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- 「子育て」と「介護」の共通点-“ケア”が育む持続可能社会
高齢者の場合、確かに日ごとにできないことが増えてくる。耳も遠くなり、動作なども緩慢になる。しかし、それは逆に残された能力で何ができるかを発見することでもある。「子育て」とは、子どもの潜在能力を伸ばすための“ケア”であり、「介護」とは、高齢者に残された能力を活かすための“ケア”であると捉えると、「子育て」と「介護」には重要な共通点があるようだ。
転落事故による脊椎損傷のために下半身が不自由になった若い男性の話を聞いたことがある。彼はケガをした当初、病院で「あれもできない、これもできない」と、できないことを列挙されたという。その後、アメリカの病院でリハビリを受けた彼は、下半身が不自由でも「何ができるのか」を毎日考えさせられ、残された能力を最大限に活かして生きることを教わったという。
現在、日本の認知症患者は462万人と高齢者の約15%に当たる。認知症になるくらいなら、ある日、“ポックリ”逝きたいと考える高齢者も少なくないだろう。しかし、認知症になっても、周囲の適切な“ケア”があれば、残る能力を活かして自分らしく生きることが可能だ。高齢期にも、「できることは何か」を求め続けることが重要であり、それは生きる上で大きな喜びを与えてくれるだろう。
五木寛之さんは著書「大河の一滴」(幻冬舎、1998年4月)の中で、『人間が生まれてくるのに十カ月かかるのならば、死んでゆくにもやっぱり十カ月ぐらいかかるのではないかな、(中略)死が完成するために私たちは誕生と同じように、十カ月や一年ぐらいの時間を必要としているのかもしれない』と記している。やはり人生の両端(生と死)には、同程度の“ケア”のプロセスが必要なのかもしれない。
誕生した人間は、社会の多くの人の手を借りてさまざまな能力を獲得し、やがて年を重ねて高齢者になり、加齢による肉体的・精神的衰えを感じながら、自分の“老い”と向き合うことになる。老いるプロセスは、生まれ育つプロセスと同様に、本人にも周囲の人にもきわめて重要な意味を持つのだ。人間は「子育て」や「介護」という人を“ケア”することで大きく成長する。その世代間に受け継がれる“ケア”する経験が、新たな生命を次世代へと引き継ぎ、持続可能社会を育むのではないだろうか。
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2014年04月21日「研究員の眼」)
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