コラム
2014年07月14日

豊かな長寿に貢献する高齢者市場開拓を

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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(高齢者市場の動向)

本格的な超高齢社会の到来が刻々と迫るなか、あらゆる業界の各社は、「高齢者市場」を如何に開拓していくか、検討を重ね続けているのではないだろうか。実際、近年になるに従い、高齢者を意識した商品サービス、あるいは事業展開を行う事例は確かに増えてきている。その高齢者市場規模は2013年度の時点で「100兆円市場」にまで拡大したと推計される。今後も毎年1兆円の規模で拡大し続けていく見通しにあることに加え、世界各国の高齢化の流れも加味すると、将来的にはとてつもなく膨大な高齢者市場が待ち構えていると言える。

新たなビジネスチャンスとして捉えられる高齢者市場であるが、各社はどのようなアプローチを行っているのか。その一部を紹介すると、まずよく目に付く事例としては、高齢者のライフスタイルや意識、身体機能の変化に「配慮」した取組み(工夫)がある。例えば、(1)画面の文字を大きくし、操作機能の簡便化をはかった「シニア向け携帯電話」、(2)高齢者の移動をサポートする「電動アシスト自転車」、(3)買物の不便を解消し、高齢者の食を支える「宅食・配食サービス」、(4)腰の曲がった高齢者に適した衣服、着脱しやすいように前開きにした肌着の開発、(5)朝が早い高齢者を意識して営業時間を早める、店内のエスカレータの速度を遅くする、年金支給日に合わせたサービスを実施するなど様々なことが挙げられる。また、「創造的でユニーク」な事例も増えてきた。例えば、(1)高齢者が自らプランを設計して楽しむ「旅行」、(2)健康を意識した「健康カラオケ」や「健康マージャン」、(3)レトロな昭和の雰囲気を楽しめる居酒屋、(4)同窓会幹事代行サービス、(5)自分史づくりサービスなど。その他、単身者・高齢者を意識したコンビニ・スーパーの「お惣菜の充実」や「デザートの工夫」、少し高価でも質を重視する高齢者に好評な「プレミアム商品」やお酒に弱くなった高齢者に好まれる「ノンアルコール・ビール」の充実といったことも高齢者を意識した取り組みと言えるであろう。さらには、社会(政策)の要請に応える形での、「サービス付高齢者向け住宅」の建設や、介護ロボット(自動排泄処理ロボット等)や小型電気自動車の開発も、高齢者市場に含まれるものと言える。


図表1:高齢者市場開拓の動向(事例)


(高齢期のニーズの「塊」)

充実の方向にある高齢者市場であるが、生活者の高齢期のニーズ、あるいは将来不安に対して、市場(企業)はどこまで応えているであろうか。高齢者(高齢期)のニーズや不安は、極めて多様なことが挙げられるが、“より良く生きる”という根源的ニーズに照らすと、高齢期には次の5つのニーズの「塊」が存在している(筆者のジェロントロジー研究より)。それは、(1)健康であり続けたい「健康長寿・虚弱化予防ニーズ」、(2)高齢期も活躍し続けたい「社会参加・セカンドライフ創造ニーズ」、(3)身体が弱っても日々を楽しく過ごしたい「虚弱期の楽しみ追究ニーズ」、(4)身体・感覚機能の変化(老化)から生じる様々な困りごと(不便や不満等)を解消したい「不の解消ニーズ」、(5)医療や介護サービスが必要になっても最期まで住み慣れた自宅で暮らし続けたい「在宅生活支援ニーズ」である。下図は、年齢とともに変化する「生活自立度」のデータに、前述のニーズの塊を付置したものであるが、年齢や身体の状態に応じて、ニーズも変化していくのである。


図表2:高齢者(高齢期)の根源的ニーズの「塊」


(高齢者のニーズに応える市場開拓の必要性と期待)

これらの5つのニーズに対して、(1)「健康長寿・虚弱化予防ニーズ」と(5)「在宅生活支援ニーズ」については、公的サポートも含めて市場は一定程度、充実してきたと言える。しかし、(2)~(4)のニーズへの対応は、まだまだ不足な状況にある。現役生活をリタイアした後、「やることがない、行くところがない、会いたい人がいない」と“ない・ない”づくしのために、自宅に閉じこもりがちな生活を送る人が少なくない。人間誰しも楽しいことを求めるが、それは80歳、90歳になっても同じである。しかし、そうした年齢の高齢者向けの商品サービスは、安心やサポート面ばかりが注目され、楽しみを提供する商品サービスはあまり目にすることがない。また身体が弱ってきたときの日々の生活は、困りごとが山積している。手先が不便なこと、身体が硬くなったこと、ひざ・腰が痛いこと、色の識別が低下したこと等から生じるミクロな困りごとは、筆者が調査しただけでも300を数える。高齢者(高齢期)の安心で豊かな生活の実現には、まだまだ社会が手を差し伸べるべきことが数多く存在しているのが実態である。

ただ、このように満たされないニーズが多いことは、逆に言えば、市場開拓のチャンスが数多く存在していることでもある。だからこそ、市場を形成する各社においては、そのチャンスを活かすためにも、改めて高齢者の実態を見つめ直し、潜在化・顕在化しているニーズに対し自社ができること、また1社単独では対応できないニーズについては他社との連携を含めて対応の可能性を探ることが望まれる。これまで市場開拓の視点から述べているが、上記の満たされないニーズは決して他人の話ではない。これらのニーズを満たしていくことは、企業の市場開拓の取組みであるとともに、私たちすべての国民の豊かな長寿に貢献することでもある。自分自身の豊かな長寿のため、企業の繁栄のため、引いては日本経済の発展のために、各業界の各社が、前述のニーズに応える視点から高齢者市場を積極的に開拓されることを大いに期待したい。


 
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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2014年07月14日「研究員の眼」)

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