2014年04月07日

2014・2015年度経済見通し

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―内需主導で回復する日本経済

2013年の日本経済を振り返ると、実質GDPは年前半に年率4%台(1-3月期:前期比年率4.5%、4-6月期:同4.1%)の高成長を記録した後、年後半には年率1%以下(7-9月期:同0.9%、10-12月期:同0.7%)にまで減速した。国内需要は年間を通して総じて堅調だったが、大幅な円安にもかかわらず輸出が伸び悩む一方、国内需要の堅調を背景に輸入が高い伸びとなったため、外需が年後半の成長率を大きく押し下げた。
   国内需要の内訳を見ると、雇用・所得環境が持ち直す中、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が加わり、個人消費、住宅投資が好調に推移し、2012年度末に策定された10兆円規模の補正予算の効果から公共投資も高い伸びを続けた。一方、企業収益が大幅に改善していることからすれば設備投資の回復ペースは緩やかなものにとどまっている。
   内閣府の「企業行動アンケート調査」によれば、2012年度の海外現地生産比率(製造業)は20.6%と前年度から3.4%上昇し、5年後には25.5%まで上昇する見通しとなっている。この1年で大幅な円安が進んだにもかかわらず海外生産シフトに歯止めがかかる兆しは見られない。生産拠点を海外に置く理由としては、「現地・進出先近隣国の需要が旺盛又は今後拡大が見込まれる」を挙げる企業の割合が近年大きく上昇しており、2013年度調査では50.8%となった。このことは、国内外の成長率格差が広がったままでは、円安基調が続いたとしても設備投資の国内回帰が進みにくいことを意味している。企業収益の大幅改善を受けて設備投資は徐々に伸びを高めることが見込まれるが、企業の国内に対する成長期待が高まることによって設備投資の回復が本格化するまでには時間を要するだろう。
   2四半期続けて成長率を大きく押し下げた外需は、2014年1-3月期もマイナスとなる可能性が高い。輸出は持ち直すものの海外生産シフトなどの構造要因もあって高い伸びが期待できないことに加え、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響から輸入の高い伸びが続くことが見込まれるためである。一方、設備投資が持ち直しの動きを続ける中、個人消費が増税前の駆け込み需要を主因として極めて高い伸びとなることから、国内需要の伸びは大きく加速するだろう。外需のマイナスを国内需要のプラスが大きく上回ることにより、2014年1-3月期は前期比年率5.1%の高成長になると予想する。この結果、2013年度の実質GDP成長率は2.3%になると見込まれる。


2―実質成長率は2014年度0.5%、2015年度1.1%を予想

消費税率が5%から8%へと引き上げられる2014年度に入ると、駆け込み需要の反動を主因として成長率はいったん大きく落ち込む可能性が高い。2014年4-6月期は個人消費、住宅投資の減少を主因として前期比年率▲5.4%の大幅マイナス成長になると予想する。
   買い替えサイクルが長い住宅投資の反動はしばらく続く可能性が高いが、個人消費の反動減は比較的短期間で終了することが見込まれる。2014年7-9月期には反動減の影響が薄れていくにしたがい個人消費が増加に転じることなどからプラス成長に復帰し、景気の回復基調は維持されるだろう。また、2013年度は成長率に対してマイナス寄与となる外需は、輸出の伸びが緩やかにとどまるものの、国内需要の減速を背景に輸入の伸びが低下することから、2014年度は成長率の押し上げ要因となるだろう。実質GDP成長率は2014年度が0.5%、2015年度が1.1%と予想する。


