2015年02月06日

「拡大」から「縮小」への都市戦略-“オリンピック・レガシー”活かす住宅・まちづくり

土堤内 昭雄

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近年の五輪開催にあたり重視されるのが、オリンピック・レガシーだ。オリンピック・レガシーとは、五輪開催都市や開催国が長期にわたり継承・享受できるオリンピックの社会的・経済的・文化的恩恵のことである。

2020年東京五輪の立候補ファイルにも『ビジョン、レガシー及びコミュニケーション』という項目があり、『包括的な一連の物理的、社会的、環境的、国際的なオリンピック・レガシーの取組が、2020年大会の東京開催から生まれる』と記載されている。

64年のオリンピック当時、日本は高度経済成長の中にあり、当時建設された都市インフラはその後の日本の経済成長の基盤となった。2020年五輪は64年大会のレガシーである既存施設を有効活用し、コンパクトな大会を目指している。前回の五輪から半世紀が経過して社会経済環境も大きく変化した今日、2020年五輪が新たに創造するオリンピック・レガシーとはどのようなものだろう。

昨年10月、舛添要一東京都知事が2020年東京五輪・パラリンピックのために、2012年の五輪開催都市ロンドンを視察した。視察目的のひとつは、オリンピックで使用された様々な競技施設が大会後にどのように活かされているか、オリンピック・レガシーの最新の状況を把握することだった。

ロンドンでは、東京の新国立競技場と同じ設計者が手がけた水泳場(アクアティクス・センター)が、今年3月、大会中の17,500名の観客席を2,500名の規模に縮小して再オープンした。オリンピック・スタジアムも8万席から54,000席に改修して2016年に再オープンする予定だ。こうして施設の利用実態の適正化を図り、維持管理コストを低減、オリンピック・レガシーの継承を目指しているのだ。

2020年東京五輪においても、施設整備費を削減し、大会後の維持管理コストを低減するため、既存施設の代替によるバスケットボール会場など3施設の建設中止や仮設建築物の採用が決まっている。また、水泳場やホッケー場などは、ロンドン大会と同様、大会後に観客席を大幅に縮小する「減築」が計画に盛り込まれている。大会後に「負の遺産」を残さないように競技施設をあらかじめ「減築」するという計画は、前回の64年大会当時には見られなかった手法ではないだろうか。

重要な都市戦略のひとつである住宅づくりも、人口増加から人口減少へと新たな局面を迎えている。日本では空き家率が上昇しているが、これは主に世帯構造と住宅がミスマッチを起こしているからだ。世帯人員が縮小する時代に、部屋数の多い家は住みづらく、維持管理も大変だ。世帯規模に合わせて「減築」するなど、縮小する住宅計画が必要になっているのである。

今や人口減少時代の住宅・まちづくりには、縮小政策が不可欠だ。近年、建築でもライフサイクルマネジメントが注目されている。建築ストックの時代には、単に建物の維持保全や老朽化に伴う建て替えを行うだけでなく、社会環境の変化に対応して、建築の竣工から解体に至るまでの適切なマネジメントが必要なのだ。

人間も痩せれば洋服を体にフィットするようにリフォームするが、住宅やまちも人口規模に合わせてリニューアルすることが重要だ。

従来の「成長=拡大」一辺倒から、「成熟=縮小」も選択肢に含めた政策フレームの転換が求められる。2020年五輪に向けた“オリンピック・レガシー”を活かした住宅・まちづくりは、人口減少時代の「拡大」から「縮小」への新たな都市戦略の試金石になるのではないだろうか。

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