2014年04月07日

新しい酒は新しい皮袋に-経済成長に求められる変革

櫨(はじ) 浩一

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1-長期低迷脱出の兆し

日本経済は、失われた20年とも言われる長期低迷を続けてきたが、状況が大きく変わる兆しも見える。消費者物価は2014年1月には前年同月比1.4%の上昇となり、長年悩まされてきたデフレからの脱却も見えてきたようだ。
   一方、欧米では物価上昇率が低下し、日本のような長期経済低迷に陥るのではないかという不安が高まっている。昨年11月のIMFコンファレンスで、サマーズ元米財務長官が欧米はリーマンショック以前から長期停滞に陥っていたのではないかと発言したことは、論争を巻き起こしている。
   ITバブル崩壊後に金融緩和が長すぎたことが住宅バブルを引き起こしたと考えられているが、先進国経済が長期低迷に陥っているのであれば、深刻な失業問題を回避するためには再びバブルを起こす以外にないということになるからだ。


2-人口減少と経済発展

欧米に先駆けて人口減少局面に突入した日本で、市場の拡大が期待できないのであれば、欧米も早晩同じような状況に陥る恐れがある。いくら所得が増えても、一人の人間が食べる食事は1日三食で、四食、五食になるはずはないから、人口が減れば需要が減少するように思えるからだ。
   1930年代の大恐慌の中でアルビン・ハンセンは、人口増加や新領土、新資源の発見が枯渇することで経済発展が停滞するという長期停滞論を唱えた。一方シュンペーターは、創造的破壊というイノベーションこそが経済発展の原動力であると考えた。第二次世界大戦後の世界経済の発展を見れば、経済発展を非連続的なものだと考えたシュンペーターの方が正しかったように見える。
   アベノミクスの三本の矢のうちで、金融・財政政策については様々な意見があるが、第三の矢である成長戦略の重要性は衆目の一致するところだ。短期的な景気回復をどうやったら長期的な経済成長に結び付けられるかが、日本経済の大きな課題だ。


3-新しい酒は新しい革袋に

新しい産業や企業が生まれる一方で消えていくものがいることで、日本経済の新陳代謝が実現する。企業も新たな事業への進出や展開と、縮小する既存事業からの撤退をいかにスムースに行うかが大きな課題だ。
   選択と集中という言葉は言い古された感があるが、新しいことを始めるには、どこか古い部分を切り捨てざるを得ない。歴史もあり、慣れ親しんだものを捨て去ることは誰にとっても寂しいものだが、新しいものを手に入れるためには、避けて通れない道だ。長年の実績のあるやり方を変えるのは冒険であるが、冒険を避けていては、いずれ新陳代謝の機能が低下して老化が起こる。
   新しい酒は新しい革袋に盛れとも、新しい酒を古い革袋に入れるなとも言うが、これまでにない新しい考え方や手法を生かそうとすれば、それに応じた新しい様式や組織の在り方が必要だ。日本経済は第二次世界大戦後の成功体験を捨てて、新しい発想による成長戦略が求められるようになっているのではないだろうか。

さて御覧のとおり、今月号からニッセイ基礎研REPORTはデザインが一新された。入れ物が変わることが、中身のレポートに、これまでにはなかったような新しい発想や視点を育むきっかけとなるかも知れないと考えている。

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