2015年02月06日

高齢期の社会的孤立の予防策-ニッセイ基礎研究所「長寿時代の孤立予防に関する総合研究」より

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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誰にも看取られることなく最期を迎える“孤立死”。その数は年間約3万人と推計される。日本は世界が羨む長寿大国になった一方で、孤立死を含めた高齢期における社会的孤立の問題は深刻さを増している。2010年に「無縁社会」という言葉が注目されたことは比較的記憶に新しい。現在の日本では長生きできているにも関わらず、孤独で寂しい日々を過ごしている高齢者は実に多い。本稿では、高齢化に伴う重要な社会的課題の一つである「高齢期の社会的孤立」の問題について、その解決策を探っていく。


1―社会的孤立化が進む日本

日本においてこの問題が指摘され始めたのは、おそらく1980年代からであろう。高度経済成長を続ける時代の中で、核家族化が進み、長寿化に伴い寡婦(夫)期間も長期化するなかで、孤立死する高齢者が散見され始めた。以降近年に至っては、「個人主義化」「希薄化」といった言葉が象徴するような家族関係を含めた人間関係の質的変容が生じ、結果として高齢期に孤立状態に陥る人が増えてしまった傾向が窺える。
   このことを裏付けるように、例えば、「家族以外の人との交流のない人の割合」をOECDの20カ国と比較してみると、なんと日本が最も多い[図表1]。社会における孤立度が最も高い国になっているのだ。また、生涯未婚率も1980年以降急速に上昇し[図表2]、単身世帯も増加の一途にある[図表3]。やがて2030年には全世帯のうち「3世帯に1世帯」が単身世帯となる見通しにある。単身高齢世帯に限ってみれば、1985年当時は全世帯の中で「33世帯に1世帯」の割合だったのが、2030年には「7世帯に1世帯」の割合まで増える見通しだ。さらに、孤立生活の悲しき末路と言える孤立死の数をみても、ここ10年で3倍に増加した結果を示すデータも確認される[図表4]。孤立死に関する全国的な統計データは存在しないが、その数を独自に推計してみると前述した約3万人といった数がはじかれる[図表5]。前述の未婚化及び単身世帯の増加を踏まえると、この数は今後さらに増加していくことが大いに懸念される。




2―社会的孤立予防策の追究~特別研究の実施




1│孤立予防を主眼に置いた研究

こうした問題意識の中でニッセイ基礎研究所では、所内に特別研究プロジェクトを立ち上げ、2013-14年にわたり「長寿時代の孤立予防に関する総合研究」を行った。研究の主眼に置いたのは孤立状態に陥ることを回避するための「予防」策の追究である。これまで社会的孤立の問題に対しては、自治体を中心に「社会的包摂」の理念のもとで、孤立者を外へ導き出す、地域活動等へ参加させる取り組みが懸命に行われてきた。しかしながら、民生委員等の声を拾えば、一度、閉じこもってしまった人を外へ誘うことは容易でない実態が窺える。孤立者を真に産まない社会を実現するには、孤立状態に陥る手前の段階で如何に予防的な対応を本人ならびに地域ができるかが重要と考えたのである。


2│コミュニケーション量にもとづく「孤立リスクレベル」の設定と分析~6世代6500名に対する定量調査より

孤立予防策の鍵を握るのは、人と人とのつながり“縁”であろう。孤立の状態とは「一定の期間、他者との交流がない状態」「人間関係が喪失した状態」である。何らかの原因・理由で途絶えてしまう“縁”をつなぎ止めることが予防策となる。前述の人間関係の質的変容が進むなかで、高齢期において自らが望む“縁”を維持することは、今後ますます困難になるものと考えられる。
   そこで全国の4つの世代((1)ゆとり世代:23-25歳、(2)団塊Jr.世代:39-42歳、(3)団塊世代:65-67歳、(4)75+世代:75-79歳)計6500名に対するWEBアンケート調査を行い、各世代の“縁”の状態を探った。どのような人が、孤立リスクが高いと推定されるか、孤立要因及びプロセス、生活行動や人生設計、社会資源との関係性の側面から多面的な分析を行った。“縁”の状態を測る指標として、他者とのコミュニケーション量にもとづく「社会的孤立リスクレベル」を設定したことは、本研究独自の試みである。以下、一部にはなるが、本研究を通じて明らかにできたことを紹介する。


3―主な研究結果と考察

1│社会的孤立者数の推計

まず、現代社会の中でどれだけ社会的孤立リスクが高い人がいるのかを、前述の孤立リスクレベルをもとに推定してみた。その結果、ゆとり世代、団塊Jr.世代の15%程度、団塊世代、75+世代の5%程度が、社会的孤立が強く疑われる状況にあった([図表6]にあるレベル5の割合)。




この出現率をもとに各世代の社会的孤立状態が疑われる者の人口を推計すると、全国ではゆとり世代で66万人、団塊Jr.で105万人、団塊世代で33万人、75+世代で36万人が、それぞれ社会的孤立が疑われる状態にある。これら4世代を合わせただけでも、実に240万人が現在、社会的孤立リスクが高い状況にある。

2|社会的孤立者の特徴(傾向)

そうした社会的孤立リスクが高い人はどのような人なのだろうか。その特徴を検証してみた。

(1)属人的な特徴

まず重回帰分析を行い、属性的な特徴をみると、性別では男性で、男性の中では未婚、離別で、団塊世代の男性では死別でも孤立リスクが高い。一方、女性では、未婚、離別で女性全体に比べ高いものの総じて男性よりも孤立リスクが低いことがわかった。これらは孤立に関する先行研究の結果とも共通する。

