2015年01月09日

本人本位の認知症ケアから本人本位の認知症施策へ

  山梨 恵子

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2013年12月にロンドンで開催された「G8認知症サミット」に続き、昨年11月5日~6日、「認知症サミット日本後継イベント」が都内で開催された。冒頭、安倍首相による挨拶では、「我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定する」ことを明言。現在進められているオレンジプラン(平成25年度から29年度までの認知症施策推進5か年計画)を新たにした国家戦略が打ち出される見通しとなった。省庁の枠を超えた国家戦略に位置づけられることにより、様々な認知症施策が一気に進んでいくことへの期待も高まる。
   このイベントでもう1つ注目されたことは、認知症の人自身が登壇し、認知症となった本人が望む認知症施策の必要性を訴えたことである。施策を議論する場への当事者の参加はある意味当然のことかもしれない。しかし、従来参画してきた当事者とは「介護する家族」であることが多く、施策の視点は自ずと介護者負担の軽減や認知症の症状への対応に向けられてしまいがちな面があった。心身ともに過剰な負担がかかることの多い家族と、実際に認知症を患う本人とでは、抱えている悩みも求めている支援も大きく異なる。認知症の人自身が望む支援を、本人の言葉を通して社会に問いかけていくプロセスは、認知症施策における課題の本質を明らかにする上でも重要なアプローチになるだろう。
   いまだに払拭しきれない認知症への偏見を無くし、認知症になっても社会と関わりを持ちながら生活できるようにすること。診断後の不安な時期に寄り添い、様々に起きてくる生活課題対応する支援体制を整えること。これら「認知症の人が希望を持ってよりよく生きること」を支えていくための支援には、認知症の人の体験に基づいた本人視点の課題分析が不可欠だ。そのプロセスを怠れば、形ばかりの意味をなさない支援にもなりかねない。言いかえれば、こうした取組みこそが、過剰な、あるいは不必要な介護サービスの利用を回避し、コスト削減や本人の望む暮らしに近づいていく道筋になると考えられる。
   認知症の人(本人)の声に耳を傾け、当事者性に基づく政策立案につなげていく試みは、既に国際的な潮流になっている。2009年に公表されたイングランド認知症国家戦略では、本人の視点を反映した包括的な政策方針が打ち出され、その成果指標として本人視点の評価項目が設定されている。また、昨年9月20日にNHKで放映されたETV特集「私たち抜きに私たちのことを決めないで~初期認知症と生きる~」では、イギリス北部のスコットランドで認知症の人同士が集う「認知症ワーキンググループ」が結成され、スコットランド政府の認知症施策に大きな影響を及ぼしている様子が紹介された。「診断後サポート1年保証」と呼ばれる認知症の早期支援制度は、認知症ワーキンググループの本人の声を反映させた認知症政策の1つだという。
   こうした動きは、すでに日本においても始まっている。昨年10月11日、日本認知症ワーキンググループは、「認知症になってからも希望と尊厳をもって暮らし続けることができ、よりよく生きていける社会を創りだしていくこと」を目的に発足した。ワーキンググループは今後、国内外の認知症当事者とつながりながら、多くの「本人の声」を代弁しつつ、政策・施策への提案や認知症に対する社会の認識を変えていく(偏見・差別の解消)ための活動を展開する。これまで、個別の人のケアに活かされてきた「本人本位」という考え方は、今後、施策づくりにも活かされる段階へと進んでいくのである。
   認知症のあるなしに関らず、その後の人生を自分らしく、より良く暮らしていきたいという願いは誰もが同じに持っている。認知症あるいはその予備群が高齢者の4人に1人という時代、求められているのは、私たちの中にある認知症へのスティグマを無くしていくことである。そして、個別のニーズに対応する支援さえあれば認知症になっても地域の中で生き生きと暮らし続けることが出来る、というポジティブなイメージを持てるようになることが重要だ。

 

 
 1 スコットランドで認知症と診断されると、リンクワーカーと呼ばれる専門職による精神的なサポートや、生活のこまごまとした困難に対応するための支援が、最低1年間は無料で受けられる制度。

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