2014年08月07日

中小ビル事業の生き残りと成長-テナントの大規模優良ビル志向が強まる中で

竹内 一雅

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東京の都心部で、高いグレードと広い床面積を持つ大規模優良ビルの開発が続いている。
   昨年の歌舞伎座タワーなどに続き、今年は虎ノ門ヒルズ、京橋トラストタワー、日本生命大手町ビル、飯田橋グランブルームなどが竣工される。これらのビルの多くがほぼ満室での開業で、東京のオフィス市況の回復を新築の大規模優良ビルが主導している。
   テナントによる新築大規模優良ビルへの需要の高まりは、(1)リーマンショック以降、長く続いたオフィス不況により、大規模ビルと中小ビルの賃料格差が大幅に縮小したことと、今後の市況回復・賃料上昇期待から、新築の大規模優良ビルのお値打ち感が高まっているからだ。さらに、(2)東日本大震災以降のBCP(事業継続計画)重視の中で、大規模優良ビルの耐震性などの防災性能や、非常時のバックアップ体制への評価が高まったこと、(3)テナント企業によるオフィスのビル集約・ワンフロア集約等の要望から大規模ビルへの需要が増加したこと、(4)省エネ性能など高機能ビルへの評価が高まったこと、(5)新築の大規模優良ビルは再開発や建替えによるものが多いため、移転により立地改善が図れることなども理由としてあげられるだろう。
   先日、オフィスビル運営・管理業務大手のザイマックスから「オフィスピラミッド2014」が公表された(図表参照)。いわば、オフィスビル版「人口ピラミッド」で、近年の、大規模ビルの供給増加と中小ビル供給の少なさを視覚的に確認できる。これによると、都区部に立地する中小ビル面積の79%は築20年以上を経過しており、大規模ビルの46%とは大きな違いとなっている。つまり、都区部中小ビルのほとんどが一世代以上前のビルといえる。



近年、ビル機能の進歩は著しく、築年の古いビルは最近のビルと比べると、設備面を中心に様々な点で見劣りがする。デザイン(外観・ロビー・内装)、視認性、天井高、執務空間の使いやすさ、耐震性、災害時対応、省エネ性能、空調設備、共用設備、防犯設備など枚挙に暇がない。特に東日本大震災以降は、耐震性能を含めたBCP(事業継続計画)対応や高い省エネ性能はオフィス選択の基本条件であり、それらも築年による需要格差を拡大させている。
   大規模優良ビルの大量供給がこれからも続くことを考慮すると、大規模ビルが中小ビルの需要を吸い上げる流れは今後も続くだろう。しかし、都区部中小ビルの稼働率は9割を上回っており、テナントのすべてが大規模ビルに移転するわけではない。最新の設備・構造・サービスを持つ数少ない高機能の中小ビルは、今後も市場の中で、高い競争力(低空室率・高賃料)を確保できると考えられる。特に、弁護士や税理士などの「士業」や、他社とフロアを共有化したくないIT企業などは、高機能の中小ビルに強い需要を持つと考えられる。大規模優良ビルでは、競合ビルの多くが築浅で様々な高機能を整備しているため、ビルの特徴を打ち出しづらくなっているのとは対照的である。高機能の中規模ビルでは、野村不動産のPMO(プレミアム・ミッドサイズ・オフィス)が先行してきたが、サンケイビルが新ブランドを立ち上げ、三菱地所レジデンスが中小ビルのリノベーション・コンバージョン事業へ進出するなど、中小ビル事業をめぐる新たな動きも続いている。
   中小ビル市場全体としては、今後も厳しい競争が続くと考えられる。しかし、好立地のビルを中心に、新築や修繕によって高機能を装備した中小ビルは、大規模ビルに対しても高い競争力を確保できるだろう。建築費の高騰が懸念材料であるが、現在、過熱といわれる活況が続き、投資適格物件の少なさが指摘される東京のオフィス投資市場において、「オフィスピラミッド」が示すいびつな築年分布は、競争力の高い中小ビル事業が中期的に有望であることを示しているように思われる。


 

 
 1 都心部に立地する延床面積1万坪以上、築年15年以内のビルのうち、設備や耐震性が優れた優良ビルを想定。
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