(2)価値観との関係

また「価値観」と社会的孤立リスクレベルとの関係もみた。人とつながりあうかどうかは本人の意思を含めた内的要因の影響が大きいと想像できるわけだが、《家族形成》《人づきあい》《働き方》に関する価値観に着目して分析してみると、それぞれ次の志向を有する人が、孤立リスクが高いと推定された。
   なお、分析にあたっては、それぞれの領域で因子分析を行い志向タイプを特定した上で、タイプと社会的孤立リスクレベルとの関係を検証している[図表7]。
   《家族形成》では、「夫婦の意思を重視する」志向の人。つまり、外部との関わりが薄く夫婦依存が強い場合に、離死別後に孤立状態に陥ってしまう可能性が高い。
   《人づきあい》では、「他人に干渉されることを好まない」、「非対面(ネット)のつきあいを好む」志向の人(ただし、後者については団塊Jr.世代のみ)。これは文字通り、わかりやすい結果であろう。
   《働き方》では、「割り切りが強い(仕事はお金を稼ぐ手段であり、やりがいがなくても構わないと考える人)」、「仕事優先」志向の人が、孤立リスクが高いと推定された。当てはまると思われた方は要注意である。




3│住まい環境と孤立リスク孤立予防を主眼に置いた研究

さらに、住まい環境と高齢期の孤立リスクの関係をみると、公共交通機関へのアクセスが悪く、車に依存した生活をしている人は将来的な孤立リスクが高いことが示唆された。誰しも健康なときは生活に不自由なく、他者との交流も支障がないわけだが、健康状態の変化に伴い日常の移動が困難になれば、住まいの環境が人や地域資源との関係に大きく影響する。車に依存した生活を営んでいる人は、将来の健康状態を見越した住み替えや住まいの改変も重要と考えられた。


4│社会的孤立リスクが高い75歳以上者の特徴

これまで各世代において、現状における孤立リスクの程度からリスクを推定してきたわけであるが、予防の観点からはより高齢な75歳以上の高齢者で孤立リスクが高い人に注目することが肝要である。当該層に着目して検証してみると、1つの特徴的なことがわかった。それは、65歳時点で普段コミュニケーションをとる人が「5人未満」、また同じく65歳時点で普段コミュニケーションをとる人との関係数(所属やグループ等)が「2つ未満」である人が75歳になって孤立リスクが高い状況にあったのだ。団塊世代以下の世代については、この65歳時点での友人数及び所属グループの数を意識することも重要と考えられた。


5│社会的孤立問題に対する受け止め方(原因と予防等)

なお、本調査では高齢期の社会的孤立の問題に対してどのように受け止めているのか、また原因は何と考えるかについても聞いている。参考までに紹介しておきたい。
   社会的孤立問題の受け止め方については、「社会に問題がある」が約4割(39.8%)、「本人と家族に問題がある」が約3割(31.0%)、「自ら選択した生活であり問題ではない」と考える人が約2割(23.1%)と分かれた。当問題に対する受け止め方は個人によって見解が分かれることがわかった[図表8]。
   また高齢期の社会的孤立の原因については、「地域における人と人のつながりの希薄化した地域社会の変化」と考える人が最も多かった(61.2%)。




4―最後に~リスク要因を意識した個人及び地域の孤立予防に向けた取組みに期待

以上、断片的ではあるが、社会的孤立リスクレベルにもとづく将来的なリスク要因について述べてきた。性別など変えることができない要因はやむをえないが、生涯未婚を貫かず積極的に家族をつくることや、「家族」「人づきあい」「働き方」についての考え方や普段の態度を改めることにより、将来の孤立リスクを回避できる可能性がある。65歳時点の友人数等も一つのメルクマールになるが、いずれにしても高齢期の社会的孤立を回避するには、若いときからの幅広い人間関係(量・質)の構築が何よりも重要である。また、まちづくりの面でも、公共交通の充実、都市機能の集約化など、自家用車依存を減らす取り組みを進めつつ、人々のコミュニケーションを促進する空間利用や空間整備、住まいづくりを推進することも重要になると言えよう。

 

 
 1 明確な定義はないが、死後2日以上等経過して発見される死亡を指す
 2 世帯主が65歳以上の単身世帯
 3 国民一人ひとりを社会の構成員として取り込むこと
 4 工藤力他(1984)「高齢者の孤独に関する因子分析的研究」『老年社会科学』、第6巻第2号より
 5 調査は(株)インテージに委託し、同社のモニター会員から4世代6503名:(1)ゆとり世代(23-25歳、1647名)、(2)団塊Jr. 世代(39-42歳、1889名)、(3)団塊世代(65-67歳、1862名)、(4)75 +世代(75-79歳、1105名)を対象に実施(調査実施時期:2014年1月16日~23日)
 6 コミュニケーションの総量は、個々の相手方との関係性(コミュニケーションの深さ)と、手段ごとの頻度の総和の積和で算出
  ※コミュニケーションの深さ
調査でたずねた10種類の人間関係ごとに、それぞれ、「個人的な悩みをうちあけたり、相談したりできる人数」を「日頃つきあいのある人数」で除し、人間関係の種類によるコミュニケーションの深さの差異を調整
  ※コミュニケーションの頻度
4つの手段ごとのコミュニケーションの頻度について、個々の手段ごとに異なる重みを付与

  ※当研究結果の詳細については、弊社ホームページに報告書を公表しているのでそちらを参照ください。
http://www.nli-research.co.jp/report/misc/2014/p_repo141217.html

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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2015年02月06日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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