2014年05月09日

企業における女性活用の変遷と今後の課題

松浦 民恵

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1―はじめに~本稿の目的

1│再び注目が集まる女性活用

政府の成長戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」でも「女性の活躍推進」の重要性が強調されるなか、企業のなかにも、自社の女性活用を見直し、女性の管理職や役員への登用を加速させようとする動きがみられる。一方で、女性活用は、「古くて新しいテーマ」と揶揄されるように、過去にも注目された経緯があり、多くの企業が取り組んできたにもかかわらず、いまだ十分な成果があがっていない。
   今後、企業が自社の女性活用を見直すに当たって、これまでどのような女性活用の取組が行われてきたのかを理解しておくことは重要である。そこで、『労政時報』(労務行政)に掲載された事例を通じて、企業における女性活用の変遷を振り返り、今後の課題について考えてみたい


2│対象とする時代と分析の視点

本稿では、男女雇用機会均等法の施行により男女別の雇用管理が規制され、企業の女性活用政策の大きな転換点となった1986年以降を対象として、女性正社員に対する企業の取組をみていく。
   また、女性活用に関する法制度や企業の動きを踏まえて、1986年以降を「第一の時代」(1986年~1999年)、「第二の時代」(2000年代)、「第三の時代」(2010年代)に区分し、各時代について、企業の事例と背景や特徴を概観する。
   なお、企業の事例は、仕事と家庭の「両立支援」と、雇用管理における男女の「均等推進」に分け、さらに前者を「両立支援制度の導入・充実」「両立しやすい職場環境の整備」、後者を「コース別雇用管理」「女性の育成・登用」と、4つのカテゴリーに区分して整理する。


2―各時代の背景と特徴

1│第一の時代(1986年~1999年):法対応としての女性活用のスタート

男女雇用機会均等法は、労使の強い抵抗を経て1986年にようやく施行に至った。均等法に対応するために、当時、男女の雇用管理が特に大きく異なっていた大企業において、現実的な選択肢として採用されたのが、コース別雇用管理制度(たとえば「総合職」と「一般職」等)の導入である。つまり、「女性総合職」に限って、「男性総合職」と同等の雇用管理が適用された。1986年の均等推進の事例をみても、コース別雇用管理制度が数多く掲載されており、従来男性のみが担当していた仕事に女性総合職が進出する動きが読みとれる。
   また、1992年の育児休業法の施行にともない、両立支援の事例として、法施行に先駆けた、あるいは法を上回る育児休業制度の事例が掲載されている。ただし、育児休業法の施行に対しても、特に企業側の抵抗が大きかったなか、全体としては、大部分の企業の育児休業制度が法定通りの内容にとどめられた。また、第一の時代には、「両立しやすい環境整備」に関する掲載事例はほとんどなく、制度を利用しやすい環境整備にまで、企業の関心が及んでいなかった様子がみてとれる。
   このように両立支援については、最低限の制度で利用もしにくい状況であったうえ、均等推進における初の女性総合職活用の混乱もあいまって、女性総合職の定着は進まず、いわゆる均等法世代の多くが初期キャリアにおいて退職してしまった。
   第一の時代における女性活用は、それまでの男女別の雇用管理に風穴を開けるという意味では一定の成果があったが、男性と同等の雇用管理が適用された「女性総合職」をはじめとする女性社員が十分に定着しなかったという面で、「挫折」を経験したといえよう。そして、この「挫折」を通じて得られた教訓が生かされないまま、1990年代後半には女性活用に関する掲載事例が激減し、女性活用への企業の関心が低下している様子がみてとれる。


2│第二の時代(2000年代):少子化を背景とした両立支援の前進

少子化への危機意識が高まるなか、2000年代には仕事と家庭の両立支援に関する法制度が急ピッチで整備された。
   少子化による市場の縮小や労働力人口の減少に対する危機感から、法整備に対する企業側の抵抗は第一の時代に比べて少なく、第二の時代においては、法を上回る両立支援を行う企業が少なからず出てきた。最低限の育児休業制度等しかなかった企業では充実が図られ、すでに制度が整備されていた企業では制度を利用しやすい職場環境整備が進められた。
   一方、第二の時代に掲載されている「女性の育成・登用」に関する事例は非常に少ない。この要因として、第二の時代には、少子化への危機感の高まりのもと、女性活用のなかでもとりわけ両立支援が重視されたことがあげられよう。また、第一の時代においても「女性の育成・登用」面の課題があったものの、十分に分析、改善されないままに、一時期(1990年代後半)、企業の女性活用に対する関心そのものが低下してしまった。つまり、第一の時代における均等推進上の教訓が、第二の時代に十分に生かされなかったと考えられる


3│第三の時代(2010年代):両立支援と均等推進の両輪連動の模索

第二の時代に両立支援のために制度の充実や職場環境の整備を進めた企業においては、育児休業制度や短時間勤務制度等の利用者が増加し、女性社員の定着が進んできた。一方で、このような企業においては、新たな課題として、女性社員ばかりが制度を利用し、さらに利用期間が長期化することによるキャリア形成の遅れが指摘されるようになってきた。つまり、せっかく女性社員の定着が進んでも、十分な活躍ができていないという、均等推進の面での課題が改めて浮かび上がってきた。
   このようななか、充実した制度の最大限の利用を前提とするのではなく、制度利用に当たって、キャリア形成への影響も含めた制度利用のメリット・デメリットを考慮することを社員に求めるなど、両立支援と均等推進の両輪をうまく連動させることで、効果的な女性活用を実現しようとする企業の事例が目立ってきた。
   また、第三の時代には、労働力人口の減少に加え、国内外での企業間競争の激化が一層進むなか、人事戦略、さらには経営戦略の観点から、女性活用が論じられるようになってきた。その結果として、女性社員の育成に重要な役割を果たす管理職向けの研修、メンター制度、女性社員同士のネットワーク形成支援など、女性社員の管理職登用や管理職としての活躍を、具体的に後押しするような支援が、重点的に展開されてきたと考えられる。


3―変遷の振り返りと今後の課題

第一の時代においては、女性活用に関して、法律で求められる範囲で最低限対応しておこうという企業が少なくなかった。第二の時代に入ってからは、少子化への危機感が高まるなかで、特に両立支援に対して前向きな対応をとる企業が増加してきた。第三の時代は、両立支援と均等推進の双方が重視され、これらを連動させることを通じて効果的な女性活用を模索する動きが顕著になってきた[図表1]。
   つまり、企業における女性活用は、第一の時代は法対応、第二の時代は少子化というように、それぞれの時代背景を色濃く反映した結果、課題発見と改善の連続的な取組がなされてこなかった。管理職に占める女性の割合が低水準にとどまるなど、女性活用の成果が十分でない現状にあるのは、こうした連続性のなさが一因となっている可能性が高い。
   最後に、いずれの時代にも本質的課題として女性活用を阻んでいるのは、多くの男性にみられる、長時間労働と、家庭における育児等の役割の小ささであることを付記しておきたい。関連する最近の取組として、男性の育児休業100%の目標を掲げて達成した日本生命、割増賃金(50%)を朝9:00まで拡大して早朝勤務へのシフトを進める伊藤忠商事などが注目される(いずれも各社資料より)。女性活用の課題解決に向けた本丸は、実はこうした男性活用の変革なのである




 

 
 1 本稿での考察においては、東京大学社会科学研究所ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト(代表:佐藤博樹東京大学教授)での活動・議論が大いに参考になった。記してお礼申し上げる。
 2 本稿の詳細は、http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2013/report140131.htmlを参照されたい。
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