2015年01月09日

安倍政権発足以降の景況感や家計収支の状況-地方部ほど景況感は悪く実質所得は減少。更なる増税には負担軽減措置の検討を。

生活研究部 主任研究員   久我 尚子

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1―はじめに

先月の衆院選ではアベノミクス2年間の真価が問われた。安倍政権による経済政策の評価、円安による恩恵は都市部の大企業にとどまり地方部をはじめ恩恵が行き渡らない層で生まれた格差は、選挙の争点の1つでもあった。新年を迎え、今後の日本経済の行方を占うためにも、今、改めて、これまでの状況を振り返りたい。


2―消費者全体の状況

1|消費者心理の状況

二人以上世帯の「消費者態度指数」は、2012年12月の安倍政権発足と同時に上昇した[図表1]。背景には、金融政策による市場の活性化や企業業績の改善に対する消費者の期待感があった。しかし、2013年10月に、2014年4月からの消費増税が決定されると、「消費者態度指数」は大きく低下した。増税開始後は、一旦上昇した時期もあったが、結局、政権発足前と同程度の低水準へと落ち込んでいる。
   個別の「消費者意識指標」を見ると、「雇用環境」と「資産価値の増え方」は比較的高水準で推移している。背景には、公共工事の増加などによる人手不足や、金融市場の動きは安定的ではないものの、依然として株高の恩恵を受けている層も多いことなどがあるだろう。一方、「収入の増え方」や「暮らし向き」は低水準で推移している。




2|家計収支の状況

「消費者物価指数」は、円安進行による輸入物価の上昇などを背景に、2013年7月から上昇し、2014年4月以降は消費増税が拍車をかけ、更に上昇している[図表2]。
   二人以上勤労者世帯の「実収入」は、2013年7月からの物価上昇とともに、名目増減率と実質増減率が乖離しはじめ、消費増税を機に乖離幅は拡大している。その結果、9月の「実収入」の実質増減率は、前年同月比▲5.97%まで落ち込んでいる。この実質所得の減少が、「収入の増え方」や「暮らし向き」が低水準にある背景にあるだろう。
   また、2012年12月から2014年9月までの二人以上勤労者世帯の「実収入」の対前年同月増減率の平均値を算出することで、安倍政権が発足して以降、結局、「実収入」は増加基調にあるのかどうかを確認すると、名目増減率は+0.02%、実質増減率は▲1.56%である。これらに対してCPI変化率の平均値は+1.66%である。よって、物価の上昇が収入の増加を上回り、収入は実質減少していることが分かる。
   「消費支出」については、増税前に大きく上昇し増税開始にかけて低下、増税後は増税前の水準に回復していない。「実収入」と同様に、アベノミクス全期間を通した対前年同月増減率の平均値を算出すると、名目増減率は++0.85%、実質増減率は▲0.74%である。「実収入」の実質増減率の平均値は▲1.56%であることから、二人以上勤労者世帯では、昨年9月までのアベノミクス全期間では、2013年の景況感の好転や駆け込み需要もあり、収入を上回って消費が増えていることになる。




3―都市規模別に見た状況

1|消費者心理の状況

都市規模別に、二人以上世帯の「消費者態度指数」を見ると、いずれも全体と同様の推移を示すが、大都市ほど高水準、小都市ほど低水準であり、都市部より地方部の方が景況感は厳しい様子が分かる[図表4]。




2|家計収支の状況

ここでは、全体と同様に都市規模別に家計収支の月次推移を捉えると、集計世帯数等の影響から月々の変動が大きく出すぎるため、複数月をあわせた特定期間の対前年増減率の平均値を算出し、その傾向を確認する。家計収支に特徴が出ると予想される期間として、(1)2012年12月~2013年6月(安倍政権発足から物価上昇前)、(2)2013年7月~2014年3月(物価上昇から消費増税前)、(3)2014年4~9月(消費増税から現在)、そして、(4)2012年12月~2014年9月(安倍政権発足以降全期間)に注目する。
   「実収入」については、地方部を中心とした小都市AやBでは、弱い増加基調を示す時期があるものの、物価上昇・増税により減少に転じ、アベノミクス全期間では減少基調を示している[図表5]。また、その傾向は都市規模が小さいほど顕著である。一方、地方中核都市などの人口15万人以上の中都市では、物価上昇前の増加基調が強く、物価上昇・消費増税後の減少基調も比較的弱い。その結果、アベノミクス全期間では増加基調を示している。また、政令指定都市や東京都区部の大都市では、消費増税前までは増加基調を示すものの、増税後は減少基調が強く、アベノミクス全期間では、やや減少基調を示している。これらの背景には、大都市や地方中核都市を拠点とする大企業では企業業績の改善・賃金の上昇が進んだ一方、小都市を拠点とする中小企業はやや遅れて改善が進んだ、あるいはまだ改善せず、賃金も上昇していないことがあるだろう。
   同様に、「消費支出」については、小都市では物価上昇前の消費者全体の景況感が良い期間でも消費は増加基調になく、物価上昇・消費増税とともに減少基調は強まっている[図表6]。その結果、安倍政権発足以降の全期間では大都市や中都市と比べて強い減少基調を示している。
   つまり、地方部では都市部と比べて、物価上昇の影響を大きく受け、家計収支は厳しい状況にある。




 

4―おわりに

アベノミクス2年間を振り返ると、一時期は、企業業績の改善→賃金の上昇→個人消費の活性化という好循環も期待できた。しかし、物価上昇・消費増税により実質所得は減少し、家計は厳しい状況にある。
   日本の財政状況をみれば、更なる消費増税は避けられないとの見方も強い。しかし、その場合、実質所得が増えない状況が続けば、景況感はさらに暗転し、個人消費は冷え込む可能性が高い。
   企業業績の改善・賃金への反映が遅れる地方部では、物価上昇による実質所得減少の影響が大きい。更なる増税を実施する場合、新たな負担とならぬよう、低所得者に向けた消費税の抱える逆進性を軽減する措置や、都市部と比べてガソリン消費の多い地方都市で円安による資源価格高騰の影響を緩和する措置などが検討される局面にある。

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生活研究部   主任研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング

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