コラム
2014年05月12日

真の不確実性-不安は、どこから芽生えるのか?

保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   篠原 拓也

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私たちは、日々、何らかのリスクを抱えながら生活している。例えば、朝起きてから夜寝るまでの間に自分の身の回りで発生する出来事がすべてあらかじめわかっていて、実際にその通りのことが起こるという人はいないであろう。新聞や雑誌で、経済・金融関連の記事を見れば、「リスク管理」、「リスク評価」「リスク回避」等々、リスクという言葉が踊っていて、企業等も常にリスクと向き合っていることがわかる。

リスクとは、何だろうか。様々な定義が考えられるが、一般的には、ある行動や選択を行った場合に危険に遭ったり損失を被ったりする可能性、といった定義があてはまるのではないだろうか。生命保険はまさにリスクへの対処を図るためのもので、例えば加入者が一定の期間内に、死亡したり、病気にかかったりした場合に、生命保険会社が保険金や給付金を支払うことで、保険加入者の経済的な不利益を回避する手段として役立っている。

さて、ここで、行動経済学の分野では有名な「エルスバーグの逆説」という話を紹介したい。

2つの壷を考える。壷Aには、大きさ・形が同じである黒い玉が50個、白い玉が50個入っている。壷Bには、大きさ・形が同じである黒い玉と白い玉が合わせて100個入っているが、色の内訳はわからない。どちらかの壷を選んで、玉の色を予言して、目をつぶってその壷の中から1つ玉を取り出す。取り出した玉の色が予言通りだったら、賞金がもらえる。このような場合、どちらの壷を選ぶか、という問題である。


壷A(黒・白各50個)/壷B(白・黒合わせて100個)


壷Aは100個のうち50個ずつ黒い玉、白い玉が入っているのだから、どちらの色を予言しても、確率0.5で予言通りとなる。壷Bは色の内訳がわからないが、例えば「黒が70個、白が30個」の場合と、「黒が30個、白が70個」の場合は、お互いにちょうど逆の場合であり、どちらも同じだけの可能性がある。ここで、「取り出す玉は白」と予言したとする。このとき、白が30個の場合は確率0.3で予言通りとなり、白が70個の場合はその確率は0.7となるため、平均的には、確率0.5で予言通りの白い玉を取り出すことになる。「取り出す玉は黒」と予言したときも同様であり、どちらの壷を選んでも賞金をもらえる可能性は同じ、というのが計算から示される結論である。

しかし、感覚的にはどうであろうか。人々にどちらを選ぶかを試した過去の実験によると、壷Aを選ぶ人が多かったという。壷Aのように玉の内訳がわかっていると、人は安心して玉を取り出せるが、壷Bのように内訳がわからないと人は不安を感じるのではないだろうか。例えば、壷Bを選んで、予言をしても、そもそも予言した色の玉が1つも入っていないのではないか、といった不安を感じるのかもしれない。このように、人間心理は、わからないよりもわかる方が安心できるので不確かなことを回避するように働く、というのが「エルスバーグの逆説」の内容である。

わからないことには、2つの種類がある。フランク・ナイトという経済学者が100年近く前に唱えたことだが、どのような確率で物事が発生するか、即ちどのように確率が分布しているかがわかっているものを「リスク」と呼び、確率の分布さえもわかっていないものを「真の不確実性」と呼ぶ。真の不確実性は、例えば被害や損失の底が見えない不安であり、そこから人々は疑心暗鬼にかかったり、猜疑心に取り付かれたりする。2008年のリーマンショックは、真の不確実性の典型と言われている。アメリカの住宅バブル崩壊を発端として、サブプライムローンを証券化した金融商品を大量に抱えた金融機関が破綻し、他の金融機関も連鎖的に経営危機に陥った。これは何回も証券化によりリスク移転を繰り返す中で、金融商品の信用構造がわからなくなり、金融不安が生じたものと考えられる。

今度は、先ほどの壷の問題で、壷Aや壷Bとは別の、壷Cを考える。壷Cには、大きさ・形が同じである黒い玉または白い玉が入っているが、全部で何個入っているかも、その色の内訳もわからない。この壷Cは選ぶ気になるだろうか。計算上は、壷Cで、予言通りの色の玉を取り出す確率も0.5となる。しかし、感覚的には、壷Cはわからないことが多くて、選びにくいのではないだろうか。


壷C(黒・白合わせて何個か不明)


日々の生活の中で、リスクと向き合うときには、何がわかっていて何が不明なのかを明らかにして、様々な情報を吟味することで真の不確実性を減らす努力をした上で、リスクの程度がどのくらいなのかを見極めることが、大切だと考えるが、いかがだろうか。

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保険研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品、保険計理

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