型(左上の象限)]
・事業の性格上、イノベーションが非常に重視される一方で、多様な人材で事業を運営する必然性は相対的に低く、むしろ同質の人材による、暗黙知も含めた統制された価値観によって組織される企業群であり、国際的に事業を展開する重工系の製造業や総合商社などを想定し、「体育会系型」と命名した。

  [企業内熟練型(左下の象限)]
・イノベーションが相対的には重視されず、また多様な人材活用の要請の度合いも低い企業群であり、市場を国内に絞って事業を展開している製造業、あるいは規制の下で激しい競争にさらされていない産業などを想定した。これらは業界や企業のなかに蓄積された技術・ノウハウを重視して事業が運営されていることから「企業内熟練型」と命名した。

  [マニュアル型(右下の象限)]
・多数のチェーン店を持ち価格を競争優位性の大きな要素とする外食産業等は、事業そのもののイノベーションはさほど重視されず、一方で人件費の抑制が鍵となることから、主婦層や外国人労働者等の多様な人材の活用を重視している。その結果として運営はマニュアル化され、統一性を保ったオペレーションを行う枠組みが整備されていると考えられるので、このタイプを「マニュアル型」と命名した。

図表:In-Diモデルの枠組み


シンポジウムでは、約200社に対する「2014年人事のあり方に関する調査」(JSHRMリサーチプロジェクトと産労総合研究所が2014年10月~11月にかけて実施)に基づき、「In-Diモデル」の各タイプがどのような人事管理を行っているか、人事部や人事スタッフに対してどのような役割が期待されているかについて分析した結果を紹介する。続いて、2社の日本企業の人事の方をパネリストにお招きし、人事の変革に関する事例をご報告頂く。事例企業2社にはその後のパネルディスカッションにもご参加頂き、「日本の人事」の進むべき方向についてご議論頂く(筆者がモデレータ―を務める)。

日本の人事管理や人事部の変革にご関心のある方は、是非ご来場頂けると幸いである(シンポジウムの詳細は以下)。

http://www.jshrm.org/event/symposium_6149.html


 
 「日本におけるHRMプロフェッショナリズムの確立」を使命に、我が国の人材マネジメントを担う方々のための会員組織として2000年に設立された。以来、日本を代表する人材マネジメントの専門団体として、人材マネジメントにかかわる方々のための能力向上と会員ネットワークを活かした情報交換・相互交流、更にグローバルな視点からの各種調査研究・提言・出版などの諸活動を展開している。
 JSHRM内で、設定したテーマについての調査・研究に対して有志が集まり形成しているプロジェクト形式の活動。第4期目となる「人事の役割」に関するリサーチプロジェクトは、現在以下の12名で活動中である。
泉田洋一(キャリアコンサルタント)、今野浩一郎(学習院大学)、大橋歩((株)浜銀総合研究所)、黒澤敏浩((株)ジェイエイシーリクルートメント)、佐山幸嗣((株)富士通マーケティング)、堤敏弘((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン)、土橋隼人(組織・人事コンサルタント)、西岡由美(立正大学)、松浦民恵((株)ニッセイ基礎研究所)、 山﨑京子(アテナHROD)、山本史織((株)ポーラ・オルビスホールディングス)、吉田貴子((株)産労総合研究所、オブザーバー参加)(五十音順、敬称略)
あわせて、JSHRM事務局として、リサーチプロジェクトに多大なるご支援を頂いている星明氏、佐藤麻里子氏にも、この場を借りてお礼申し上げる。
 本調査の結果の詳細は、産労総合研究所『人事実務』2015年3月号にも掲載される予定である。

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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

(2015年02月16日「研究員の眼」)

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