2014年11月10日

中期経済見通し(2014~2024年度)-需要不足と供給力低下に直面する世界経済

経済研究部 経済調査室長   斎藤 太郎

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1―下振れが続く世界経済

世界経済は国・地域のばらつきを伴いながら緩やかな回復を続けているが、そのペースは依然として緩慢なものにとどまっている。主要先進国のGDPギャップはリーマン・ショック以降、ほぼ一貫してマイナス圏で推移している(図表1)。ユーロ圏で「独り勝ち」を続けていたドイツは2011年から2012年にかけてGDPギャップがいったんプラス圏に浮上したが、足もとでは再びマイナスに転じている。
   IMFの世界経済見通しでは、世界経済の成長率予想の下方修正が繰り返されている。たとえば、2014年の成長率見通しは2011年9月時点では4.7%だったが、2014年10月に公表された最新見通しでは3.3%まで下方修正されている。また、足もとだけでなく先行きの中長期的な見通しも大幅に下方修正されていることも特徴だ。このことは、バブル崩壊後の日本経済が経験してきたのと同様に、世界経済全体の需要不足と供給力(潜在成長率)の低下が同時に進んでいることを示唆している。
   リーマン・ショック後に先進国が総じて低成長を続ける一方、新興国は相対的に高い成長を維持したため、世界経済に占める新興国の割合(ドルベース)は2007年の28.4%から2013年には39.0%まで上昇した。世界経済の牽引役は引き続き中国をはじめとした新興国が担うことになり、世界経済に占める新興国の割合は今回の予測期間末の2024年には50%近くまで高まるだろう。国別には現在世界第2位の経済規模となっている中国が米国を抜いて世界一の経済大国となるほか、現時点では経済規模が日本の3分の1程度にすぎないインドはすでに人口が日本の約10倍となっていることに加え、先行きの人口増加率も日本を大きく上回ることから、予測期間末には日本のGDPを上回ることが予想される。
   ただし、新興国は先進国との比較では高成長を維持するものの、伸び率は徐々に鈍化していくことが避けられないだろう。潜在成長率を大きく左右する生産年齢人口(15~64歳)は先進国がすでに減少に転じている一方で、新興国は1%台後半の伸びを維持している。しかし、中国が「一人っ子政策」の影響から2010年代半ばに減少に転じることもあり、新興国全体の生産年齢人口も予測期間末には0%台前半まで低下することが予想されている(国連推計による)。このため、新興国の潜在成長率も先行きは徐々に低下していくことが見込まれる。世界経済はリーマン・ショック前の2006、2007年には5%台の高成長を記録したが、今後10年間の平均では4%程度、2020年代前半には4%を割り込む水準まで成長率が低下するだろう。




2―需要不足と供給力低下を同時に解決することが重要

1│潜在的な需要の掘り起こし

安倍政権発足後、円安・株高が大きく進み、日本経済が約15年にわたって苦しめられてきたデフレからも脱却しつつあるが、実体経済はバブル崩壊後の長期停滞から完全に抜け出せたとは言い切れない状況にある。
   日本経済の長期低迷はバブル期に過剰投資などによって積み上げられた供給力に対して需要が大幅に不足したことによって始まった。さらに、個人消費を中心とした需要低迷の長期化に伴い企業の設備投資抑制姿勢が強まったことが供給力、すなわち潜在成長率の低下につながるという形で、需要不足と供給不足が同時に進行するという悪循環が繰り返されてきたのである。
   マクロ的には需要不足の状態が続いている一方、満たされない需要が多く存在するという需要と供給のミスマッチも日本経済の停滞が長期化してきたことの一因と考えられる。
   日本は高齢化の進展によってサービスへの需要が高まっていると考えられるが、高齢化が急速に進んでいることを考えれば、サービス産業の割合はそれほど高いとは言えない。OECD加盟国(先進国)について、高齢化率(65歳以上人口比率)とサービス産業比率(GDPに占めるサービス産業の割合)の関係を見ると、高齢化率が高いほどサービス産業比率も高いという傾向がある。日本のサービス産業比率は先進国の平均よりは高いものの、高齢化が先進国で最も進んでいる一方で、サービス産業比率は米国、英国、フランスなどよりも低い(図表2)。このことは、高齢化の進展に伴い需要はモノよりもサービスにシフトしているにもかかわらず供給側がそれに対応しきれていないことを意味している。
   また、GDPに対する医療・介護支出の割合も先進国の中では低い水準にある。財政状況が大きく悪化している中、医療・介護に対する公費負担を増やすことは現実的ではないが、現在は原則として禁止されている混合診療を認めるなどの規制緩和を通じて、個人が自己負担によって選択的な医療・介護サービスを受けることが可能となるような環境の整備を進めるべきである。
   高齢化の進展、経済の成熟化などを背景に個人消費に占めるサービス支出の割合は上昇傾向が続いているが、そのうち娯楽・レジャー・文化、外食・宿泊といった選択的サービス支出の割合は近年むしろ低下している。内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、今後の生活で重視したいものとして、「衣・食・住」や「自動車、電気製品などの耐久消費財」よりも、「レジャー・余暇生活」を挙げる人の割合のほうが高い一方、現在の生活に対する満足度は「レジャー・余暇生活」が最も低くなっている。高齢化の進展や家電製品の普及に伴う家事時間の減少などから、余暇(3次活動)時間が増えていることもあり、趣味、娯楽、旅行、スポーツなど選択的なサービス支出に対する潜在的な需要は大きく増えている。需要の拡大が期待される分野に供給力をシフトしていくことにより、潜在的な需要が喚起されるとともに、潜在成長率の上昇につながることも期待される。




