コラム
2015年01月15日

顧客の苦情を生まないためには-「まあ満足」では不十分!苦情の削減には高い満足が重要

生活研究部 主任研究員 井上 智紀

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生命保険協会にて公開されている、平成26年度上半期の生保各社の苦情受付件数と個人保険保有件数から苦情の発生確率を求めると、全43社の合計では0.29%となっている。業種により、消費者からの苦情の生じ易さには、差がある可能性はあるものの、多くの業種・企業にとって、顧客全体の数に占める苦情の割合は、生保業界と同様、ごく僅かなものではないだろうか。しかし、近年、TwitterやFacebookなどのSNSの普及に伴い、企業が従来以上に巨大なレピュテーションリスクに晒されていることに鑑みれば、ごく僅かなものであったとしても、顧客から挙がる苦情の削減に向けた取組みの必要性はかつてないほどに高まっているといえよう。

では、顧客からの苦情を減らすためには、どの程度満足度を高める必要があるのだろうか。

弊社が2013年1月に実施した「生命保険マーケット調査」から、直近加入先会社の上位19社の生命保険に対する満足度と、各社の苦情発生確率との関係をみると、「やや不満」と「不満」を合わせた『不満計』と苦情発生確率との相関係数は0.35(統計上は10%有意)と弱い正の相関を示している(図表1右)。一方で、「満足」と「まあ満足」を合わせた『満足計』との相関係数は-0.16と、負の値ではあるものの、ほとんど相関がみられず、統計上も有意ではない(図表1左)。顧客の不満は苦情行動に繋がりやすいものの、満足しているからといって苦情の申し出がないとはいえないようである。

苦情の発生を抑制するためには、不満を持たれない程度の対応では不十分なのだろうか。

図表1 満足度と苦情発生確率

そこで、『満足計』について「満足」と「まあ満足」に分け、それぞれと苦情発生確率との相関についてみると、「まあ満足」との相関係数は0.07とほとんど相関がなく、統計上も有意ではないのに対し、「満足」との相関係数は-0.40と中程度の相関(5%有意)が確認できる(図表2)。このことは、「まあ満足」程度では苦情行動を削減する効果は見込めず、完全に満足する顧客を増やすことで、ようやく顧客の苦情行動を減らす効果が見込めることを意味している。

一方、同様に『不満計』を分解した結果では、「やや不満」で0.34(10%有意)と、有意な中程度の相関が確認できるのに対し、「不満」では0.15(非有意)と、相関はみられない(図表略)。これらの結果は、「不満」にまで至ってしまう場合にはむしろ、解約などの直截的な離反行動につながっている可能性を示しているものと考えられる。

図表2 「満足」、「まあ満足」と苦情発生確率

これらの結果から、顧客の苦情行動を減らすためには、完全に「満足」の状態にある顧客を増やすことが重要であり、僅かな不満が苦情につながっているといえるのではないだろうか。加えて、完全な「不満」の場合には、顧客は離反してしまう可能性が高いとも考えられよう。

顧客の苦情は、商品・サービスの改善のヒントを得たり、適切な対応により、さらに高い評価を獲得し得るなど、必ずしも企業への悪評として捉え避けるべきことではないという考えもあろう。しかし、本来、苦情は企業・顧客の双方にとって好ましいものではあるまい。不要な苦情を生まないためには、「まあ満足」という評価に潜む不満の種を見つけ、顧客に対してより高い満足を提供するための不断の取組みが肝要であるといえよう。



 
  1 一方で、苦情の申出を受けた後の対応が重要であることは言を俟たない。
  2 調査では「満足している」「まあ満足している」「どちらともいえない」「やや不満である」「不満である」の5段階で聴取している。全体の回答者比率(N=4021)はそれぞれ、「満足している」が12.1%、「まあ満足している」が51.6%、「どちらともいえない」が29.4%、「やや不満である」が4.4%、「不満である」が2.1%であった。
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生活研究部   主任研究員

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

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