2015年01月09日

2014~2016年度経済見通し

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期連続のマイナス成長

安倍政権発足以降、順調な景気回復を続けてきた日本経済は、2014年4月に実施された消費税率引き上げをきっかけとして急速に落ち込んだ。実質GDPは2014年4-6月期の前期比年率▲6.7%に続き7-9月期も同▲1.9%と2四半期連続のマイナス成長となった。消費増税直後の景気の急速な落ち込みは主として駆け込み需要の反動によるものだったが、その後の回復が遅れているのは消費税率引き上げに伴う物価上昇による実質所得の低下を主因として個人消費の低迷が長引いているためである。


◎―消費税率の再引き上げは延期

こうした状況を受けて、2015年10月に予定されていた消費税率の引き上げ(8%→10%)は延期されることが決定した。安倍首相は11/18の記者会見で、3%分の消費税率引き上げが個人消費を押し下げる大きな重石となっており、2015年10月から2%引き上げることは、個人消費を再び押し下げ、デフレ脱却も危うくなると判断したと述べている。
   ここで改めて消費増税の影響を検証してみると、当研究所のマクロモデルによるシミュレーションでは、消費税率を1%引き上げた場合、消費者物価は0.7%程度上昇しこれが家計の実質所得の低下をもたらし、実質民間消費、実質住宅投資の減少につながる。さらに、国内需要の減少に伴う企業収益の悪化が設備投資を下押しする。この結果、消費税率を1%引き上げた場合、実質GDPは1年目に▲0.24%低下、2年目に▲0.42%低下する。
   また、消費税率の引き上げ前後では駆け込み需要とその反動減が発生する。当研究所では2014年度の税率引き上げ前の駆け込み需要はGDP比で0.6%程度(個人消費が2.4兆円、住宅投資が1.0兆円)だったと試算している。この結果、実質GDPは2013年度に0.6%押し上げられた一方、2014年度は物価上昇に伴う実質所得の低下による影響(▲0.7%=▲0.24%×3)と駆け込み需要の反動(▲0.6%)が重なるため、実質GDPは▲1.3%押し下げられることになる。
   2015年度の増税は見送られたが、2014年度の税率引き上げによる累積的な下押し(マクロモデルシミュレーション結果の2年目に相当)が加わることになる。2015年度、2016年度の実質GDPの水準は2014年度の増税がなかった場合に比べると▲1.3%(=▲0.42%×3)低下する。さらに、消費税率は2017年度に引き上げられるため、2016年度には2013年度と同様に駆け込み需要が発生することが見込まれる(現時点ではGDP比で0.3%程度を想定)。
   これらの結果をまとめると、消費税率引き上げに伴う実質GDPの水準への影響は2013年度が+0.6%、2014年度が▲1.3%、2015年度が▲1.3%、2016年度が▲1.0%となる。また、実質GDP成長率への影響は2013年度が+0.6%、2014年度が▲1.9%、2015年度が+0.1%、2016年度が+0.3%である[図表1]。




2―実質成長率は2014年度▲0.7%、2015年度1.6%、2016年度1.8%を予想

1│円安、原油安の影響

円ドルレートは米国の量的緩和政策終了や日本銀行の追加緩和を受けて急ピッチで円安が進んできたが、2014年11月の米国雇用統計が予想を大きく上回る結果となったことを受けて一時1ドル=120円台まで円安が進んだ。一方、世界経済の減速懸念や産油国の供給過剰などを背景に原油価格(ドバイ)は6月下旬の約110ドル/バレルをピークに大きく下落しており、足もとでは60ドル台となっている。
   円安は輸出物価、輸入物価ともに押し上げるが、輸入のほうが外貨建ての割合が高いため、円安によって交易条件は悪化する。一方、日本は原油を輸出していないため、原油安は輸入物価の下落を通じて交易条件の改善に直結する。2014年7-9月期に比べると足もとの為替レートは2割弱の円安、原油価格は4割弱の低下となっており、当面は原油安による交易条件改善の効果が上回ることが見込まれる。
   安倍政権発足以降、円安と原油価格の高止まりが続いていたため、交易条件は悪化を続けてきた。GDP統計の交易損失は2012年10-12月期の▲17.6兆円から2014年7-9月期には▲24.4兆円まで拡大したが、2014年10-12月期以降は交易損失が縮小し、2015年4-6月期には▲18.6兆円と3四半期で6兆円近く改善すると予想する。ただし、その後は原油価格が持ち直しに向かうことを見込んでいるため、交易条件は再び悪化に向かう可能性が高い。
   消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、消費税率が引き上げられた2014年4月には消費税の影響を除くベースで前年比1.5%までの伸びを高めた。しかし、その後は電気代、ガソリンなどのエネルギー価格の上昇率低下、消費税率引き上げに伴う景気減速の影響などから鈍化傾向となり、10月には前年比0.9%と1年ぶりの1%割れとなった。
   円安は物価押し上げ要因、原油安は物価押し下げ要因となるが、当面は原油安の影響が上回る。また、消費税率引き上げ後の景気減速に伴う需給バランス悪化の影響がしばらく残りそうだ。コアCPIの1%割れは1年以上続き、再び1%台の伸びとなるのは2016年入り後となるだろう。
   コアCPI上昇率は2014年度が前年比3.0%(1.0%)、2015年度が同0.7%、2016年度が同1.1%と予想する(括弧内は消費税の影響を除くベース)。2016年度までに2%の「物価安定の目標」を達成することは難しいだろう[図表2]。




2│2015年度は潜在成長率を上回る成長へ

個人消費の回復は遅れているが、2014年度下期以降は持ち直しの動きが徐々に明確となるだろう。駆け込み需要の反動の影響が和らぐことに加え、原油価格下落を主因として消費者物価上昇率が低下し大きく落ち込んでいた実質所得が持ち直しに向かうことが先行きの個人消費を下支えする可能性が高い。ただし、2014年7-9月期の個人消費の水準は駆け込み需要が本格化する直前の2013年10-12月期よりも▲2.7%も低い水準となっている。個人消費が2013年10-12月期の水準まで回復するのは2016年度入り後までずれ込むだろう。
   設備投資は2四半期連続で減少したが、個人消費とは異なり駆け込み需要発生前の2013年10-12月期の水準を上回っている。消費増税後も堅調な企業業績、機械受注統計などの設備投資関連指標、各種設備投資計画などを合わせて考えれば、設備投資の回復基調は維持されていると判断される。
   実質GDP成長率は2014年度が▲0.7%、2015年度が1.6%、2016年度が1.8%と予想する[図表3]。2014年度のマイナス成長は不可避とみられるが、2015年度は雇用・所得環境の改善が続く中、消費増税の影響が一巡し個人消費が高めの伸びとなること、好調な企業業績を背景とした設備投資の増加が続くことなどから、潜在成長率を上回る高めの成長となるだろう。




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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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