■注目される賃金動向

個人消費の先行きを見極める上で鍵を握るのは2014年度入り後の賃金動向だ。好調な企業業績、政府による賃上げ要請などを受けて、企業は賃上げに前向きの姿勢を見せ始めている。
   労務行政研究所が労・使の当事者および労働経済分野の専門家を対象に実施している「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2014年の賃上げ見通しは、全回答者540人の平均で2.07%となり、厚生労働省の2013年主要企業賃上げ実績の1.80%を0.27ポイント上回った。同調査の予測と厚生労働省の実績値との差はそれほど大きくないため、2014年度の賃上げ率が2001年度以来13年ぶりの2%台となることはほぼ確実と言えるだろう。
   賃上げ率には1.6~1.8%程度とみられる定期昇給分が含まれていること、雇用の非正規化が続いていることが、労働者一人当たりの平均賃金の押し下げ要因となっていることには留意が必要だが、2014年度の所定内給与(一人当たり)は2005年度以来、9年ぶりに増加することが予想される。
   所定内給与以上に期待が持てるのは、特別給与(一時金、賞与)の増加だ。大幅な円安が輸出関連企業の業績を大きく押し上げていることに加え、個人消費、住宅投資といった国内需要の好調を受けて非製造業の収益も大きく伸びている。経常利益が過去最高を更新する企業が相次いでいることもあり、2014年度の特別給与は幅広い業種で増加することが予想される。ここにきて消費者物価上昇率が高まっていることが実質賃金を押し下げているが、その一方で企業が実質賃金を抑制していることが雇用者数の伸びにつながっている面もある。2013年10-12月期の雇用者報酬は前年比1.6%となったが、一人当たり賃金(現金給与総額)が前年比0.4%の伸びにとどまる一方、雇用者数が前年比1.2%の高い伸びとなったことが、全体の伸びに大きく寄与した。
   雇用者報酬の伸びは2013年度が前年比1.5%、2014年度が同1.9%、2015年度が同1.7%と予想する。その内訳をみると、2013年度はその大部分が雇用者数の伸びによるものとなるが、2014年度以降は一人当たり賃金の寄与が高まることになるだろう。
   2014年度の個人消費は反動減の影響が大きいことから前年比でマイナスとなることは避けられないが、雇用・所得環境の改善が下支え要因となり、個人消費の腰折れは回避されるだろう。


■貿易収支、経常収支の見通し

貿易収支は東日本大震災以降、3年近くにわたって赤字が続いている。2014年1-3月期は駆け込み需要に伴う輸入の増加を主因として赤字幅がさらに拡大する可能性が高い。2014年度に入ると消費税率引き上げ後の国内需要の減速に伴い輸入の伸びが低下するため貿易収支は改善に向かうが、貿易赤字が解消するまでには至らないだろう。
   貿易赤字の拡大を主因として経常収支の黒字幅は急速に縮小している。2013年10-12月期の経常収支は0.2兆円(季節調整済・年率換算値)とかろうじて黒字を確保したが、2014年1月は▲7.1兆円の赤字となっており、2014年1-3月期は四半期ベースでも経常赤字に転落することが確実となっている。
   一方、多額の対外純資産と円安を背景に所得収支は大幅な黒字を続けており、2014年度に入ると貿易収支の赤字幅縮小に伴い経常収支は黒字に転換し、その後は緩やかな拡大傾向が続くと予想する。


■物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、円安による輸入物価の上昇を主因として2013年6月に前年比0.4%と1年2ヵ月ぶりの上昇となった後、上昇ペースが加速し2014年1月には前年比1.3%となった。原材料価格上昇の直接的な影響を受けやすいエネルギー、食料品に加えて、耐久財やサービスなどでも上昇品目が目立つようになっており、物価上昇の裾野の広がりはより鮮明となっている。
   コアCPIは2013年度末までは1%台前半の伸びを続けた後、2014年度入り後には消費税率引き上げの影響が加わることにより、3%台前半へと伸びを高めるだろう。しかし、2014年度に入ると景気減速に伴い需給バランスが悪化することや円安効果の一巡から輸入物価の伸びが低下することにより伸び率は徐々に鈍化する可能性が高い。コアCPI上昇率は2013年度が前年比0.8%、2014年度が同3.0%(0.9%)、2015年度が1.6%(0.9%)と予想する(括弧内は消費税率引き上げの影響を除くベース)。


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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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