2│女性、高齢者の労働参加拡大

1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、1990年台初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2002年以降の戦後最長の景気回復局面では一時1%を上回る局面もあったが、その後のリーマン・ショック、東日本大震災の影響もあって再び低下している。当研究所では足もとの潜在成長率を0.6%と推計している。潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっているが、近年は設備投資の低迷により資本投入による押し上げ幅が縮小している。
   先行きについては、人口減少ペースの加速、さらなる高齢化の進展が見込まれるため、労働投入のマイナス寄与が続くことは避けられないが、高齢者、女性の労働力率を引き上げることにより、労働力人口の減少ペースを緩和することは可能である。今回の見通しでは、2024年度までに男性は60歳代の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇、女性は25~54歳の労働力率が70%台から80%前後まで上昇することを想定した。


3―日本経済の見通し

1│今後10年間の平均成長率は1.3%

消費税率は2014年4月に5%から8%へ引き上げられた。今回の見通しでは法律で定められているとおり、2015年度に10%への再引き上げが実施された後、2019年度に12%、2023年度に14%へと引き上げられることを想定している。
   当研究所のマクロモデルによるシミュレーションでは、消費税率を1%引き上げた場合、消費者物価は0.71%上昇する。消費者物価の上昇は家計の実質所得の低下をもたらし、これが実質民間消費、実質住宅投資の減少につながる。さらに、国内需要の減少に伴う企業収益の悪化が設備投資を下押しする。この結果、消費税率を1%引き上げた場合、実質GDPは1年目に▲0.24%低下、2年目に▲0.42%と低下幅がさらに拡大した後、3年目には▲0.36%とその影響がやや和らぐことになる。
   2020年度までは東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う経済効果が期待される。当研究所では、東京オリンピック開催による実質GDPの押し上げ幅を2014年度から2020年度までの7年間の累計で1%程度と試算している 。ただし、開催翌年の2021年度にはその反動で成長率が落ち込むことが見込まれる。今後、10年間の実質GDP成長率は消費税率引き上げ前後、オリンピック開催前後で振幅の大きな展開が続くことになるが、予測期間(2015~2024年度)の平均では1.3%となり、過去10年間(2005~2014年度)の平均0.6%から伸びが高まることが予想される。


