コラム
2014年10月09日

「顧客との価値共創」は可能か?

生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー   井上 智紀

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近年、マーケティングにおいては、「これからの企業の成長には顧客との価値共創が不可欠である」といった意見がみられるようになってきた。こうした意見がでてくる背景には、以下に示すような、大きく2つの要因があるものと思われる。


  1. コモディティ化の進展や、消費者の価値観が多様化する中で、ニーズを捉えた独自性の高い商品・サービスの開発が困難となってきたこと

  2. FacebookやLINEなど、SNSの普及により、消費者と直接コミュニケーションをとる環境が整ってきたこと

いずれも理由としてはもっともであり、既に多くの企業がSNSの活用に取り組み、実際に成功事例として挙げられる企業も僅かながらでてきているようにみうけられる
   顧客との価値共創、すなわち、消費者個々とのコミュニケーションの中で、直接ニーズを語ってもらったり、マーケターがニーズを汲み取っていくことで、商品やサービスをカタチ作っていくことができれば、企業にとっては、「(少なくとも)その消費者や類似の嗜好をもつ消費者群による商品・サービスの購入」、すなわち最低限の売上(収益)が見込める上、口コミやSNSなどを通じて消費者自らの体験として発信してもらうことで、支持を広げていくことも期待できよう。苛烈な競争の中にある企業にとって、このような成果が期待される取組は、甘美に響くのではないだろうか。
   しかし実際に、企業が顧客との価値共創に取り組んでいくためには、以下に述べるように2つの大きな壁を越える必要がある。
   第1は、企業における“スキルの壁”である。商品・サービスについて、実際に使うなかで不便を感じる点があれば、その点について語ることは、一介の消費者であっても容易であろう。しかしこれでは、既存の商品・サービスの改良はできたとしても、市場に存在しない新商品・サービスを生み出すことにはつながるまい。また、自身のニーズや、ニーズの背景となるような生活上の不便や課題について、消費者自身が自覚し、明確に言葉や態度として示せるとは限らず、企業側には、コミュニケーションを通じて彼ら彼女らの言葉や振る舞いからニーズを汲み取る、高度なスキルが求められよう。こうしたスキルは一朝一夕に獲得できるものではなく、顧客との距離が遠く、コミュニケーション経験の蓄積が乏しい企業にとっては、より大きな壁となるのではないだろうか。
   第2の壁は、“参加の壁”である。企業側が「顧客との価値共創」を望んだとしても、その商品・サービスを利用している消費者が必ずしも協力的であるとはいえまい。コモディティ化が進む中、多くの商品・サービスには、代替する商品・サービスが無数にあり、何か不便を感じたり、不満を抱いた顧客は声を上げることなく容易に離反してしまうのではないだろうか。企業の価値創造に協力を惜しまない消費者とは、すなわち当該企業やブランドに対して思い入れがあるファンである可能性が高い。果たして、どれだけの企業がこのような熱心なファンを獲得できているだろうか。

これらの壁は、いずれも消費者とのコミュニケーションを積み重ねていく中でのみ、越えていけるものであるように思われる。「顧客との価値共創」による甘美な果実は、顧客と真摯に向き合い、誠実にコミュニケーションを重ねてきた企業にのみもたらされる。厳しい競争環境のなかで、短期的には成果につながりにくい取組を続けていくことは、茨の道にも感じられよう。それでも果実を得たければ、まずなすべきは、顧客とのコミュニケーションを通じて、自社や自社の商品・サービスのファンを増やしていくための、地道な取組ではないだろうか。



 
  1 例えば以前から消費者の声を活用してきた良品計画社では、自社で運営する「くらしの良品研究所」を通じて消費者の声を商品開発に反映するほか、TwitterやFacebook等でも顧客理解や店舗への送客につなげている。
このほか、クックパッドやアットコスメなど、各種のユーザ投稿サイトの運営企業においては、消費者からの投稿そのものが価値創造の源泉であるといえよう。

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生活研究部   シニアマーケティングリサーチャー

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

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