コラム
2014年06月30日

日本銀行の長期国債買入れがイールドカーブに与えた影響

  大山 篤之

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2010年10月5日、日銀は「包括的な金融緩和政策の実施」を公表し、資産買入等の基金を創設した。そして、この基金が廃止される2013年3月末までに28兆円の長期国債を段階的に買入れた。更に、同年4月4日、日銀は黒田東彦総裁のもと、アベノミクスの金融政策の柱でもあった異次元の金融緩和「量的・質的金融緩和」の導入を決定する。具体的には、消費者物価の前年比上昇率2%を安定的に実現することを掲げ、(1)マネタリーベース及び長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、(2)長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上(7年程度)に延長する、というものであった。

一連の金融緩和政策により日銀が保有する国債の額は、発行残高全体(2014年3月末時点で998兆円)の20%程度にあたる201兆円に達し、生損保が保有する国債の額を上回る規模となった。また、異次元の金融緩和策導入以降、国債の買入れを急いだため(国債発行額の約7割に当たる7兆円程度を毎月買入)、日銀の国債保有残高は5年・10年・20年・30年の新発債を中心とした偏った分布となっている(図表1)。

では、日銀のこうした投資行動は、イールドカーブ(利回り曲線)に、どのような影響を与えたのだろうか?そこで、満期までの残存期間が5年、10年、15年、20年、30年の金利及び、日銀が長期国債を買入れ始めた2010年10月以降に焦点を当てて、簡単な分析をしてみよう。

実は、2010年10月以前、イールドカーブを構成する要素(水準を除く)に大きな差異はなく、それらの要素でイールドカーブを十分に補間(この金利を理論値とする)できていた(図表2)。しかし、2010年10月以降、事態は一変する。イールドカーブ全体の理論値と実績値の差を示す乖離誤差は大きく拡大しはじめる。リスク管理手法の導入が引き金になったVaRショックやサブプライムローン問題発生時においても、それほど大きな乖離誤差は見られなかったことを鑑みると、2010年10月以降の乖離誤差急拡大の主要因は、流通している新発債(特に5年10年)を中心とした日銀の大量購入の結果と考えられる。特に、10年金利の相対的(対 他年限の金利)な金利水準は、過去に例を見ないほど下振れし、10年金利の理論値と実績値の乖離幅は15bpにも達する(図表3)。

異次元の金融緩和策導入直後、乱高下した金利も今年に入り、妙な静けさを取り戻した。しかし少なくとも平時には存在しないプレーヤーが債券市場を強く制御している点は意識しなくてはならない。金融緩和が終結されるとき、市場は動揺し、金利は再び乱高下しながら今度は上昇に転じよう。さらに、イールドカーブは一様に上昇するわけではなく、押さえ込んでいた10年金利の反発は特に顕著なものとなるだろう。日銀はこうした各金利の動きにも気を配り出口戦略を策定する必要があり、相当難しい舵取りを迫られることは間違いなさそうだ。


図表1:残存年数別日銀国債保有残高(2013年3月末・2013年9月末・2014年3月末)


図表2:実績値(5・10・15・20・30年金利)と 理論値及び、その乖離誤差/図表3 各年限金利乖離幅(実績値 ? 理論値)


 
  横軸が残存、縦軸が利回りの曲線のことで、ここでは国債のイールドカーブについて言及している。
  各金利の実績値に最も当てはまるように要素(形状)を組合せて曲線(イールドカーブ)を作成するため、あくまでも各金利水準の相対比較に適した値である点に留意してほしい。
  ここでいう乖離誤差とは、各金利の「理論値 – 実績値」の2乗の総和。
  5年金利が相対的に上振れしているのは(図表3)、5年金利(実績値)が既に下限に達している可能性を示唆する。

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