コラム
2014年04月14日

依然として遅れをとる若年雇用~若年層で「リア充」「ソロ充」が増えるのはいつ?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

現実の生活が充実していることを「リア充」というのは、わりと有名だと思うが、そこから派生して、一人の生活が充実していることを「ソロ充」というらしい。ソロ(一人)で、自由気ままに、趣味や食事などを楽しんでいる様子を指し、一人でいることを前向きにとらえた言葉だ。

確かに、現在の日本は「ソロ充」を楽しむような未婚層が拡大している。2010年の生涯未婚率は男性が20.1%、女性が10.6%。男性の5人に1人、女性の10人に1人は一生未婚という世の中だ

そんな中、「おひとりさま」を意識した商品やサービスも増えている。例えば、飲食業界では「一人焼肉」や「一人鍋」などのサービスが出ているし、家電業界では一人暮らしで利用しやすい「プチ家電」が人気のようだ。また、雑誌不況の中で、40歳前後の独身女性をメインターゲットとしたファッション誌も創刊されており、「おひとりさま」マーケットには注目が集まっている。

しかし、今後も未婚層が拡大していくのかというと、必ずしもそうとは言えないようだ。

現在、18~34歳の未婚者の9割は「いずれ結婚したい」と思っており、この10年で「ある程度の年齢までには結婚したい」という意識も高まっている。若年層の大半には結婚の意識があり、しかも、結婚に対する先延ばし意識は薄まっている。

それでは、なぜ結婚しないのかというと、その大きな要因の1つには、近年の経済環境の厳しさがある。若年層では1990年代から非正規雇用者が増えている。正規・非正規という雇用形態によって恋愛や婚姻の状況は異なり、男性の既婚率は年収に比例する。年収300万円未満では既婚率は1割に満たないが、300万円を超えると一気に3倍に跳ねあがる。なお、非正規雇用者の平均年収は、いずれの性年代でも300万円を下回る。必ずしも経済状況が精神的な充実につながるわけではないが、もしかしたら「おひとりさま」でも「ソロ充」を楽しめていない若者も多いのかもしれない。

実は、「おひとりさま」マーケットには、充実した日常生活を送るための商品やサービスだけでなく、「脱法ハウス」といった厳しい経済状況が起因する問題のあるものも存在する。都市部の「脱法ハウス」には、職に恵まれずに住む場所を確保できない若者が多いそうだ。

「おひとりさま」であれ家族を持つ生活であれ、将来を担う若者たちが充実した生活を送るためには、厳しい状況にある若年層の雇用対策が喫緊の課題だ。

昨年から日本経済は活気づいている。春の労使交渉では正規雇用者の賃上げだけでなく、非正規雇用者の待遇改善もみられた。また、失業率も改善傾向にあり、昨年末の有効求人倍率は1.03で、6年3ヶ月ぶりに求人数が求職者数を上回った。しかし、若年層で依然、失業率が高く、非正規雇用者が多い状況は変わっていない(図1・2)。むしろ非正規雇用者は、やや増えているようだ。

まずは「ソロ充」な若者が増えるためにも、若年層の雇用環境の改善が強く望まれる。


完全失業率の推移/雇用者に占める非正規雇用者の割合の推移



 
 1 国立社会保障人口問題研究所「人口統計資料集(2014)」 なお、生涯未婚率は50歳時点での未婚率であり、厳密には生涯未婚者ではない。
 2 「パナソニック、食器洗い乾燥機「プチ食洗」(ロングセラーに挑む)」(2013/10/17 日経産業新聞8面)他多数。
 3 国立社会保障人口問題研究所「出生動向基本調査」
 5 建築基準法や消防法に違反しているようなシェアハウス。経済的な理由から、一般的な賃貸住宅を契約できない若者などの利用が多い。(参考:「(都知事選2014 論点を問う)貧しき若者の憂い」(2014/02/04 朝日新聞 朝刊 38面)他。)
 6 「三菱UFJ銀:非正規5000人が労組加入 待遇改善目指し」(2014/04/05 毎日新聞 朝刊7面)、「ユニクロ1.6万人正社員化 地域限定 雇用改善、囲い込み」(2014/03/20 産経新聞 朝刊2面)、このほか日本郵政や全日本空輸の報道も有り。
 7 総務省「労働力調査」
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2014年04月14日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【依然として遅れをとる若年雇用~若年層で「リア充」「ソロ充」が増えるのはいつ?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

依然として遅れをとる若年雇用~若年層で「リア充」「ソロ充」が増えるのはいつ?のレポート Topへ