2014年07月07日

配偶者控除は見直しを

松浦 民恵

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安倍政権が公表した「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日)では「女性の活躍推進」の必要性が強調され、そのための環境整備として「働き方の選択に関して中立的な税制・社会保障制度の検討を行う」とされている。これを受けて、2014年5月9日の政府税制調査会において、配偶者控除の見直しに関する議論が本格的にスタートした。
   配偶者控除とは、納税者本人の配偶者の収入が103万円以下の場合に、納税者本人に適用される所得控除を指す。たとえば、妻の年収が103万円以下であれば、夫に対して配偶者控除38万円が適用され、その分夫の手取り収入が増えることになる。また、妻のほうも、給与所得控除65万円、基礎控除38万円が適用されることから、年収103万円の範囲であれば所得税を支払う必要がない。なお、妻の年収が増加したにもかかわらず、世帯としての手取り収入が減少するという逆転現象を解消するために、妻の年収が103万円から141万円までの場合には、夫に対して、段階的に低減する配偶者特別控除(最高38万円)が適用されている(妻の年収141万円になると特別控除額はゼロになる)。また、税制とは別の話だが、年収130万円以上になると社会保険(厚生年金保険、健康保険)の被扶養から外れ、社会保険料の本人負担が発生する
   こうした仕組みが就業調整の誘因となることから、配偶者控除は「103万円の壁」、社会保険料の被扶養枠は「130万円の壁」と呼ばれている。
   就業する日数や時間による就業調整が特に顕著なのはパートタイム労働者である。厚生労働省「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」によると、配偶者がいる者のうち18.3%が就業調整を実施しており、そのうち33.1%が「一定額を超えると配偶者の税制上の配偶者控除が無くなり、配偶者特別控除が少なくなるから」を理由としてあげている。ちなみに女性雇用者(役員を除く)の34.6%はパートタイム労働者であり、パートタイム労働者の89.2%を女性が占める(総務省「労働力調査」、2012年平均)。
   配偶者控除が最初に導入されたのは1961年。伝統的な日本型雇用システム(終身雇用、年功序列、企業別組合等)が高度経済成長を牽引したとされる時代である。男性は仕事、女性は家庭という伝統的家族観も、こうした日本型雇用システムと表裏のものとして発展してきた。つまり、女性労働力は、男性正社員を中心とした日本型雇用システムの外枠として、安価な補助的・縁辺的労働力を確保できる限りにおいて企業に重宝され、家庭においては、主婦としての役割を疎かにしない範囲で働くことが許容されていた面が大きい。
   しかしながら、昨今の労働力人口の減少下において、男性正社員だけを念頭に置いた日本型雇用システムは立ち行かなくなりつつあり、女性を単に補助的・縁辺的労働力としてではなく、中核人材としても活躍してもらう必要性が高まるなか、冒頭に述べたように政策として女性の活躍推進が謳われている。このようななかで、年103万円の範囲内での活躍に誘導するような政策を存置するのは、政策の一貫性という面でも矛盾する。配偶者控除は、今日的な意義という観点から撤廃の方向で見直されるべきだと考える。
   もちろん、単純に「103万円の壁」が解消されるだけで、女性の就業が促進されるわけではないだろう。待機児童の解消をはじめとする保育園の整備、長時間労働を前提とした働き方の見直し、再就職市場における仕事とのマッチング等、多面的な就業支援をあわせて行っていく必要がある。
   また、専業主婦の就業もしくは103万円の範囲で働いてきた女性の就業拡大に伴い、これまで彼女達が担ってきた役割(家事や育児、地域活動等)を、誰がどう分担するかについても、改めて考える必要がある。彼女達に対して、働きに出てもいいけど、他の家族や地域の関係者等に一切負担をかけない範囲でどうぞ、というのは無茶な話である。配偶者控除の見直しの問題は、男女ともに、社会全体に、広く影響が及ぶ問題として認識されるべきである。


 

 
 1 夫の収入が低い場合、妻に配偶者控除が適用される場合もあるが、本稿では、一般的なケースとして妻の収入のほうが夫より低いケースを想定して記述する。
 2 ここでの記述内容は、所得税に関するもの。
 3 「国民年金法等の一部を改正する法律」により2016年10月以降は、以下の要件(学生は適用除外)に合致すれば社会保険が適用されることになる。
   ・所定労働時間が週20時間以上
   ・月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
   ・勤務期間1年以上
   ・従業員数501人以上
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