2│消費者物価は1%台の伸びが持続

当研究所が推計するGDPギャップはリーマン・ショック後の2009年度にはマイナス幅が▲5%台(GDP比)まで拡大したが、2013年度には2.3%と潜在成長率を大きく上回る成長となったため、▲0.9%とマイナス幅が大きく縮小した。2014年度は消費増税の影響から低成長となるため、マイナス幅が再び拡大するが、その後は2020年のオリンピック開催に向けて景気が堅調に推移することから、需給バランスは改善傾向が続き、2018年度にはGDPギャップがプラスに転じ、その後は振れを伴いながらも予測期間末までプラス圏での推移が続くだろう。
   通常は、中長期的に見れば需要と供給は一致し、GDPギャップは均してみればゼロ近傍となるはずである。しかし、日本銀行が消費者物価上昇率2%の「物価安定の目標」を掲げ、これが達成されるまでは金融緩和姿勢を維持することが見込まれるため、需給がやや逼迫した状態が続くことが予想される。
   消費者物価(生鮮食品を除く総合)は、2013年度後半から1%台前半の伸びが続いているが、円安効果の一巡や消費税率引き上げ後の景気減速に伴う需給バランス悪化の影響で、2014年度後半から2015年度前半にかけて1%以下の伸びとなることが見込まれる。2016年度以降は消費増税の影響がなくなることに加え、オリンピック開催に向けて好況が続くため、消費者物価の上昇ペースは加速し、消費税率の引き上げ前の駆け込み需要が発生する2018年度には2.0%と日銀の物価安定の目標が達成されるだろう。消費者物価上昇率が安定的に2%を維持することは難しいが、2%を超えるまでは金融緩和姿勢を維持することが見込まれるため、1%台の伸びは確保されるだろう。
   消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は過去10年平均のほぼゼロ%から、消費税を含むベースでは1.7%、消費税を除くベースでは1.4%になると予想する。


3│経常収支の見通し

貿易収支(通関ベース)は、東日本大震災直後から3年以上にわたって赤字を続けている。貿易収支は2010年度には5.3兆円の黒字だったが、2013年度は▲13.8兆円の赤字となった。大幅な円安にもかかわらず、生産拠点の海外移転などの構造要因から輸出の伸び悩みが続いていること、円安や燃料調達コストの高止まりから輸入価格が上昇していることが貿易収支悪化の要因である。
   貿易収支は、短期的には海外の景気動向や為替レートの変動などによって改善に向かう可能性もあるが、中長期的には高齢化の進展に伴う国内供給力の低下から趨勢的には輸入の伸びが輸出の伸びを上回ることになるため、貿易赤字の拡大傾向が続く可能性が高い。
   一方、一貫して赤字が続いてきたサービス収支は旅行収支の改善を主因として赤字幅が縮小することが見込まれる。2013年の訪日外国人旅行者数は、東アジア諸国のビザの発給要件緩和に大幅な円安という追い風が加わったことから、前年比24.0%の1036万人となり初めて1000万人を突破した。訪日外国人旅行者数は2020年には2000万人を突破、予測期間末である2024年には2400万人程度まで増加し、旅行収支は2015年に黒字に転換した後、2024年には1.5兆円程度まで増加するだろう。旅行収支の受取額は2013年の1.5兆円、GDP比0.3%から2024年には3.8兆円、GDP比0.6%まで拡大すると予想する(図表3)。ただし、旅行収支以外の輸送収支、その他サービス収支は赤字が続き、サービス収支全体では予測期間末まで赤字が続くことが見込まれる。
   海外生産シフトの拡大は輸出の下押し要因となる一方、直接投資を中心とした対外資産の増加を通じて第一次所得収支の増加をもたらすというプラス面もある。経常黒字の蓄積による対外資産の増加と大幅な円安を反映し、2013年度の第一次所得収支は前年度から2兆円以上増加し16.7兆円(GDP比で3.5%)となった。為替レートは2017年度まで円安が続いた後、2018年度以降は円高傾向で推移することが見込まれる、第一次所得収支の黒字幅は2010年代後半にかけてGDP比で4%近くまで拡大した後、予測期間末まで高水準横這い圏での推移が続くと予想する。
   中長期的には、経常収支は貯蓄投資バランスによって決定される。家計貯蓄率は高齢化の影響などから長期的に低下傾向が続いてきたが、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要などから個人消費が高い伸びとなったため、マイナスに転じた可能性が高い。2014年度は駆け込み需要の反動から消費が抑制されるため、貯蓄率はいったんプラスとなるが、高齢化のさらなる進展が見込まれることから、再び低下傾向となり、2017年度にマイナスとなった後はマイナス幅を拡大させ、貯蓄超過が続いてきた貯蓄投資バランスも2020年代前半には投資超過となることが予想される。
   企業部門は、設備投資の伸びが高まることや金利上昇に伴う利払い費の増加から貯蓄超過幅は縮小に向かう。政府は財政赤字の削減が緩やかながらも進展することから投資超過幅は縮小傾向となるだろう。企業の貯蓄超過幅を政府、家計の投資超過幅が上回ることにより、経常収支は予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると予想する。





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経済研究部   経済調査室長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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